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第1章 犯罪カウンセラー File 1
1話 顔合わせ
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「暴れるな。」
「悪いことを何もしていない私が、何んで刑務所に拘束されているのよ。」
「これ以上、迷惑をかけると精神病棟行きになるぞ。」
「刑務所とそんなに変わらないでしょう。」
「痛いと思うが、腕を後ろで縛るぞ。先生、今日の面会は終わりにします。」
「わかりました。また来ます。」
私は、刑務所で精神を病んでいる犯罪者のカウンセラー。いろいろな患者はいるが、今回の患者は、目つきは過去に見たことがないほど鋭く、私を睨む顔つきは、全ての人を憎む気持ちで満ちている。
ただ、最後は攻撃的になったが、それまでは極めて論理的に、静かに、冷徹に話してくる。あたかも、自分は全てを知っていて、相手を見下すように。
蛍光灯で照らされた部屋は、黒い闇で覆われ、気候は暑いはずなのに、空気は凍りついていた。
それから3日後、患者が引き起こした殺人について聞くことにした。口調は落ち着いているが、目つきは相変わらず鋭い。目の中は闇が果てしなく続く。
「宮崎 一香さん、あなたが伊東 沙奈さんを殺害したのはなぜだったんですか?」
「私は、沙奈は殺害していないわよ。」
「沙奈さんのお父様も、娘さんがあなたに殺害されたって証言していましたが、違うんですか。」
「なんか、誤解してない? 人を殺害したのは認めるけど、私が沙奈なのよ。」
精神状態が混乱している患者でよくある嘘または思い込みだ。ただ、多くは、自分が被害者だということが多いが、今回、殺害したことを認めている。
「どういうことなんですか。」
「警察に言っても、信じてくれなかったんだけど、私は、沙奈で、整形して一香になりすましていたのよ。」
「どうして、そんなことをしたんですか?」
「それは、隆一と付き合うには、その時に付き合っていた一香になり変わるのが、一番、手っ取り早いでしょ。でも、一香が2人もいたらおかしいから殺害したわけ。信じられないんだったら、沙奈のお父さんと私のDNAを調べればいいのよ。」
とんでもないことを言い始めた。患者は、ニヤついて得意げに話していたが、目はすわっていて、私のことを試すように、じっと見つめている。そして、口もぎゅっと締まり、睨み合う時間が続いた。
よくある嘘だろう。顔を似せたからと言って、そんなに簡単に別人に成りすませるものでもない。そもそも、付き合っているんだから、すぐにバレるだろう。まずは、話しをさせて論理的におかしい点を指摘し、虚言癖を治すことから進めるのがいい。
「それではDNA鑑定をしてみましょう。この話しは、その結果を見てからということで。次に、刑務所で女性の刑務官の目を箸で突き刺した件について話しましょう。どうして、全く関係のない人に、そんなことをしたんですか。」
「そのことは、よく覚えていないのよ。私は、刑務所にいるのは一香のせいだと腹が立って、よく覚えていないうちに、刑務官の目をやっていただけよ。」
「じゃあ、刑務官には申し訳ないと思っているんですね。」
「そもそも、全く悪くない私を刑務所に拘束しているのが刑務官なんだから、関係のない人でもないし、申し訳ないなんて思ってないわ。」
「知ってますよね。その刑務官、目が潰れて、もう普通の生活ができないからって嘆いて自殺したんですよ。」
「それは、その女がメンタル弱過ぎってだけじゃない。」
刑務所から出ると、5月末にしては暑い日差しが突き刺さり、汗が一気に服を濡らしたが、一方で、この患者のことを思い返し、寒気が身体中を走った。この患者は、常に自分が正しく、相手に対する思いやりといった感情は全くない。
どのように生きてきたんだろう。頭の回転は驚くほど早く、冷徹に物事を観察している。ただ、そこには人間としての温かみが一欠片らもない。さらに、論理的に見えても、かなり強い思い込みもある。これを解きほぐすのは時間がかかるだろう。
