愛する女性の行方

一宮 沙耶

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19話 現実世界で会いたい

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 4人の飲み会で、なんとなく、幸一が私を見る目は少しぎこちなかったの。そして、その様子を見てか、美鈴から、トイレに誘われた。

「ねえ、幸一とは何もないわよね。私たちが付き合っていること了解だったものね。」
「そうよ。当然じゃない。」
「なんとなく、幸一と紗世の関係がぎこちなく見えたけど、勘違いかしら。」
「多分、そうだと思う。」

 少し、後ろめたい感じもしたけど、私が口を出すようなことじゃない。今日の飲み会も終わり、多分、美鈴と幸一は2人で2次会に行ったみたい。まだ続いていてよかった。

 美鈴は、バーカウンターで、トイレに行っている幸一を待っていた。

 幸一って、とっても優しいけど、誰にでも優しいのかもしれない。もしかしたら、紗世に声をかけて、断られて2人の関係がギクシャクしているのかも。よくわからない。

 私は、人と戦うのが嫌い。大学の時、テニスサークルにいたけど、相手に勝つと、申し訳ない気持ちでいっぱいになるから、負ける方が好きだった。そしたら、相手も喜ぶし、私は、負けても、そんなに嫌じゃない。ゲームとかには向かない性格なんだと思う。

 誰とでも、何もなく、平穏に一緒にいられて、笑顔で過ごせるのが一番いいの。相手が何? という顔をすると、私は、体が強ばっちゃう。

 これって、逃げてるんじゃないのよ。平穏が好きって、好みの問題。よく、逃げてるんじゃないよという人もいるけど、勝たないきゃいけないって誰が決めたの。ニコニコと笑顔で過ごせる世の中って最高じゃない。

 マウントとってくる人、世の中は勝負だと言って、常に勝つことを強要する人、そんな人に世の中は溢れている。そんな人が1人でもいると、平穏な空間はすぐに崩れてしまう。だから、生きづらい。

 そんな時に、幸一は、私のこの気持ちをふんわりと受け止めてくれて、決して、声を荒げることもしないし、何も言わずに、笑顔で見守ってくれる。そんな幸一とは一緒にいて心地いい。ずっと、一緒にいたい。

 でも、幸一は、私のこと、真っ直ぐ生きてるなんて言ってたけど、私は、そんな女性ではない。自分に自信がなくて、不安でいっぱい。日頃は、なにも言い出せない私だけど、不安になると、心が乱れて、自分で思っていないことを言っちゃうこともある。

 昔からそう。大学の時に、声をかけてくれた先輩がいた。私のこと可愛いって。本当は嬉しかったんだけど、こんな私で先輩につりあうかしらって遠慮してたら、そのうちに、僕と付き合うつもりがないんだねって、私の友達と付き合い始めたの。

 そんな時って、ぐいぐい引っ張ってもらいたいじゃない。でも、私が悪いの。はっきりとお願いしますって伝えなかったから。でも、なんで、私の友達となの。知らない女性の方がまだ良かった。友達も失っちゃう。

 友達に、私は気にしないから、先輩と仲良くしていてねって言ったら、友達が、なんで、そんな上から目線なんだって怒り始めたの。なんで怒られないきゃいけないの。なんか自分の心が抑えられなくなって、先輩に、友達の悪いところ、いっぱい叫んでた。

 先輩は、急に豹変した私に引いて、それ以降、私と話すことはなくなった。友達とも会うことがなくなったけど、多分、2人は続いていたんだと思う。時々、自分を抑えられない時があるんだ。

