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第1章

闇夜の密談①

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いつに無くとても豪華な夕食を、孤児院の子供達と食べ終えたその夜。皆が寝静まった頃、ガスは一人自室で本を読んでいた。部屋には、パラパラと本のページをめくる音と蝋燭が燃える音しかしない。

ーートントン

そんな時、部屋の扉が控えめに叩かれる。ガスは、特にそれに驚く事もなく、パタンと本を閉じると静かな声で返事をする。

「どうぞ、お入り下さい」

その声に、キィッと音を立てて扉が開き一人の人物が入って来た。蝋燭の灯りに照らされるサラリとした美しい金の髪に新緑の様な翠の瞳。そうして、人とは此処まで美しく生まれる事が出来るのかと思う程の美貌を持つ奇跡の様に美しい青年。王太子であるアレックスだ。

「この様な遅い時間に申し訳ありません」

そう言って、アレックスはガスに頭を下げる。

「殿下、顔を上げて下さい。貴方の様な高貴な御方が、軽々しく頭を下げてはいけません」

ガスは、そう言ってアレックスを嗜める。しかし、アレックスは首を横に振る。

「自身の王太子と言う身分の重みは、勿論知っています。ですが、貴方はこの国に平和をもたらした英雄です。治癒の賢者であるガス殿…貴方が居なければ、この国は戦争で滅びていたかも知れないのです。その英雄とも言える貴方に頭を下げずに、一体いつ頭を下げるのですか?」

その言葉に、ガスは苦笑いを浮かべる。

「…殿下の言う事は分かりました。ですが、それは最早遠い過去の栄光です。今は、しがない孤児院の歳をとった院長です。ですので、私に敬語など不要です」

見た目は40代後半程のガス。しかし、魔術師は魔力が多ければ多い程に老化が人よりも遅い。40代後半に見えても、ガスはこれでも100歳を超えているのだ。そんなガスの言葉に、一瞬黙って何かを考えていたアレックス。だが、直ぐにガスを見て口を開く。

「………では、その様にさせて貰う。改めて名乗ろう。私は、アレックス・フォン・アンデルセン。アンデルセン王国の第一王子だ。今日は、『治癒の賢者』と呼ばれる其方に折り入って話がある」
「お聞きしましょう」

そう言って、部屋にあるもう一つの椅子に座る様にアレックスに促す。礼を言ってガスの目の前に座ったアレックスは、真剣な顔で話し始める。

「貴方は、この国の現状をご存知ですか?」
「この国の現状と言うと、『黒薔薇』の事ですね?」
「はい」
「詳しい事までは知りませんが、何やら魔女の集まりだとか。中々尻尾を掴めないと聞いています」

その言葉に、アレックスは苦笑いした。『黒薔薇』が唯の犯罪組織では無く、魔女の集まって出来た犯罪組織だと言う事は、ごく一部の信頼出来る限られた少数の者しか知らない機密事項だ。
それなのに、その情報を知っているガスに「流石ですね」と小さな声で呟く。

「ガス殿の仰る通り、『黒薔薇』は魔女が集まった組織です。そして、その組織を操っているのがこの国の王妃であるアデラインです」
「………そうですか」

その時になって初めて、ガスはその眉間にシワを寄せた。

「……驚かないのですか?」
「勿論、かなり驚いてますよ。………しかし、成る程。それならば、優秀な騎士団がいつまで経っても捕まえられない事の辻褄が合いますね」

そう言って、ガスは小さく息を吐いた。

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