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2話 やっとできた友達
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理恵の体になって2ヶ月ぐらい経ち、女性として暮らすことは慣れてきた。最初、話し方はやや浮いている感じで、なんか暗くないって言われたけど、今では、すっかりマスターし、どこから見ても女子高生に見えるようになったと思う。
でも、女子校だから、女性どうしで話すんだけど、恋バナとか、クラスメイトの悪口とか、服の流行とかの話しが多かったわ。異性と付き合ったことないし、何を話していいのかよくわからない。
最初は、しくじってクラスメートから嫌われちゃったけど、まずは相手のこと否定しちゃダメなのね。ニコニコ笑顔で聞いて、肯定したうえで、自分の意見があれば、でも、こんなこともあるかもっていうぐらいがいいい。
最初から、結論を決めてるって思ったら、違うと思っても否定せずに、私もそう思うって言ってる方が無難。なんとなく、女性としての付き合い方もわかってきたわ。
でも、最初のしくじりもあり、なんとなく、自分のクラスでは浮いたままだったの。もしかしたら、女性どうしの恋バナとか、興味もなかったのが顔に出てたかも。
そもそも、私の顔って暗い感じだし、それに輪をかけて、つまらないなんて考えていたら、好かれるはずがないと、私も思う。
私が1人で席に座ってても、誰も話しかけてこないし、話そうと女性の輪に入ると、なんか雰囲気が悪くなったとか言って、みんなどっか行っちゃう。頭ではわかるんだけど、どうしたら、仲良くできるんだろう。
そのうち、私の教科書にマジックでいたずら書きとかも出てきた。昔と一緒。女性だから暴力とかにはならないみたいだけど、みんなが私を嫌いっていうのは変わらない。私って、こういう星の下に生まれてきたのかしら。
私は、女性としてやり直しても、結局、何も変わらないんだ。でも、男性の時は、それをヘラヘラと笑って見過ごしていたのが、いじめをエスカレーションしたんだから、抵抗する姿勢を示した方がいいかもしれないって思った。
そんな時、次が体育の時間だからって、教室では、みんなが体操服に着替えていたんだけど、私は、自分のブルマがないことに気づいた。朝は、確実に袋に入れて、袋は破れていないから、ここにあるはず。これも、昔、よく経験したいじめに違いない。
体育の先生に、絶対にあるはずのブルマがないって話し、これは誰かが盗んだに違いない、いずれにしても今日の体育は出れないと怒りをぶつけた。昔の記憶がよみがえり、思っている以上に語気が強まってしまったかも。
担任の先生は、夕方、授業が終わってホームルームをしている時に、残念な事件が発生したと伝え、今回は、犯人は探さないから、このようなことは二度と起こさないようにと注意をした。
なんで、犯人を探さないのよって、私の顔は怒りに満ちていたんだと思う。そんな私を見て、みんな、誰がちくったのか分かっていたので、私は、それまでに増して、みんなから嫌われるようになっていったの。
そして、帰るときに、クラスのゴミ箱を見たら、私のブルマがあった。どうして、こんなことするんだろう。何が面白んだろう。私のことが嫌いなら、放っておいてよ。
やっぱり、私は、いつも、みんなから嫌われるのね。性格が悪いのかも。でも、これ以降、私の物がなくなるとか、教科書にいたずら書きがされるといったことはなくなったの。
でも逆に、みんな私を敬遠するようになり、誰も話しかけてこなくなったわ。こちらから話しても、みんな逃げていく。私は完全に孤立してしまったの。
嫌われているのは変わらないけど、さらに、怖がられてるみたい。なんか、私は、暴力を振るうとか、柄が悪い男性を使って、周りの女性を強姦してるとか、ありもしない噂が広まっていった。
