迷子

一宮 沙耶

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第2章 除霊師

2話 除霊師

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 日本に戻り、SNSに、この不思議な体験をアップした。そうすると、1週間経った頃に、DMが届いたの。

 30代半ばぐらいの女性からで、この事件ついて話したいので、自分の家に来て欲しいというものだった。全く知らない人だったので無視しようかな。

 でも、何か気になったので、その人のSNSを見てみたところ、3歳ぐらいの男の子の写真とかが多くアップされていて、ごく一般的な家庭という感じだったわ。だから、大丈夫のような気がしたので、家を訪問してみることにした。

 ただ、万が一のことを考え、友人には、夕方18時までに連絡しない時は、ここに行ったって警察に連絡して欲しいとDMを送り、住所も送っておいた。

「こんにちは。有村 結心という者ですが、この前、連絡をいただいた斉木さんでしょうか。」
「あら、待っていたのよ。入って。」
「でも、中で男の人がいて乱暴されるとか怖いし、ここで話しを聞かせてもらえますか?」
「大丈夫、そんなことないから。お庭では、子供が遊んでいる声も聞こえるでしょう。大丈夫。」
「では、お邪魔します。」
「はい、では、ここに座って。あのね、あなたのSNS見たんだけど、あなた、除霊師としての力があると思う。」
「除霊師?」
「あなた、過去に、霊と触れるような経験があったでしょう。」
「ええ、1年ぐらい、あの世で暮らしてました。」
「やっぱり。霊とか怨霊を取り払う人。そんな力持っている人、ほとんどいないから貴重なのよ。だから、手伝って欲しい。」
「すぐには信じられないんですが、何をするんですか?」
「霊に悩んでいる人のところに行って、霊を取り払う。取り払うと言っても、テレビとかでみるように、白い袴とかきて、何か呪文をいうとかじゃなくて、あなたの場合は、霊の腕を掴んで、消えなさいと心で思うと、あなたから出た光が霊を取り囲み、霊が消えるという感じね。人によって、やり方は違うの。」
「なんか、怖そうだし、私にとってメリットもないですよね。」
「謝礼として、成功報酬で、1件につき20万円をもらうことにしているわ。当日は、本人からは本当に成功したかはわからないから、1週間後にまた訪問して、大丈夫だと確認した上で払ってもらって。」
「それは嬉しいけど。霊に襲われたりしないんですか?」
「あなたの力を見る限り、基本は大丈夫ね。」
「基本は、というと?」
「現世でもそうだけど、力が強い霊もいて、あなたの力を超える場合もある。そこで、手のひらを出して。私があなたの手のひらに、これから字を書くから、その手を霊に押し付けなさい。そうすれば、2分だけ動かなくできる。その間に、あなたの光で焼けば、いなくなるわ。現世では、基本は、生きている人間の方が強いのよ。でも、怖くなったりして気が弱くなった人間は、取り憑かれちゃうっていうこと。」
「大丈夫ですかね?」
「大丈夫。ということで、早速、この足で、佐々木 さとみさんの所に行ってくれる。この近くだから。」
「え、これからですか?」
「あのパターンは大丈夫。あなたなら問題ないから、まずは自分の力を試してみて。」
「お金は、斉木さんに一部払うんですか?」
「私は私でやっているから、有村さんがやった分は、全部、有村さんが貰っていいわ。私としては、いっぱい依頼が来て、対応できない方が困るのよ。ところで、もし、払ってくれなかったら、霊を戻すからと脅せば、怖がって払うわよ。」
「なるほど。霊は戻せないと思いますけど、わかりました。では、試しに行ってみますね。ぴーんと来ないときはやめますよ。」
「ご自由に。ところで、言い忘れたけど、私たちは、女性のお客さんに、女性の除霊師が対応するというグループ。お客さんと2人になる機会が多いから、男性だと気まずいでしょう。」
「男性からの依頼があったときはどうするんですか?」
「男性は男性が対応するグループがあって、そこと提携しているの。男性からこちらに依頼があれば、そのグループに紹介するという仕組み。」
「そうなんですね。では、先ほどの佐々木さんの家、行ってみます。」

 15分ぐらい歩いたら、指定された家に着いた。

「こんにちは。斉木さんから紹介いただいた有村ですが、お時間、よろしいですか。」
「ええ、家に入ってください。」

 依頼主は、足を引きずっていたけど、可愛らしく、おしゃれな感じの女性で、20代後半ぐらいに見えた。家の中の雰囲気は、光が高い窓からいっぱい入っていたせいか、とても爽やかで、霊とかいるようには見えない。