後日、DNA鑑定の結果が届いたが、なんと、結果は、今、刑務所にいるあの女性は、被害者の父親の子供、すなわち紗奈だということだった。思い込みがあったのは私の方だった。
「悪いことを何もしていない私が、何んで刑務所に拘束されているのよ。」
「これ以上、迷惑をかけると精神病棟行きになるぞ。」
「刑務所とそんなに変わらないでしょう。」
「痛いと思うが、腕を後ろで縛るぞ。先生、今日の面会は終わりにします。」
「わかりました。また来ます。」
私は、刑務所で精神を病んでいる犯罪者のカウンセラー。いろいろな患者はいるが、今回の患者は、目つきは過去に見たことがないほど鋭く、私を睨む顔つきは、全ての人を憎む気持ちで満ちている。
ただ、最後は攻撃的になったが、それまでは極めて論理的に、静かに、冷徹に話してくる。あたかも、自分は全てを知っていて、相手を見下すように。
蛍光灯で照らされた部屋は、黒い闇で覆われ、気候は暑いはずなのに、空気は凍りついていた。
それから3日後、患者が引き起こした殺人について聞くことにした。口調は落ち着いているが、目つきは相変わらず鋭い。目の中は闇が果てしなく続く。
「宮崎 一香さん、あなたが伊東 沙奈さんを殺害したのはなぜだったんですか?」
「私は、沙奈は殺害していないわよ。」
「沙奈さんのお父様も、娘さんがあなたに殺害されたって証言していましたが、違うんですか。」
「なんか、誤解してない? 人を殺害したのは認めるけど、私が沙奈なのよ。」
精神状態が混乱している患者でよくある嘘または思い込みだ。ただ、多くは、自分が被害者だということが多いが、今回、殺害したことを認めている。
「どういうことなんですか。」
「警察に言っても、信じてくれなかったんだけど、私は、沙奈で、整形して一香になりすましていたのよ。」
「どうして、そんなことをしたんですか?」
「それは、隆一と付き合うには、その時に付き合っていた一香になり変わるのが、一番、手っ取り早いでしょ。でも、一香が2人もいたらおかしいから殺害したわけ。信じられないんだったら、沙奈のお父さんと私のDNAを調べればいいのよ。」
とんでもないことを言い始めた。患者は、ニヤついて得意げに話していたが、目はすわっていて、私のことを試すように、じっと見つめている。そして、口もぎゅっと締まり、睨み合う時間が続いた。
よくある嘘だろう。顔を似せたからと言って、そんなに簡単に別人に成りすませるものでもない。そもそも、付き合っているんだから、すぐにバレるだろう。まずは、話しをさせて論理的におかしい点を指摘し、虚言癖を治すことから進めるのがいい。
「それではDNA鑑定をしてみましょう。この話しは、その結果を見てからということで。次に、刑務所で女性の刑務官の目を箸で突き刺した件について話しましょう。どうして、全く関係のない人に、そんなことをしたんですか。」
「そのことは、よく覚えていないのよ。私は、刑務所にいるのは一香のせいだと腹が立って、よく覚えていないうちに、刑務官の目をやっていただけよ。」
「じゃあ、刑務官には申し訳ないと思っているんですね。」
「そもそも、全く悪くない私を刑務所に拘束しているのが刑務官なんだから、関係のない人でもないし、申し訳ないなんて思ってないわ。」
「知ってますよね。その刑務官、目が潰れて、もう普通の生活ができないからって嘆いて自殺したんですよ。」
「それは、その女がメンタル弱過ぎってだけじゃない。」
刑務所から出ると、5月末にしては暑い日差しが突き刺さり、汗が一気に服を濡らしたが、一方で、この患者のことを思い返し、寒気が身体中を走った。この患者は、常に自分が正しく、相手に対する思いやりといった感情は全くない。
どのように生きてきたんだろう。頭の回転は驚くほど早く、冷徹に物事を観察している。ただ、そこには人間としての温かみが一欠片らもない。さらに、論理的に見えても、かなり強い思い込みもある。これを解きほぐすのは時間がかかるだろう。
後日、DNA鑑定の結果が届いたが、なんと、結果は、今、刑務所にいるあの女性は、被害者の父親の子供、すなわち紗奈だということだった。思い込みがあったのは私の方だった。
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