そんなこと、してないって。私が何をしたっていうのよ。クラスメートに手をあげたことなんてない。むしろ、みんなが私をいじめてるんじゃない。
どうやったら、みんなと仲良くできるんだろう。男性から女性に変わっても、人と仲良くできない状況は変わらない。
そんな中、横のクラスの美沙が声をかけてきた。
「あなたが理恵? 私、隣のクラスの美沙だけど、知っているよね。変な私の噂、噂じゃなくて本当なんだけど、流れているもんね。ところで、あなた、なんかB組で嫌われているらしいじゃない。気にしないで、毎日学校きているって、かっこいい。」
「それって、褒めてる?」
「褒めてる、褒めてる。ところでさ、私、大正高校の彼と付き合っているんだけど、彼の友達と遊園地行こうって盛り上がっているの。一緒に行かない? 男性3人、女性3人で考えているんだけど、あと女性1人足りなくてさ。別に数合わせで誘っているんじゃないわよ。理恵って可愛いし、なんか、男性の1人が街中であなた見かけて、誘ってくれないかって言われたのよ。どう?」
「いつ?」
「今週の土曜日だけど。」
「じゃあ、行ってみようかな?」
「これで決まりね。東京駅の京葉線改札口に朝7時に集合ね。待ってるから来てね。持ってくるものはお金だけで、他に何もいらないから。男性陣がいるから、1万円で足りるかな。ランチとか園内で食べるし、お弁当とかはいらないよ。じゃあね。」
「分かった。」
ちょうど、女性になったんだから、男性と付き合う経験も必要かなって思っていたの。だから、すんなり決められた。日ごろ、女性としか話すことがないけど、男性と会って、何か変わるかもしれないって。
高校生とはいえ学生だし、軽く1万円って言ってたけど、けっこう大金だと思ったわ。でも、この学校は裕福な親が多く、贅沢な生活をしていたので、お財布見たら、お小遣いで十分足りた。
土曜日の朝、集合して遊園地に向かったの。男性の中で、和人さんという人が積極的に話しかけてきたから、私を呼んだのは、この人ね。
「理恵ちゃんって、可愛いよね。彼とかいないんでしょ。」
「いないよ。いたら、今日、来ないでしょ。」
「そうだよね。休日とか何しているの?」
「う~ん。言えるほどのことしてないかな。ゴロゴロしたり、渋谷とかにショッピングに行ったりとか。」
「そうなんだ。俺、今、地元のサッカーチームに入っていて、今度、出るから、見に来てよ。」
「すごい。そうなんだ。地元って、どこ?」
「富ヶ谷なんだ。」
「それなら近くだから、日程が合えば応援に行くね。」
「やった。」
そんな会話が続き、遊園地の中で、洞窟のような通路でアトラクション待ちをしている時、その彼は、私の手を握ってきた。なんか気持ち悪いと思い、手を払ってしまった。
「理恵ちゃんは、恥ずかしがり屋だね。」
そんなんじゃないのに、誤解して笑って私を見ていたの。なんか男性から触られるのが嫌なんだけど。でも、そう言うのもなんだから、恥ずかしがり屋ということで済ませておくことにした。まあ、今日は、適当に受け流しておこうって。
ランチとか、和人さんは私の横に座ってきた。なんか、面倒だななんて思ったんだけど、そんなこと言うと、和やかな雰囲気を壊すので黙ってたの。それを、和人さんは誤解していたみたい。人見知りな人なんだなって。
夜になり、パレードを見て、いつの間にか、男女3人組がバラバラになり、男性が女性を送るということになった。私には、成り行きで和人さんが送り役になった。
美沙に、一緒に帰ろうよと言ったけど、何言っているの、邪魔しないで、彼とうまくやりなさいよと断られてしまった。女友達って、本当に薄っぺらいのね。
