ブラックリスト /征服

一宮 沙耶

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第5章 宇宙人の再来

1話 平和ボケ

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「結婚なんて、いいことないし、やめたら。せめて、そんなに焦らない方がいいわよ。」
「みうは、1回してるから、そう言えるけど、私はまだだし、女に生まれたんだから、子供は作りたいじゃない。宇宙人との戦争で、人生、時間を無駄にしちゃったし。」
「まあ、私には、子供はまだいないから、結婚の全てを知ってるわけじゃないけど。」

日本橋のバーカウンターで、土曜日の夜、真っ赤なカクテルが注がれたグラスを傾けていた。
宇宙人の攻撃と彗星の到来、反撃の後、東京は3年で奇跡的な復興を遂げていた。
復興エリアはかなり限定的だったけど、日本橋、神田辺りは高層ビル群に生まれ変わってる。

高級レストラン、ショッピングセンターもあり、人に溢れていた。
みんな、悲劇的な日のことはすでに忘れつつあり、元の都会的な生活に戻っていたの。

ここは、カウンターだけのお店。
オープンバックスタイルの私の背中には、すぐ後ろの窓から夜の街の光が差し込む。
カウンター席の後ろは、人が1人通るのも厳しい、そんなお店。
都会に住んでた私には、こんな空間が合ってると思うし、これからも、こんな生活を続けたい。

宇宙人との戦争は必死で生き延びた。
そんな苦労をしたんだから、家族で助け合うことの大切さは誰もが実感した。
だから、友達にとって結婚はとても大きなテーマなのもわかる。

天井から細いワイヤーで吊り下げられた小さな照明が目の前のグラスを照らす。
もう一つの光は、机の上に飾られた一輪のお花だけを照らしている。
あとはマスターの背中でボトルが照らされているだけなので、暗い雰囲気が醸し出されていた。

ふと耳をすますと、静かにシャンソンがバックミュージックとして流れている。
20席ぐらいしかないバーで、今夜だけなのかわからないけど、男女のカップルが多い。
暗いシックな雰囲気のなか、横で話している声はほとんど聞こえず、相手の話に集中できる。
高いカウンターチェアーに座り、足のつま先にハイヒールをひっかけ、ぶらぶらさせていた。

「結婚って、そんなに魅力ないかな。戦争を経て実感したのは、やっぱり助け合えるのは家族だってことだったけど。」
「それはそうだけど、逃げるときの足かせにもなるでしょう。また、自由がなくなるわよ。たとえば、梨沙の今の家に彼が来て住んだら、リビングでお風呂上がりで下着だけで歩くとか、リラックスできないかもよ。」
「朝からベットでつんつんとかして楽しそう。」
「それは最初だけだって。人って、気づかずにこだわりとかあるのよ。でも、それって、人によって違うから、洗濯の仕方とか、お茶碗の洗い方とか、こうしないとダメっていうことと違うことを平気でしてくると腹が立つ。逆もそうで、こちらが何も考えずにしたことが、彼の気にさわって喧嘩になったりとかが増えてくるってわけ。つかず離れずで、恋愛しているのがちょうどいいのよ。」
「みうは、あまり人に依存するタイプじゃないから、そういうマイナス面だけが気になるんだと思う。私みたく、いつも寂しいと思うタイプだと、横に男性がいてくれれば、心が満たされるというか、安心できるのよ。」
「まあ、大半の人が結婚するんだから、そうかもね。戦争を経験して、家庭を大事にする人が昔より増えているみたいだし。」

結婚についての私たちの会話は、平行線のまま、ずっとこの調子で続いていた。
女性どうしの会話では、いつもは、そうね、そうねと言っているだけ。
でも、結婚に憧れをもつ女性には、バツイチ経験者として、いろいろと言いたくなってしまう。

「みうも、もう一度、恋愛して結婚してみたら。まだ若いんだし、子供だって欲しいでしょう。」
「戦争が終わって、まだ、それ程時間が経っていないし、あれから、いろいろあって、そんな気になれないかな。」
「みうは、キレイで、これまでも何回も素敵な男性から声をかけられてきたじゃない。戦争でいろいろあったけど、今なら、普通の恋愛をすれば、考え方が変わるわよ。あ、電話だ、少し外すね。」

私はバーカウンターに1人残されて、普通の恋愛ってなにか考えていた。
今どき、いろいろなライフスタイルがあって、女性どうしで暮らしている人もいるし。

女性は、男性に頼らないと生きていけないというのも偏見。
私は、どちらかというと1人でいるのが好き。
だって、相手に合わせるのって面倒じゃない。

友達と飲めば、その時は楽しく過ごせる。
だけど、スケジュール調整は面倒。
しかも、急な用事が入ったりすると、遅れて迷惑かけたくないとか考えて、あたふたしちゃう。
そんな気持ちになるんだったら、会わない方が楽かもしれない。

だから、待ち合わせ場所に行く途中も、早く家に帰りたいななんて思いながら来るのよね。
人に合わせずに、思ったらふと出かけたり、1人でその日の気分で旅行にいったり。
今、食べたいと思うお料理を食べたりする方が気楽でいいでしょう。

やっぱり、1人が好きなのは、人の話しに合わせたり、疲れちゃうからだろうな。
面白くないのに笑顔を作るとかも嫌じゃない。

ある女優さんが言っていたけど、人の温もりなんか欲しいと思ったことはないって。
電車で横に座っているおじさんの肩が触れるぐらいで十分だって。
それって分かるな。人がいなくて寂しいと思わないもの。

梨沙が戻ってきたと思ったら、彼女は、男性の横で小さく手を振っている。
いつの間にかカウンターに座っている男性と一緒に飲もうというしぐさで。
そして、私の方に駆け寄ってきた。

「入口のそばに座っている男性2人組って、かっこよくない。服装もエリートって感じ。さっきさぁ、後ろを通るときに、一緒に飲まないかって誘われたんだけど、行こうよ。みうも、もっと同年代の人とのチャンスを掴まないと。」
「気が乗らないなあ。でも、梨沙が行きたいなら、行ってもいいけど。」
「じゃあ、行くわよ。」

朝日が窓から差し込んで目が覚めた。ここはどこだろう。
いつもとは違うカーテンの柄、照明器具、私の部屋ではない。

寝返ると、横には男性が寝てる。
そうだ、昨晩、飲み明かして、この男性と一緒にホテルに泊まったんだ。
もちろん、生理痛軽減のために低用量ピルを飲んでるから子供はできないはず。

時々は、ストレス解消というか、欲求不満解消でこんなこともある。
でも、それだけで、男性のぬくもりが欲しいわけじゃない。
この男性、付き合うレベルじゃないし、昨晩の様子だと、セフレとしても不足かな。

「あ、起きたんだ。昨晩は楽しかったね。もし、良かったらだけど、僕達、付き合ってみない。みうさん、可愛いし。」
「遠慮しておく。昨日はありがとうね。でも、帰るわ。もう、会うことないと思うから、昨晩のことは忘れて。ホテル代は、任せてもいいかしら。」
「ああ。でも、本当にこれっきりにするの。」
「そう、これっきり。あなたも、そっちの方が楽でしょう。私は組の女かもしれないじゃない。じゃあね、バイバイ。」

目の前の男性は、目を伏せて、顔からは表情が消えた。
暴力団とかから脅されると思って怖かったんだと思う。
だから、もう私のことは詮索しないはず。

私は、ホテルからでて、ビル街から漏れるまぶしい朝日を浴びながら歩いた。
この辺はSFに出てきそうな超高層ビル群。
戦争の苦悩を経て、私達の生活は、そんな快適な生活に戻っていた。
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