1 / 21
第1章 前兆
1話 脳内の線虫
しおりを挟む
「これは、ひどい。脳内に、これほどの虫がいるとは。」
交通事故で頭を打ち、脳内で出血した血を取り除く手術中だった。
血とともに出てきたのは、体長3cmほどの20匹の線虫。
赤色で細長いうごめく紐のような虫がそこにいた。
「人間の脳内に線虫がいたというケースはあるにはあるが、主に後進国だし、生肉をずっと食べていたとか、野生の爬虫類から感染するようなケースがほとんどだ。でも、この女子高生がそんなもの食べたり、そんな環境で過ごしているようには見えない。それなのに、どういうことだろうか。」
「痛い。手で触ったら、こんなに小さいのに、ゴム手袋を破って噛まれたみたいだ。なんだ、この生き物は?」
「まずは、この線虫を保存して調べてみましょう。先生。」
「そうだな。また、この女子高生に、記憶障害とか、何か症状がなかったか家族にも聞いてみてくれ。」
「わかりました。」
ご家族に聞いた所、ここ1年ぐらい、特に不自然な様子はなかったという。
一般的に脳内に寄生虫とかいると、記憶障害や体調異常となるはずだが。
どうして、この子は普通に暮らしてこれたのだろうか。
線虫は専門の研究所に送られた。
そこでの調査では、現在、認識されている線虫のいずれにも該当しないという。
それ以上に、線虫は、通常、単純構造だが、ムカデ以上に複雑な構造だったというのだ。
伸び縮みする触角があり、脳内で、アブのように、触角の先の歯で噛みつき血を吸う。
その時に麻酔のような液を出し、人は痛みは感じないという。
一見したときにはザラザラという程度であったが、調べると、無数の足がある。
その足は、最初見たときは短かったが、伸び縮みすることがわかった。
そして、その足の先にはトゲがあり、複雑に動くことができる。
更に目に相当する器官もあり、超音波を出して、真っ暗でも、自分の位置が分かる。
小さいが、かなり高度な生き物だ。
繁殖力はそれほどではなく、長期間、人間と共生できるらしい。
いつから、この子に寄生していたのだろうか。
更に、その1匹を殺そうとしたが、300℃以上の熱では殺傷できなかった。
逆に -120℃に冷却すると、動きは止まったが、温度が戻ると再び動き出す。
体皮は柔軟で、針で刺し、中の養分等を吸い出すことができない。
ホルマリンの中で血を与えなかったら、動きは止まったが、殺すことはできなかった。
何なのだろうか?
私は脳外科医なので、頭蓋骨に穴を開け脳を見ることが多い。
その日を境に、この線虫が見つかった患者は増えていった。
また、原因不明で急死した患者の脳を見ると、ほぼ全員からこの線虫が見つかった。
いずれも、日頃は普通に暮らしていたようだ。
特に、ここ数年で、海外や、海、山に行って、何か異常なものに触れた形跡はない。
ただ、生き残っている患者に共通していることがあった。
いずれも、声なき声に操られているらしいのだ。
周りは全く違和感はないらしいが、本人達は、意思に反した行動をとることがあるらしい。
そんな人たちの血液を調べると、極めて小さい球体状のロボットが見つかった。
更に、驚くことに、脳内に線虫がいない人や私にも、血液からこのロボットが見つかった。
どうも、どの人にも血液中に存在しているようだ。
線虫は、体の情報を電波のようなもので、どこかと繋いでいる。
まだロボット状のときには、まだ電波のようなものは発していないことも分かった。
これはなんだろうか? 何が起きているんだろうか?
