天才詐欺師は三度笑う

一宮 沙耶

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7話 お母さん

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 ほのかが、自分の部屋でお風呂に入っていると、なんか周りがぼやけてきた。なんだろうと思い始めたが、体は動かず、気が薄れていくばかりであった。5分ぐらい経った時であろうか、いきなり、ほのかは立ち上がった。

「お兄ちゃん。これまで、この体を大切にしてくれてありがとう。でもずるいわ。この体の半分は私なんだから、そろそろ交代ね。でも、ずっと、この体を見守ってきたけど、やっぱり、本当の体で動くって、気持ちいいわね。これから、お兄ちゃんの分も含めて幸せになってあげるからね。」

 そう、妹に突然、体を奪われたのだった。妹は、赤子の時から、ずっと後ろにいて、学校での演技指導、会社での指導などをみてきたので、その時から、全く違和感なく、ほのかとして日々を過ごすことができた。

 「そう、男性とエッチするのが、こんなに気持ちいいとは思わなかった。素敵な男性もいっぱい周りにいるわ。これからの生活は本当の楽しみ。」

 充実した日々を過ごしていた。ちょうど、お金もそれなりに貯まってきて、しょっちゅう、こじんまりしたレストランを貸し切って、男性を侍らせて、大騒ぎのパーティーで楽しんだ。

 これまで、お兄さんの肩の後ろでひっそりと暮らしてきた反動で、毎日、男性にチヤホヤされて、素敵だね、可愛いなどと耳元で多くの男性から囁いてもらえることに有頂天になっていた。

 所長のシナリオもいつも完璧で、警察に捕まったり、恨まれて後から見つかり暴力を受けるといったこともなかった。仕事は、ますます高い演技力を求められたが、これまでの訓練で全く心配はない。逆に、その分、上乗せ金額が増えて、こんなパーティーを開いても、お金に困ることはなかった。

 男性に囲まれる生活って、本当に楽しい。みんな、私目当てで集まるのよ。私は、現代のお姫様なの。みてみて、この魅力的な姿を。女友達なんていないけど、全く気にならない。だって、男性がいつでも、私のこと好きって言ってくれるもの。

 男性と旅行も行ってみた。マンハッタンで、腕組んで歩いてミュージカルも見に行った。パリやローマとか、ドイツの古城巡りとかもした。スペインのバルとかも美味しかったわ。男性と一緒に暮らすって、本当に幸せ。いつも、優しく包んでくれる。私は、好きなことをするだけで、男性が全てエスコートしてくれる。

 やっぱり女性に生まれてきてよかったわ。お兄ちゃんには、この体は勿体無かったのよ。だって、男性とか興味なかったでしょう。そんなんじゃ、何もなくおばあちゃんになっちゃう。それじゃ、生きる意味ないじゃない。

 5年ほど、そんな生活を続けていたが、ふと、ほのかは独り言を呟いた。私には、心配事が1つできた。昨晩、寝ていると、「あなたはお兄ちゃんを追い出した、本当にひどい人。あなたが死んだのはあなたのせいで、お兄ちゃんのせいじゃない。あなたは報いを受けるべき。」と囁かれた。

 あれは、多分、お母さん。女の子だった私より、男の子の方が大切に思ったのかな。もしかしたら、私の体を奪ってしまうということだったのかもしれない。そういえば、今、ちょうど、お母さんが、私たちを産んで亡くなった年齢だし。

「お母さん、私も、あなたの子供なのよ。見守っていてよ。」

 そう言った時、ほのかは、周りがぼんやりしてきた。
「ひどいよ。お母さん。」
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