自宅の最寄りの駅に着き、道路を歩いていると、横にあった公園が素敵だから見に行こうと誘われ、ついて行くしかなかった。そこで、ベンチに座り、満月を二人で見て、彼から話しが続いた。
その時、いきなり彼はキスをしてきた。びっくりして、動けずにいたけど、正気に戻り、彼を両手で押し、走り出した。やっぱり、男性とキスなんて無理。やっぱり、私の本質は男性なのよ。男性と手を握ったり、キスをしたり、エッチをするなんて考えられない。
本当に気持ち悪い。だめ。でも、和人さんは、相変わらず、私が奥手で、このまま押し続ければ落ちるって思っていたんだと思う。
私は、男性と付き合うことで変わるかもと思ってたんだけど、そもそも、変わる前に、男性と付き合うことが気持ち悪いと思う自分がいて、それで自分が変わるのは無理なんだって気づいたの。
その後、彼から、交換したLINEでサッカー見にきてとかメッセージが来たけど、無視した。付き合うつもりがないのにダラダラとする方が迷惑だものね。
数日後、美沙から、あまり奥手だと、チャンス逃しちゃうぞと言われたけど、ごめん、タイプじゃなくてとごまかしておいた。美沙とは、これからも友達でいたいから、本当のことを言うのはやめた。
多分、美沙から、和人さんには、やんわりと断ってくれたんだと思う。それから、和人さんから連絡は来なくなった。美沙は、やっぱりいい人ね。みんなから嫌われている人って、見た目は怖いけど、実はとっても純粋で、優しい人も多いって感じた。
そんな美沙であっても、私がもともと男性だったなんて言っても信じてもらえないものね。また、男性が好きになれないのって言っても、経験がないからでしょ、まずは寝ちゃえばなんて言われるのが関の山。誰も私のことなんて理解できないと思う。
その日は、誰からも理解されない自分が、一人ぼっちだと思い、枕を涙で濡らした。そういえば、男性の時も、いじめられていることを親にも先生にも言えず、一人で毎日悩んでた。今も一緒。私の悩みを共有できる人は一人もいない。
その晩、外は温かいはずだったけど、私の周りは凍りつくぐらいで、寂しさに押し殺されそうになったの。
そんなことを思うなか、数日後、電車を乗っていたら、ドキドキするぐらい魅力的な女性を見つけ、ずっと見いってしまったの。可愛らしい笑顔、背は低くて守ってあげたい。カバンにつけてるマスコットとか、微笑ましい。
なんか、英語の勉強をしてるようで、小さいけど、少しだけ漏れる声も、とても可愛い。今、私の方を見たけど、笑顔で、挨拶をしてくれたように見えた。
女性をそんな風に見るって、もともと男性だったんだから、不思議ではないわよね。でも、世の中的には、体は女性なんだから、異常者とか思われてしまうかもしれない。
私と付き合ってなんて言ったら、変態って大声で叫んじゃうかも。そうよね。どうしてか、いまだにわからないけど、私の体は女性。女性が女性を好きになるなんて異常だもの。
この女性には近づきたいけど、それ以上に近づくと、嫌われちゃう。本当に苦しい。どうしたらいいの。私には、永遠に幸せって訪れないのかしら。
そうは言っても、無意識のうちに彼女を後ろからついていったの。彼女がスタバに入ったので、後ろから入ってみると、店内は混んでいた。
「あの~。混んでいるので、相席してもいいですか。」
「ええ、ぜひ、ぜひ。ちょうど、誰か話し相手が欲しかったし。その制服、清和女学院の高等部のですよね。私、横にある渋谷区立第一高等学校に行っているの。」
「そうなんだ。セーラー服も可愛いわね。」
「そうかな。ブレザーの方が良かったんだけど。そういえば、昔から気になっていたんだけど、女子校って、どんな感じなの。陰険ないじめが多いとか。」
「そんな陰険ないじめとかないと思うけど、なんか男性がいないから、気が緩んでいるというか、席に座っているときに、スカートの裾を両手で持って上下させて、涼しいとか言ってる人もいて、信じられないわよね。」