「何を困っているんですか?」
「少し前に、日本料理を食べに行って、お料理とか、お店の様子をいつもの通り、写真に撮って、SNSにあげたんです。そうしたら、それを見た友達から、写真に怒った男性の顔のようなものが写っているよと言われ、確かにそう見えるなと思ったけど、忘れてそのままにしていたの。」
「怖いですね。」
「そうなんですよ。そしたら、足が腫れてきて、痛くて痛くて、病院に行ったんですけど、原因が分からないって言われちゃったんです。もしかしたら、さっきの写真のせいかなと思って、SNSから消したら、足の痛みはその日から消えていったんです。」
「そうなんですね。」
「良かったなと思っていたのですが、その後も、レストランの写真を撮ると、いつも、さっきの男の顔が映るようになって、SNSに載せたら、また足が腫れちゃった。そこで、またSNSから消したんだけど、今度は、治らなくて、どんどんひどくなっているんです。困っていて。」
「大体、話しはわかりました。足を見せていただけますか。」

 足は、かなり腫れて、痛そうだった。でも、霊の気配がなかったので、まず、写真を撮ってもらうことにした。

「では、まず、この紅茶カップ、写真を撮ってみてください。」
「はい。どうでしょう。」
「また、顔みたいの、写っていますね。なんか、このカメラ、古そうだけど、見せていただけます?」

 カメラに手を触れた途端、嫌な空気が流れた。そう思った途端、黒い煙のような男の姿が女性の肩にかぶさっていた。

「見えたわ。なんで、この女性を傷めるの?」
「俺は静かに過ごしたかったのに、こいつが、俺の姿を撮って、多くの人に晒したんだ。ひどいじゃないか。俺は、死んで彼女と結婚できなくなったことが未練で、この世に残ってる。そんなこと恥ずかしくて、誰にも知られたくないんだよ。困っていたら、こいつ、他のところでも写真を撮っていたらか、やめさせようと思って、体を痛めつけてやったんだ。悪いのは、この女なんだ。」
「じゃあ、この人に、あたなが映った写真は全て消して、SNSからも消すようにさせるわ。それで、消えてもらえる?」
「約束できるか? それなら消えてやるが。」
「約束する。大丈夫だから、この人から消えて。あとは自由にすればいいわ。」
「わかった。」

 今回は、結心の炎を使わずに、消えてもらえた。こんなに簡単に解決できるのはびっくりだった。でも、霊と人間が会話ができていないのでこじれるケースもあるのね。

「どう、消えてもらったけど、気分は良くなった?」
「確かに、足は軽くなった。あれ、不思議。腫れが引いていく。ありがとうございます。」
「じゃあ。もう大丈夫ね。まず、あの男性が映った写真は全て消して、SNSからも削除して。それが守られないと、今度は、もっとひどいことになるかも。」
「わかった。」
「もう一つ、あなたのカメラは、捨てた方がいいと思う。」
「これ、気に入っているけど、しかたがないわね。捨てる。」
「そっちの方がいい。さて、今回は1週間待たなくても、成功ということで、謝礼金を払ってもらうわ。再び腫れることはないと思うけど、何かあったら、斉木さんに連絡してください。また来ますので。」
「わかりました。では、20万円ですね。はい。病院は、お手上げだったし、頼んで良かった。」
「では、確かに受領しました。お元気で。」
「これって、保険とかきかないんですよね。」
「医療行為じゃないので、きかないですね。」

 依頼主は、とびっきりの笑顔になって、玄関で、結心に手を振ってお別れをしていた。

「これは私の能力ね。でも、こんなに簡単に20万円を貰えるなら、続けてみよう。」

 そのあと、斉木さんにDMを送り、成功したこととお礼を伝えた。ところで、帰り道、とんでもないことを思い出した。

 18時までに友達に連絡しないと警察に連絡が行っちゃう。どうしよう、どうしよう。もう19時半だ。まず電話だ。慌てて電話したけど、携帯からは伝言メモの音声が流れてきた。

「海外旅行で、8月30日まで連絡が取れません。御用がある方は、返事は遅れるかもしれませんがDMをお送りください。」

 DMをみると、今朝送ったメッセージは、まだ既読になっていなかったの。よかったというか、襲われていたら危なかったじゃない。本当にもう、あの子は使えないんだから。まずは、無事だったとDMに送っておこうっと。

 帰りに、成城石井で、梅酒と割引のシールが貼ってある「ペンネとブリーチーズの盛り合わせ」という商品を買って自分の部屋に帰っていった。
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