また、脳内からこの線虫を取り除くことはできなかった。
一旦、すべて取り除いても、どこからかまたわいてくるのだ。
どうも、血液中のロボットがこの線虫になるらしい。
すべての血を入れ替えることはできる。
でも、血管の管にしがみつく、このロボットを全て洗浄するのは不可能だ。
しかも、調べてみると、血液中のロボットは空気感染で体内に入ることが分かった。
私の周りの空気の中にも、無数のロボットが浮遊していた。
だから、私の血液中にいるのだと思う。
これが線虫に成長し、脳内に繁殖するのかは人によって違うみたいだ。
しかし、数ヶ月経つなかで、これらの患者も、多くが死んでいった。
アレルギー症状だった。これは大変な状況だ。
私もアレルギーで死ぬのか? それとも脳をコントロールされてしまうのか。
それとも、発症せずに終わるのか。
窓から外に目をやると、熱い夏の日で、目の前の空気は揺らいでいる。
そんな中でも、私は、恐ろしさで寒気を感じていた。
暗闇に押しつぶされそうだ。
1人の脳外科医が抱えておける問題じゃない。
厚労省に報告するしかない。ただ、誰に報告すればいいのだろうか。
広いリレーションを持つ三木建設の河田常務に相談してみよう。
河田さんは、大学時代の友人から紹介され、最近、私のところに頻繁に来ている。
ただ、来ても、いつも意味がない雑談だけするだけで、何が目的なのかはよくわからない。
だが、彼の広いリレーションは使えそうだ。
「河田さん、これは恐ろしい事実です。もう、私だけで隠しておかないで、日本又は全世界一体として研究を進めないと、大変なことになるんじゃないかと心配です。明日にでも、厚労省に研究結果を報告したいのですが、誰にアクセスしたらいいでしょうか。」
「もう少し、先生が研究を進めたほうがいいじゃないですか。」
「私も、これまでそう考えてきたんですが、もう限界です。河田さんはいろいろな人をご存知なので、厚労省で誰に報告したらいいか教えてもらえますか。」
「そこまでおっしゃるなら止められないですね。報告先ですが、厚労省の生活衛生局の宮崎局長がいいと思います。私から先生が明日14時に、訪問されると宮崎局長に伝えておきます。霞が関の中央合同庁舎5号館の1Fに受付があるので、先生のお名前と、宮崎局長にアポを入れていることをお伝えすれば入れます。」
「ありがとうございます。私は1医師だから、日々、手術ばかりで、厚労省についてはあまり詳しくないので助かります。では、明日14時に宮崎局長に訪問させていただきます。」
「いえいえ、日本のためですから。先生の日々の絶え間ない探究心には頭が下がります。」
翌日昼に、私は、霞が関に向った。
そして、霞が関の駅から、道路に出たときだった。
暴走した車が私に突進してきて、目の前は暗くなっていった。
交通事故で頭を打ち、脳内で出血した血を取り除く手術中だった。
血とともに出てきたのは、体長3cmほどの20匹の線虫。
赤色で細長いうごめく紐のような虫がそこにいた。
「人間の脳内に線虫がいたというケースはあるにはあるが、主に後進国だし、生肉をずっと食べていたとか、野生の爬虫類から感染するようなケースがほとんどだ。でも、この女子高生がそんなもの食べたり、そんな環境で過ごしているようには見えない。それなのに、どういうことだろうか。」
「痛い。手で触ったら、こんなに小さいのに、ゴム手袋を破って噛まれたみたいだ。なんだ、この生き物は?」
「まずは、この線虫を保存して調べてみましょう。先生。」
「そうだな。また、この女子高生に、記憶障害とか、何か症状がなかったか家族にも聞いてみてくれ。」
「わかりました。」
ご家族に聞いた所、ここ1年ぐらい、特に不自然な様子はなかったという。
一般的に脳内に寄生虫とかいると、記憶障害や体調異常となるはずだが。
どうして、この子は普通に暮らしてこれたのだろうか。
線虫は専門の研究所に送られた。
そこでの調査では、現在、認識されている線虫のいずれにも該当しないという。
それ以上に、線虫は、通常、単純構造だが、ムカデ以上に複雑な構造だったというのだ。
伸び縮みする触角があり、脳内で、アブのように、触角の先の歯で噛みつき血を吸う。
その時に麻酔のような液を出し、人は痛みは感じないという。
一見したときにはザラザラという程度であったが、調べると、無数の足がある。
その足は、最初見たときは短かったが、伸び縮みすることがわかった。
そして、その足の先にはトゲがあり、複雑に動くことができる。
更に目に相当する器官もあり、超音波を出して、真っ暗でも、自分の位置が分かる。
小さいが、かなり高度な生き物だ。
繁殖力はそれほどではなく、長期間、人間と共生できるらしい。
いつから、この子に寄生していたのだろうか。
更に、その1匹を殺そうとしたが、300℃以上の熱では殺傷できなかった。
逆に -120℃に冷却すると、動きは止まったが、温度が戻ると再び動き出す。
体皮は柔軟で、針で刺し、中の養分等を吸い出すことができない。
ホルマリンの中で血を与えなかったら、動きは止まったが、殺すことはできなかった。
何なのだろうか?
