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第1章

治癒の賢者・表

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ガタガタと揺れる馬車の中、アルミンは座席にもたれ掛かって深い溜息を吐いた。

「………はぁ」
「王子、大丈夫ですか?まだ、何処か体調が悪いのでは?」

そんなアルミンに、目の前に座るガルシュが心配そうに尋ねる。

「大丈夫。マリオンさんに手厚く看病されたからね。ーーそれより、本当に驚いたよ」

窓の外を見ながら話すアルミンの言葉に、ガルシュも頷く。

「ですね。まさか、<治癒の賢者>と呼ばれた魔術師ガス様が、まさかあの様な場所で孤児院の院長をしているとは思いませんでした」
「僕もだよ」


ーー治癒の賢者。


それは、長いアンデルセン王国の歴史に名を刻む数いる英雄の中の一人の名前だった。


***


それは、今から50年も前の事。
マリオンの住むアンデルセン王国は、隣国と戦争をしていた。争いの切っ掛けは、国境で見つかった一つの鉱山だった。当時、資源が減りつつあったどちらの国もが新たに見つかった鉱山を「我が国のものだ」と主張した。普通なら、どちらの国の鉱山かは鉱山のある場所を見ればそれで済んだ。

ーーしかし、不運にもその鉱山はアンデルセン王国と隣国の丁度境目にあったのだ。

国内の鉱山は既に石屑しか出てこず、その為新たな資源を求めて両国の争いが起こったのだ。その争いは次第に大きくなり、遂には戦争にまで発展した。

その戦争は、5年も続いた。

その頃には、両国共に大勢の命が失われ疲弊し切っていた。国は、人員補充の為に国の男達を徴兵する。親や夫、息子や弟などが戦場に連れて行かれ嘆く女達。終わりの見えない争い。

人々が絶望しかけた時だった。

アンデルセン王国の一人の魔術師が立ち上がった。
その魔術師は、自国と隣国の数名の魔術師達を引き連れて傷付いた兵士達を癒していった。敵味方関係無く治療を行う彼等を見て、一人、また一人と武器を捨てていった。

その魔術師の名は、ガス・アルミス。
そう、現在マリオン達の育ての親と言えるアルミス孤児院の院長である。

そうして全ての者を癒したガス魔術師は、両国の王に訴えた。

『どうか、この愚かな争いをやめてくだい。国を、民を見て下さい。国の発展の為にと1つの鉱山を求めた結果がこれです。国は衰え、民は嘆きに満ちています。これが、国の繁栄を求めた結果です。どうか、争いをおやめ下さい。今、我々が必要とする事は何の役にも立たない石を求めて争う愚王では無く、傷付いた民を、国を癒し私達を未来へと導いてくれる偉大な指導者です』

その訴えを聞いた両国の王は、その時初めて自国の惨状を見た。護るべき国が、民が苦しみ喘いでいた。

その時、ようやく王達は目が覚めた。

如何に自分達が愚かだったかを理解した王達は、直ぐに戦争を終わらせた。そうして、鉱山は両国のこれからの平和の証として絶対不可侵の場所とした。

そうして、自分達の目を覚まさせてくれた魔術師に敬意を評して、英雄として彼の名を刻むと共に彼の行に因んで二つ名を授けた。


ーー治癒の賢者、と。


それが、両国で本として民が知っている実話を基にした『治癒の賢者のお話』である。その後、賢者は新たな薬の開発に取り組み、それが完成した後は誰にも何も言わずに突如城から姿を消した。

それが、アルミン達の知る治癒の賢者の話である。



































だが、実際は全然違う。












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