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出会い編
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「そういえばさ、カイルは今まで何処に住んでたの?」
カイルが家に住み始めてから一週間が経った。
彼は、家の事を宣言通り全て一人でしてくれている。白いエプロンを身に纏うその姿は、まさに完璧な主夫だった。だがこの一週間の間、カイルは何処かに帰る様子が一切ない。
(直ぐに帰ると思ったんだけどなぁ~)
「俺ですか?俺は今まで城に住んでました」
「城に?」
「はい。俺は子供の頃、勇者として選ばれてそれからは城に住んでいます」
「ご両親は?」
「両親は、俺が六歳の頃に事故で死にました。その後、孤児院で一年ほど暮らしてた所に、国から勇者として選ばれたんです。だから、それも含めて国に保護される形で城に住む事になったんです」
夜の料理の仕込みをする手を止めて話す今の彼は、勇者には到底見え無い。今の彼は、白いエプロンがとても似合うイケメン主夫だ。
「あのさ、子供だったのに何で勇者に選ばれたの?」
(子供の頃からそんなに強かった訳じゃないよね?)
世間にあまり興味の無いアリアは、勇者の選定基準を知らなかった。
「師匠は知ら無いんですね。……これを見てもらえますか?」
そう言ってカイルは私に右手の甲を見せる。そうして手の甲に魔力を流したかと思うと、手の甲に白い光で何かの紋章が浮かび上がる。
「何これ?」
「これは勇者の証です。この紋章が在る者がその国の勇者となるんです」
「拒否権なし?」
「はい。ですが、これはあくまでも勇者候補です。この紋章を持つものが1つの国に必ず1人現れます。その勇者候補達の中の魔王を倒す事の出来る強さに成長したたった一人が、本物の勇者になると言われています」
「へ~。他の国にも勇者って居るんだ」
初めて知った。
まさか他にも勇者が居るとは。
「今は候補で、魔王を倒す事の出来る強さになった一人だけが真の勇者になるって訳ね?」
「はい。真の勇者になるとこの白い光が金色に染まるんです。俺は今よりもっと強くなり、魔王を倒せる強さの真の勇者になりたいんです。だから師匠!俺を強くして下さい!」
そう言いながら、カイルは興奮気味にグイッと顔をアリアに近付ける。
「分かった、分かったから!ちょ…落ち着いて!」
「お願いします!俺は本気なんですっ!本気で強くなりたいんです!」
(これ、ある程度手解きしないと納得しないよなぁ…)
何よりこの一週間、家事の全てをやってもらっているのだ。アリア自ら頼んだ訳では無いが、世話をしてもらって何もしないのは流石に駄目だろう。
(仕方ないな…)
「……それじゃあ、仕込みが終わったら少し私と手合わせする?」
「はい!」
嬉しそうに力強く返事をすると、カイルは物凄い速さで仕込みの準備を再開した。
ーーそれから数十分後。
私とカイルは家から少し離れた場所で向かい合っていた。
「それじゃあ、適当に私に攻撃してみて?私は防御しかし無いから。ルールは、私を一歩でも動かしたらカイルの勝ちね」
「分かりました」
カイルは頷くと右手に魔法陣を展開し、あの時見た淡く光る剣を召喚する。
「本気では行きますっ!」
そうして、物凄い速さで私に突っ込んできた。
カイルが家に住み始めてから一週間が経った。
彼は、家の事を宣言通り全て一人でしてくれている。白いエプロンを身に纏うその姿は、まさに完璧な主夫だった。だがこの一週間の間、カイルは何処かに帰る様子が一切ない。
(直ぐに帰ると思ったんだけどなぁ~)
「俺ですか?俺は今まで城に住んでました」
「城に?」
「はい。俺は子供の頃、勇者として選ばれてそれからは城に住んでいます」
「ご両親は?」
「両親は、俺が六歳の頃に事故で死にました。その後、孤児院で一年ほど暮らしてた所に、国から勇者として選ばれたんです。だから、それも含めて国に保護される形で城に住む事になったんです」
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「あのさ、子供だったのに何で勇者に選ばれたの?」
(子供の頃からそんなに強かった訳じゃないよね?)
世間にあまり興味の無いアリアは、勇者の選定基準を知らなかった。
「師匠は知ら無いんですね。……これを見てもらえますか?」
そう言ってカイルは私に右手の甲を見せる。そうして手の甲に魔力を流したかと思うと、手の甲に白い光で何かの紋章が浮かび上がる。
「何これ?」
「これは勇者の証です。この紋章が在る者がその国の勇者となるんです」
「拒否権なし?」
「はい。ですが、これはあくまでも勇者候補です。この紋章を持つものが1つの国に必ず1人現れます。その勇者候補達の中の魔王を倒す事の出来る強さに成長したたった一人が、本物の勇者になると言われています」
「へ~。他の国にも勇者って居るんだ」
初めて知った。
まさか他にも勇者が居るとは。
「今は候補で、魔王を倒す事の出来る強さになった一人だけが真の勇者になるって訳ね?」
「はい。真の勇者になるとこの白い光が金色に染まるんです。俺は今よりもっと強くなり、魔王を倒せる強さの真の勇者になりたいんです。だから師匠!俺を強くして下さい!」
そう言いながら、カイルは興奮気味にグイッと顔をアリアに近付ける。
「分かった、分かったから!ちょ…落ち着いて!」
「お願いします!俺は本気なんですっ!本気で強くなりたいんです!」
(これ、ある程度手解きしないと納得しないよなぁ…)
何よりこの一週間、家事の全てをやってもらっているのだ。アリア自ら頼んだ訳では無いが、世話をしてもらって何もしないのは流石に駄目だろう。
(仕方ないな…)
「……それじゃあ、仕込みが終わったら少し私と手合わせする?」
「はい!」
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ーーそれから数十分後。
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「それじゃあ、適当に私に攻撃してみて?私は防御しかし無いから。ルールは、私を一歩でも動かしたらカイルの勝ちね」
「分かりました」
カイルは頷くと右手に魔法陣を展開し、あの時見た淡く光る剣を召喚する。
「本気では行きますっ!」
そうして、物凄い速さで私に突っ込んできた。
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