私は脳外科医なので、頭蓋骨に穴を開け脳を見ることが多い。
その日を境に、この線虫が見つかった患者は増えていった。
また、原因不明で急死した患者の脳を見ると、ほぼ全員からこの線虫が見つかった。
いずれも、日頃は普通に暮らしていたようだ。
特に、ここ数年で、海外や、海、山に行って、何か異常なものに触れた形跡はない。
ただ、生き残っている患者に共通していることがあった。
いずれも、声なき声に操られているらしいのだ。
周りは全く違和感はないらしいが、本人達は、意思に反した行動をとることがあるらしい。
そんな人たちの血液を調べると、極めて小さい球体状のロボットが見つかった。
更に、驚くことに、脳内に線虫がいない人や私にも、血液からこのロボットが見つかった。
どうも、どの人にも血液中に存在しているようだ。
線虫は、体の情報を電波のようなもので、どこかと繋いでいる。
まだロボット状のときには、まだ電波のようなものは発していないことも分かった。
これはなんだろうか? 何が起きているんだろうか?
また、脳内からこの線虫を取り除くことはできなかった。
一旦、すべて取り除いても、どこからかまたわいてくるのだ。
どうも、血液中のロボットがこの線虫になるらしい。
すべての血を入れ替えることはできる。
でも、血管の管にしがみつく、このロボットを全て洗浄するのは不可能だ。
しかも、調べてみると、血液中のロボットは空気感染で体内に入ることが分かった。
私の周りの空気の中にも、無数のロボットが浮遊していた。
だから、私の血液中にいるのだと思う。
これが線虫に成長し、脳内に繁殖するのかは人によって違うみたいだ。
しかし、数ヶ月経つなかで、これらの患者も、多くが死んでいった。
アレルギー症状だった。これは大変な状況だ。
私もアレルギーで死ぬのか? それとも脳をコントロールされてしまうのか。
それとも、発症せずに終わるのか。
窓から外に目をやると、熱い夏の日で、目の前の空気は揺らいでいる。
そんな中でも、私は、恐ろしさで寒気を感じていた。
暗闇に押しつぶされそうだ。
1人の脳外科医が抱えておける問題じゃない。
厚労省に報告するしかない。ただ、誰に報告すればいいのだろうか。
広いリレーションを持つ三木建設の河田常務に相談してみよう。
河田さんは、大学時代の友人から紹介され、最近、私のところに頻繁に来ている。
ただ、来ても、いつも意味がない雑談だけするだけで、何が目的なのかはよくわからない。
だが、彼の広いリレーションは使えそうだ。
「河田さん、これは恐ろしい事実です。もう、私だけで隠しておかないで、日本又は全世界一体として研究を進めないと、大変なことになるんじゃないかと心配です。明日にでも、厚労省に研究結果を報告したいのですが、誰にアクセスしたらいいでしょうか。」
「もう少し、先生が研究を進めたほうがいいじゃないですか。」
「私も、これまでそう考えてきたんですが、もう限界です。河田さんはいろいろな人をご存知なので、厚労省で誰に報告したらいいか教えてもらえますか。」
「そこまでおっしゃるなら止められないですね。報告先ですが、厚労省の生活衛生局の宮崎局長がいいと思います。私から先生が明日14時に、訪問されると宮崎局長に伝えておきます。霞が関の中央合同庁舎5号館の1Fに受付があるので、先生のお名前と、宮崎局長にアポを入れていることをお伝えすれば入れます。」
「ありがとうございます。私は1医師だから、日々、手術ばかりで、厚労省についてはあまり詳しくないので助かります。では、明日14時に宮崎局長に訪問させていただきます。」
「いえいえ、日本のためですから。先生の日々の絶え間ない探究心には頭が下がります。」
翌日昼に、私は、霞が関に向った。
そして、霞が関の駅から、道路に出たときだった。
暴走した車が私に突進してきて、目の前は暗くなっていった。
1
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
【Vtuberさん向け】1人用フリー台本置き場《ネタ系/5分以内》
小熊井つん
大衆娯楽
Vtuberさん向けフリー台本置き場です
◆使用報告等不要ですのでどなたでもご自由にどうぞ
◆コメントで利用報告していただけた場合は聞きに行きます!
◆クレジット表記は任意です
※クレジット表記しない場合はフリー台本であることを明記してください
【ご利用にあたっての注意事項】
⭕️OK
・収益化済みのチャンネルまたは配信での使用
※ファンボックスや有料会員限定配信等『金銭の支払いをしないと視聴できないコンテンツ』での使用は不可
✖️禁止事項
・二次配布
・自作発言
・大幅なセリフ改変
・こちらの台本を使用したボイスデータの販売

ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
【フリー台本】朗読小説
桜来
現代文学
朗読台本としてご使用いただける短編小説等です
一話完結 詰め合わせ的な内容になってます。
動画投稿や配信などで使っていただけると嬉しく思います。
ご報告、リンクなどは任意ですが、作者名表記はお願いいたします。
無断転載 自作発言等は禁止とさせていただきます。
よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる