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今日から私は(後半)
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ピーーポーーピーーポーーピッ
音はアパートの目の前で止まった。
ガシャガシャドンドンドンドンッ
「こっちです!こっちです!」
階段を駆け上がる音と共に、聞き覚えのある女性の声が聞こえて来る。
そう……私は何度か彼女と話ている。
彼女の答えはいつも一点張りだ。
「教育の一環です」
「他人につべこべ言われる筋合いはありません」
「そんな事実はありません」
「名誉棄損で訴えますよ?」
「これ以上お話する気はありません。もう帰って下さい」
私はベットから飛び起き外へと飛び出した。
焦るアイツが救急隊を引き連れて隣の部屋(家)へと入って行く。
ー数分後ー
周囲の野次馬達が見守る中、ストレッチャーに乗せられて小さな子供が部屋から運び出されてきた。
ゆうとだ!!
私は居ても立っても居られずその場に駆け寄ると、救急隊の隊員から、
「関係者の方ですか?」
思わず
「はい!そうです」
アイツが
「違います!!無関係です!!退いて下さい!!」
一瞬、ゆうとと目が合い彼が私に何か訴えている様に見えた。
ピーーポーーピーーポーー
深夜の静まり返った住宅街をゆうとを乗せ救急車が遠ざかって行く。
私は通路の手すりを握りしめ、何も出来ない自分の無力感と、このままでは彼が危険かも知れないという切迫感で押し潰されそうになっていた。
私がやるしかない!!
無能な行政や無慈悲の母親には任せてられない。彼は今の今助けてを求めているのだ。ここで誰も彼の声に耳を傾け無かったら、待ち受けているのは最悪の結果かもしれない。
私がやるしかない!!今、彼を助けれるのは私しかいない!!
灼熱の太陽に照らされたアスファルトが、遠くに見えるビル群達が、溜め込んだ熱を吐き出し今日も熱帯夜を作りあげる。
手すりを持つ私の手にはじんわりと汗が吹き出し、気の違った一匹の蝉がけたたましく鳴き出した深夜の出来事だった。
ーーーー彼を誘拐した
夏も終わりに近付く頃。私達はホテルを転々とし、街を転々とし、世間からは身を隠し、名前も変え、少なくなった現金を握りしめ今も逃走を続けている。
ここ1か月というもの私達の顔をニュースで見ない日は無いくらいに連日メディアで取り上げられていたが、幸か不幸か世間はコ○ナ化の真っ最中で真夏にマスクをしなくてはならない状況だ。
そんな事をもあって私達はまだ捕まらずに逃げている。
ふと、新幹線のホームで駅員さんに声をかけれたのは私達が名古屋駅に降り立った時だった。
「ちょっといいですか?」
背筋が凍り付く。
(顔がバレたのか?それとも新幹線の中でお金をスッたのがバレたのか?)
(いや……あの男は切符をポケットに入れていた。降りた駅から計算してもそんなに早く気付くとは思えない。そうであって……お願いします……違って……)
「はい?何か?」
恐る恐る私が尋ねる。
「はい!これ落としましたよ」
駅員さんが屈みながらゆうとに声をかけ何やら手渡そうとしている。よく見るとそれは私が泥遊びの時に彼に買って与えたキャラ物のハンカチだった。
(良かった…………)
私は胸を撫で下ろし、ゆうとは礼儀正しく答える。
「ありがとうございます」
「お母さんに買ってもらったの?」
ゆうとは私の顔を一瞬チラッとだけ見ると
「うん!!」と大きく頷いた。
どうやら私はまだ捕まる訳にはいかない。
今日から私は母親になったのだから。
音はアパートの目の前で止まった。
ガシャガシャドンドンドンドンッ
「こっちです!こっちです!」
階段を駆け上がる音と共に、聞き覚えのある女性の声が聞こえて来る。
そう……私は何度か彼女と話ている。
彼女の答えはいつも一点張りだ。
「教育の一環です」
「他人につべこべ言われる筋合いはありません」
「そんな事実はありません」
「名誉棄損で訴えますよ?」
「これ以上お話する気はありません。もう帰って下さい」
私はベットから飛び起き外へと飛び出した。
焦るアイツが救急隊を引き連れて隣の部屋(家)へと入って行く。
ー数分後ー
周囲の野次馬達が見守る中、ストレッチャーに乗せられて小さな子供が部屋から運び出されてきた。
ゆうとだ!!
私は居ても立っても居られずその場に駆け寄ると、救急隊の隊員から、
「関係者の方ですか?」
思わず
「はい!そうです」
アイツが
「違います!!無関係です!!退いて下さい!!」
一瞬、ゆうとと目が合い彼が私に何か訴えている様に見えた。
ピーーポーーピーーポーー
深夜の静まり返った住宅街をゆうとを乗せ救急車が遠ざかって行く。
私は通路の手すりを握りしめ、何も出来ない自分の無力感と、このままでは彼が危険かも知れないという切迫感で押し潰されそうになっていた。
私がやるしかない!!
無能な行政や無慈悲の母親には任せてられない。彼は今の今助けてを求めているのだ。ここで誰も彼の声に耳を傾け無かったら、待ち受けているのは最悪の結果かもしれない。
私がやるしかない!!今、彼を助けれるのは私しかいない!!
灼熱の太陽に照らされたアスファルトが、遠くに見えるビル群達が、溜め込んだ熱を吐き出し今日も熱帯夜を作りあげる。
手すりを持つ私の手にはじんわりと汗が吹き出し、気の違った一匹の蝉がけたたましく鳴き出した深夜の出来事だった。
ーーーー彼を誘拐した
夏も終わりに近付く頃。私達はホテルを転々とし、街を転々とし、世間からは身を隠し、名前も変え、少なくなった現金を握りしめ今も逃走を続けている。
ここ1か月というもの私達の顔をニュースで見ない日は無いくらいに連日メディアで取り上げられていたが、幸か不幸か世間はコ○ナ化の真っ最中で真夏にマスクをしなくてはならない状況だ。
そんな事をもあって私達はまだ捕まらずに逃げている。
ふと、新幹線のホームで駅員さんに声をかけれたのは私達が名古屋駅に降り立った時だった。
「ちょっといいですか?」
背筋が凍り付く。
(顔がバレたのか?それとも新幹線の中でお金をスッたのがバレたのか?)
(いや……あの男は切符をポケットに入れていた。降りた駅から計算してもそんなに早く気付くとは思えない。そうであって……お願いします……違って……)
「はい?何か?」
恐る恐る私が尋ねる。
「はい!これ落としましたよ」
駅員さんが屈みながらゆうとに声をかけ何やら手渡そうとしている。よく見るとそれは私が泥遊びの時に彼に買って与えたキャラ物のハンカチだった。
(良かった…………)
私は胸を撫で下ろし、ゆうとは礼儀正しく答える。
「ありがとうございます」
「お母さんに買ってもらったの?」
ゆうとは私の顔を一瞬チラッとだけ見ると
「うん!!」と大きく頷いた。
どうやら私はまだ捕まる訳にはいかない。
今日から私は母親になったのだから。
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