「そうなんだ。こっちは共学で、男性もいるから、緊張感もあって、いい雰囲気よ。外国ではトイレとか男女兼用のところもあって、そんな所では、お互いに気を使うから、女性どうしの悪口で時間を使うとかもないらしい。日本でも、その方がいいかもね。他に、なんか面白いことある。」
「う~ん。男性の汗臭い匂いとかないからか、柑橘系の匂いとか、独特の雰囲気はあるわね。でも、私、男性には、そんなに興味ないから、女子校でよかったかな。」
「本当? 男性と会う機会が少ないから男性の良さに気づかないだけよ。男性は、優しいし、私、今は彼がいないけど、早く欲しいな。」
「早くできるといいわね。そういえば、私、理恵。名前は何ていうの?」
「祐美よ。」
「祐美、せっかく知り合いになったんだし、LINEを交換してよ。」
「いいわよ。」
私は、祐美のリップがついたカップ、それを拭く仕草、ずっと目が離せなかった。そして、祐美の可愛らしい声も、ずっとうっとりして聞いていたの。
笑顔も愛らしい。私の理想が目の前にいるって感じ。体も、下品にバストが大きいとかなくて、スタイルは自然だけど、なんか、妖精のように自然なウェーブを描いてる。
なんの香りかしら。甘い香りがする。まだ高校生だけど、香水をつけているんだと思う。とってもすてきで、上品な香り。
そんな会話をして別れたけど、私の気持ちは最高潮だった。これ以上、進むことはできないとしても、祐美と会うことはできる。そして、いろんな話しもできる。
もちろん、最初はいじめとか暗い話しはしない。でも、そのうち、クラスメートへの文句とか、話せるかもしれない。また、女性の嫌らしい所とか共有できるかもしれない。
いや、祐美みたいに可愛らしい人の横にいるだけでも、幸せ。こんな人に出会えたのは、これまで苦労してきたご褒美かも。本当にありがとう。
それから、祐美を、しばしば誘い、クラスメートより親しく過ごす時間が増えていった。
でも、女子校だから、女性どうしで話すんだけど、恋バナとか、クラスメイトの悪口とか、服の流行とかの話しが多かったわ。異性と付き合ったことないし、何を話していいのかよくわからない。
最初は、しくじってクラスメートから嫌われちゃったけど、まずは相手のこと否定しちゃダメなのね。ニコニコ笑顔で聞いて、肯定したうえで、自分の意見があれば、でも、こんなこともあるかもっていうぐらいがいいい。
最初から、結論を決めてるって思ったら、違うと思っても否定せずに、私もそう思うって言ってる方が無難。なんとなく、女性としての付き合い方もわかってきたわ。
でも、最初のしくじりもあり、なんとなく、自分のクラスでは浮いたままだったの。もしかしたら、女性どうしの恋バナとか、興味もなかったのが顔に出てたかも。
そもそも、私の顔って暗い感じだし、それに輪をかけて、つまらないなんて考えていたら、好かれるはずがないと、私も思う。
私が1人で席に座ってても、誰も話しかけてこないし、話そうと女性の輪に入ると、なんか雰囲気が悪くなったとか言って、みんなどっか行っちゃう。頭ではわかるんだけど、どうしたら、仲良くできるんだろう。
そのうち、私の教科書にマジックでいたずら書きとかも出てきた。昔と一緒。女性だから暴力とかにはならないみたいだけど、みんなが私を嫌いっていうのは変わらない。私って、こういう星の下に生まれてきたのかしら。
私は、女性としてやり直しても、結局、何も変わらないんだ。でも、男性の時は、それをヘラヘラと笑って見過ごしていたのが、いじめをエスカレーションしたんだから、抵抗する姿勢を示した方がいいかもしれないって思った。
そんな時、次が体育の時間だからって、教室では、みんなが体操服に着替えていたんだけど、私は、自分のブルマがないことに気づいた。朝は、確実に袋に入れて、袋は破れていないから、ここにあるはず。これも、昔、よく経験したいじめに違いない。
