ちょっとハッとする話

狼少年

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仲の良い親子

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あれは確か去年の10月くらいだったと思う。久しぶりに再開した旧友と夜遅くまで飲み歩いて終電に乗り遅れた時の事だ。

旧友はタクシーで帰って行ったが、私の家は少し遠くそれで帰ると万は越える。以前タクシーで帰った際、妻に激怒された事もあって私は近くの漫画喫茶を探すべく、駅の地下道を1人歩いていた。

シャッターが下ろされた駅の改札の前に、2人組の男女が寄り添い合って立っているのを見つけたのは、もうだいぶ彼等に近づいた時だ。

(おっと……危ない……)

酔っ払った千鳥足を変な方向に向けたせいで、足が絡みあい私はヨタヨタと地下道に転がった。
この場合普通ならだ、
「大丈夫ですか?」とか「怪我してませんか?」と声をかけてくるだろうと勝手に思い込み待っていると…………
一向にそれをかけて来る気配がない。
酔っ払いながらも、なんとも常識知らずな奴らだなと、振り返り顔を上げてみると、
そこには60代くらいの女と、30代くらいの男が仲良く手を握りながら、改札の閉まったシャッターを見つめていた。

(気持ち悪っ!!)

それが私の第一印象であった。

よく見ると男の方は小刻みに身体を揺らして何かブツブツと言っている様だ。女の方はそれを気遣う様に男の手を握っている様に見える。

(あーー何か障害を抱えているのか……)

そう頭の中で自己完結し、酔っ払った重い身体を引きづりながら、私は漫画喫茶へと向う。途中一度、彼等の事が気になって振り返って見たが相も変わらずシャッターの前に立っていた。やはり気持ちが悪い。

漫画喫茶のリクライニングシートに寝そべり、旧友との楽しかった会話に思い耽けていると、何故かあの親子?だろうか2人の事を思い出していた。




「気持ち悪いか……」

ふと呟き。

あぁ……私は人間が腐っているなと自嘲した。





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翌朝あの駅で、60代の女性が身投げする事となり、電車は運休。
私は結局タクシーでの帰宅を余儀なくされ、
言うまでも無く妻に激怒された。


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