鬼になった男

ハルン

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あの時泣いていた小さな子供は立派な青年となった今でも女の所にやって来た。

『何故そなたは我の元に来るのだ?そなたは今や一流の退魔師。我の正体に気付かぬはずがなかろうに』

いつもの様に切り株に二人で並んで座りこんでいると女が青年に問う。

『何故村の者にも言わず我を退治しようともせず毎日我の元に来る』

青年は今や村一番の退魔師として活躍していた。
青年は確かに知っていた。

雪の様な白い髪。

茜色の瞳。

何よりこの世のものとは思えない美貌。

それらの特徴を持つモノ。

— 鬼 —

それは妖の中でも頂点に君臨する異形のモノ。
青年は知っていた。
知っていながら女に会いに来ていた。
青年は穏やかな顔で微笑んだ。
女にはそれだけで十分だった。

それから暫くたったある日。
女の元にやって来た青年には至る所に擦り傷があり微かに血の匂いがした。そんな青年を目にした女は徐に口を開いた。

『…そなたは何故強い妖が美しい容姿をしているか分かるか?』

女の問いに青年は不思議そうな顔をする。

『それは人間に愛されるためだ。そなた等人間は自分達と異なる力を持つ異形のモノを恐れ嫌悪する。だから我々妖は美しくなるのだ。愛されるために』

青年はジッと女の話を聞く。

『確かに人間を襲う妖もいる。だが多くの妖は理由なく人間を襲わない。我々はただ人に愛されたいと願う孤独な化け物だ。だからそう余り虐めるな』

優しく微笑んだ女の顔を男は何を思い見つめていたのか女には分からなかった。だがそれから男に出来る傷跡は少しづつ減っていった。女はそれが嬉しかった。

そんな時だった。
男が鬼を匿っている罪で村の者に捕まったのは。


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