体育の先生に、絶対にあるはずのブルマがないって話し、これは誰かが盗んだに違いない、いずれにしても今日の体育は出れないと怒りをぶつけた。昔の記憶がよみがえり、思っている以上に語気が強まってしまったかも。
担任の先生は、夕方、授業が終わってホームルームをしている時に、残念な事件が発生したと伝え、今回は、犯人は探さないから、このようなことは二度と起こさないようにと注意をした。
なんで、犯人を探さないのよって、私の顔は怒りに満ちていたんだと思う。そんな私を見て、みんな、誰がちくったのか分かっていたので、私は、それまでに増して、みんなから嫌われるようになっていったの。
そして、帰るときに、クラスのゴミ箱を見たら、私のブルマがあった。どうして、こんなことするんだろう。何が面白んだろう。私のことが嫌いなら、放っておいてよ。
やっぱり、私は、いつも、みんなから嫌われるのね。性格が悪いのかも。でも、これ以降、私の物がなくなるとか、教科書にいたずら書きがされるといったことはなくなったの。
でも逆に、みんな私を敬遠するようになり、誰も話しかけてこなくなったわ。こちらから話しても、みんな逃げていく。私は完全に孤立してしまったの。
嫌われているのは変わらないけど、さらに、怖がられてるみたい。なんか、私は、暴力を振るうとか、柄が悪い男性を使って、周りの女性を強姦してるとか、ありもしない噂が広まっていった。
そんなこと、してないって。私が何をしたっていうのよ。クラスメートに手をあげたことなんてない。むしろ、みんなが私をいじめてるんじゃない。
どうやったら、みんなと仲良くできるんだろう。男性から女性に変わっても、人と仲良くできない状況は変わらない。
そんな中、横のクラスの美沙が声をかけてきた。
「あなたが理恵? 私、隣のクラスの美沙だけど、知っているよね。変な私の噂、噂じゃなくて本当なんだけど、流れているもんね。ところで、あなた、なんかB組で嫌われているらしいじゃない。気にしないで、毎日学校きているって、かっこいい。」
「それって、褒めてる?」
「褒めてる、褒めてる。ところでさ、私、大正高校の彼と付き合っているんだけど、彼の友達と遊園地行こうって盛り上がっているの。一緒に行かない? 男性3人、女性3人で考えているんだけど、あと女性1人足りなくてさ。別に数合わせで誘っているんじゃないわよ。理恵って可愛いし、なんか、男性の1人が街中であなた見かけて、誘ってくれないかって言われたのよ。どう?」
「いつ?」
「今週の土曜日だけど。」
「じゃあ、行ってみようかな?」
「これで決まりね。東京駅の京葉線改札口に朝7時に集合ね。待ってるから来てね。持ってくるものはお金だけで、他に何もいらないから。男性陣がいるから、1万円で足りるかな。ランチとか園内で食べるし、お弁当とかはいらないよ。じゃあね。」
「分かった。」
ちょうど、女性になったんだから、男性と付き合う経験も必要かなって思っていたの。だから、すんなり決められた。日ごろ、女性としか話すことがないけど、男性と会って、何か変わるかもしれないって。
高校生とはいえ学生だし、軽く1万円って言ってたけど、けっこう大金だと思ったわ。でも、この学校は裕福な親が多く、贅沢な生活をしていたので、お財布見たら、お小遣いで十分足りた。
土曜日の朝、集合して遊園地に向かったの。男性の中で、和人さんという人が積極的に話しかけてきたから、私を呼んだのは、この人ね。
「理恵ちゃんって、可愛いよね。彼とかいないんでしょ。」
「いないよ。いたら、今日、来ないでしょ。」
「そうだよね。休日とか何しているの?」
「う~ん。言えるほどのことしてないかな。ゴロゴロしたり、渋谷とかにショッピングに行ったりとか。」