 幸一にそんなことしたら、嫌われちゃうんだと思うけど、幸一とだったら、そもそも、そんなことにならないんじゃないかな。幸一と一緒だったら、静かな時間が過ぎていく。

「ごめんね。待たせた?」
「待っていないわよ。幸一のこと、色々考えていて、これからもずっと一緒にいたいなって思っていたの。ところで、今日の飲み会で、幸一と紗世、なんか変な雰囲気だったけど、なんかあったの?」
「別に、いつもと同じだけど。逆に、今日の飲み会は、あまり盛り上がってなかったけど、健斗さんと紗世さんも付き合っているのかな。なんか、付き合っているようにも見えるし、一定の距離を置いているようにも見えるし。そんなこと考えていただけさ。」
「どうだろう。付き合ってるのかもね。」
 
 幸一とは、今いるバーがあるホテルの一室に一緒に行った。メタバースにある高層階のホテルからみる夜景って本当にすてき。最高の風景になるときを切り取って、お客に提供してるんだと思う。

 真下に高層ビルがいくつもあり、もう夜10時だけど、仕事が続いているのか、煌々と窓から光が出ている。きっと、厳しい上司がいて、働いている人は、疲れきっているんだと思う。もう、仕事は辞めて帰りましょうよ。

 マンションでは、白色と暖色の光が、窓からもれ、生活の香りがする。ある家庭では、子供が寝て、夫婦で温かい時間を過ごしているのね。別の家庭では、夫婦喧嘩をしているのかもしれない。でも、ちゃんと生きてるんだと思う。

 私は、何もできない人。でも、幸一がいれば、少しは頑張れるかも。幸一には、いつも勇気をもらってる。自分も頑張らないとって。

 幸一が先にどうぞというから、お風呂に先に入り、ベットで待っていた。そして、お風呂から上がってきた幸一と、バスローブで窓から夜景を見ながら、シャンパンで再度、乾杯をした。

 ホテルの窓のガラスは、寒い外気のせいか、水で濡れていた。昔だったら、そんな窓は泣いてるように見えたかもしれないけど、今は、潤っている時間の象徴のように見えていた。私は、今の時間を大切にしたい。

 幸一の笑顔を見つめ、安心した気持ちで幸一の胸に顔を埋めた。そう、私は、この人と幸せになるの。本当に、この人と一緒なら心穏やかに過ごすことができる。

 幸一は、私を抱いて、ゆっくりとベットに連れて行ってくれた。そして私と唇を重ねた。10分ぐらい経った頃かしら、いつの間にか、私の体の中で何かが弾けた。愛してる人とすると、いくって聞いてたけど、本当なのね。

 その後も、しばらく、幸一は私を抱きしめてくれた。私は、この時間が好き。だって、愛されているって感じられるじゃない。そして、幸一の腕の上に頭を載せて、目の前にある幸一の顔を見て話しかけた。

「今日も楽しかったね。この4人の飲み会、ずっと続けたいな。」
「そうだね。」
「ところで、今更だけど、幸一がそうして欲しいということだったら、メタバースの世界だけなんだけど、このバスト、もう少し大きくしてみようと思っている。男性って、大きなバスト好きじゃない。どうかな?」
「別に、そんなこと、気にしなくていいと思うよ。ありのままの美鈴でいてくれればいい。でも、そうしたいんなら、そうしてもいい。美鈴がしたいようにすればいい。」
「ありがとう。このままでも好きでいてくれるんだったら、現実世界で整形するつもりもないし、このままにしておこうかな。そういえば、そろそろ、現実世界でも会おうよ。幸一とは現実世界でも一緒に暮らしたい。」
「う~ん。ちょっと・・・。」
「ダメなの? 顔が全然違うとか? そんなこと気にしないから。私は、幸一の心が好きなの。外見なんて、どうだって気持ちは変わらないわよ。」
「それは嬉しいんだけど、まだ、現実世界で会う勇気はないかな。」
「どうしてなの。」
「ごめん。今は言えない。」

 なんとなく、幸一との間には少し溝ができたような気がした。でも、私が見つけたすてきな人。絶対に考えを変えさせて、現実世界でも会うんだと思って、一晩、一緒に過ごした。
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