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第1章

もう、お菓子に釣られません

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「ダフネス様」
「おや、マリオンじゃ無いですか」

子供達と共に教会にやって来ると、教会前を掃除しているダフネスが居た。マリオンが声をかけると、ダフネスは顔を上げ嬉しそうに笑う。茶髪の髪に同色の瞳の優しい顔の彼は、昔から全然変わらない。昔馴染みで同い年のガスとダフネスは、とても仲が良い。だが、目つきの鋭いガスと優しい顔つきのダフネスが一緒に居ると、絡み絡まれている構図に見える。実際に、二人の事をよく知らない人が一緒に居る二人を見て街の警備兵を呼んだ事が何度もある。

「ダフネス様、来たぜ!」
「オレ達、今日は遅れなかったぜ!」
「ダフネス様!お菓子ちょうだい!」
「こら、アンタ達!ちゃんと挨拶しなさいよ!…すみません、ダフネス様」

テイル、トック、サラの言葉に怒りながらミミが頭を下げる。しかし、ダフネスは怒る事もなく朗らかに笑う。

「大丈夫ですよ、ミミ。皆んな元気でよろしい。元気な子には、ご褒美にお菓子をあげよう」

そう言って、ダフネスは白い神父服からクッキーの入った袋を取り出す。これは、ダフネスの手作りのお菓子だ。彼は、昔から自分で作ったお菓子を服の中に入れているのだ。

(勉強終わりに貰えるクッキーが、1番の楽しみだったなぁ~)

中身が成人していても、子供の頃は身体に感情が引っ張られてしまう事が多かった。上手く出来ないと悔しくて、よく泣いたものだ。その時、ダフネスがくれるお菓子はマリオンの涙を瞬時に引っ込める優れたアイテムだった。

(まぁ、この歳になったらお菓子に釣られないけどね)

「ほら、マリオンも。代わりに、井戸から水を汲んできてくれないかい?最近、身体が痛くってね」
「………頂きます」

別に、断じて…そう、断じてお菓子に釣られた訳ではない。困っている人がいたら助けるのは人として当たり前の事だ。

「ダフネス様!これ、皆んなで育てたの!」

サラがダフネスにハーブを渡す。
そのハーブがルルドだと分かったダフネスは、サラの頭を撫でる。

「ありがとうございます。最近、肩凝りが酷くてね。大事に使わせて貰いますね」

その言葉に、サラは嬉しそうに笑う。それを見て、クッキーを食べていたテイルとトックが声を上げる。

「それ、オレも育てたんだぜ!」
「オレもオレも!水やりはオレがやったんだ!」
「そうなんですね。二人共、ハーブを育てるのがとても上手ですね」

ダフネスに褒められ、二人は照れ臭そうにクッキーを齧る。

「皆んな、そろそろ勉強会が始まりますよ」
「ヤベッ!」
「テイル待ってくれよ!」
「ミミも早く!遅れちゃうよ!」
「サラ、慌てて走ると転ぶよ?」

ワイワイと騒ぎながら、子供達は教会に入っていく。

「じゃあ、ダフネス様。オレは、水を組んできますね」
「ありがとうございます。………それより、マリオンはまだ自分の事を「オレ」と呼んでいるんですね」
「中々癖が抜けなくて…」
「ガス様に注意されないんですか?」
「よく注意されます」
「だと思いました」

苦笑いのマリオンを見て、ダフネスは笑う。

「それじゃあ、水汲んで来ます」
「お願いします」

教会の裏にある井戸にマリオンは向かう。

「………いつか、貴女をから解放してくれる人が現れます様に」

そんなマリオンの背中に、ダフネスが祈りを捧げた事をマリオンは知らない。



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