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第3章

No.131 パパ

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ギルバートを呼びに出たティアは、迷う事なく真っ直ぐに図書館の前にある小さな森(と言っても、その広さは貴族の屋敷一つ分程ある)に入って行った。

(ここら辺なら大丈夫だよね?)

辺りに人がいない事を何度も確認したティアは、深呼吸して心を落ち着かせる。

(しょうがない、しょうがないんだよ。だって、国同士の問題に発展するかも知れないんだから。だから、やるのよ。頑張れ、私はやれば出来る!)

そうして、ス~っと息を吸い込んでからティアは叫んだ。

「パパー!世界で一番カッコいい、ティアの大好きなパパー!」

何時もよりワントーン高い甘えるような声で叫ぶティア。しかし、その目は死んでいた。

(何が悲しくて、この年で父親をパパ呼びしなきゃいけないのよ…)

羞恥心を押し殺して叫んでいるのには理由がある。と言うか、理由無くやったりしない。

普段からティアにパパ呼びして欲しいギルバート。娘命のギルバートは、恐らく今現在も何処かでティアをストーカーして見守っているだろう。そんなギルバートが、娘のパパ呼びに反応しない訳がない。

(普通に呼んでも都合が悪くて出て来ない可能性もあるし…何より、急いでる今は確実に来てもらわないと!)

他にも、ギルバートが父親である事を周囲の人々に知らせない為と言う理由もある。勇者ギルバートの名前は有名だが、素顔は一部の高位貴族しか知らない。それは、勇者を語る偽物対策やギルバートの周囲の人々を守る為など色々ある。
そんなこんなで、ギルバートとの関係を知られずに確実に呼び出す為にティアは恥を忍んでパパ呼びをしているのだった。

そうして叫んで三十秒も経たないうちに、何かが物凄い速さでこちらに向かって来る音が聞こえて来る。音のする方に視線を向けると、両腕を広げて感涙の涙を浮かべたギルバートがこちらに向かって走って来ていた。そして、勇者の驚異の身体能力を遺憾無く発揮してティアの元へあっという間に走って来たギルバートは、そのままガバ!っとティアを抱きしめた。

「パ、パ、パ、パパパパパパ…!」

(何言ってるか分かんないよ…)

「パパって呼んでくれた!!ティアが、パパって!」
「ちょっ!お父さん、落ち着いて!」

感極まったギルバートは、ティアを持ち上げその場でクルクルと回る。ティアは慌ててギルバートにしがみ付く。

「はははっ!パパって呼んでくれた!パパだって!」
「だから落ち着いてってば!」

その後、何とか興奮状態から落ち着かせたギルバートを伴ってノア達の元に戻ったのは十分も後だった。
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