「そうなんだ。俺、今、地元のサッカーチームに入っていて、今度、出るから、見に来てよ。」
「すごい。そうなんだ。地元って、どこ?」
「富ヶ谷なんだ。」
「それなら近くだから、日程が合えば応援に行くね。」
「やった。」
そんな会話が続き、遊園地の中で、洞窟のような通路でアトラクション待ちをしている時、その彼は、私の手を握ってきた。なんか気持ち悪いと思い、手を払ってしまった。
「理恵ちゃんは、恥ずかしがり屋だね。」
そんなんじゃないのに、誤解して笑って私を見ていたの。なんか男性から触られるのが嫌なんだけど。でも、そう言うのもなんだから、恥ずかしがり屋ということで済ませておくことにした。まあ、今日は、適当に受け流しておこうって。
ランチとか、和人さんは私の横に座ってきた。なんか、面倒だななんて思ったんだけど、そんなこと言うと、和やかな雰囲気を壊すので黙ってたの。それを、和人さんは誤解していたみたい。人見知りな人なんだなって。
夜になり、パレードを見て、いつの間にか、男女3人組がバラバラになり、男性が女性を送るということになった。私には、成り行きで和人さんが送り役になった。
美沙に、一緒に帰ろうよと言ったけど、何言っているの、邪魔しないで、彼とうまくやりなさいよと断られてしまった。女友達って、本当に薄っぺらいのね。
自宅の最寄りの駅に着き、道路を歩いていると、横にあった公園が素敵だから見に行こうと誘われ、ついて行くしかなかった。そこで、ベンチに座り、満月を二人で見て、彼から話しが続いた。
その時、いきなり彼はキスをしてきた。びっくりして、動けずにいたけど、正気に戻り、彼を両手で押し、走り出した。やっぱり、男性とキスなんて無理。やっぱり、私の本質は男性なのよ。男性と手を握ったり、キスをしたり、エッチをするなんて考えられない。
本当に気持ち悪い。だめ。でも、和人さんは、相変わらず、私が奥手で、このまま押し続ければ落ちるって思っていたんだと思う。
私は、男性と付き合うことで変わるかもと思ってたんだけど、そもそも、変わる前に、男性と付き合うことが気持ち悪いと思う自分がいて、それで自分が変わるのは無理なんだって気づいたの。
その後、彼から、交換したLINEでサッカー見にきてとかメッセージが来たけど、無視した。付き合うつもりがないのにダラダラとする方が迷惑だものね。
数日後、美沙から、あまり奥手だと、チャンス逃しちゃうぞと言われたけど、ごめん、タイプじゃなくてとごまかしておいた。美沙とは、これからも友達でいたいから、本当のことを言うのはやめた。
多分、美沙から、和人さんには、やんわりと断ってくれたんだと思う。それから、和人さんから連絡は来なくなった。美沙は、やっぱりいい人ね。みんなから嫌われている人って、見た目は怖いけど、実はとっても純粋で、優しい人も多いって感じた。
そんな美沙であっても、私がもともと男性だったなんて言っても信じてもらえないものね。また、男性が好きになれないのって言っても、経験がないからでしょ、まずは寝ちゃえばなんて言われるのが関の山。誰も私のことなんて理解できないと思う。
その日は、誰からも理解されない自分が、一人ぼっちだと思い、枕を涙で濡らした。そういえば、男性の時も、いじめられていることを親にも先生にも言えず、一人で毎日悩んでた。今も一緒。私の悩みを共有できる人は一人もいない。
その晩、外は温かいはずだったけど、私の周りは凍りつくぐらいで、寂しさに押し殺されそうになったの。
そんなことを思うなか、数日後、電車を乗っていたら、ドキドキするぐらい魅力的な女性を見つけ、ずっと見いってしまったの。可愛らしい笑顔、背は低くて守ってあげたい。カバンにつけてるマスコットとか、微笑ましい。
なんか、英語の勉強をしてるようで、小さいけど、少しだけ漏れる声も、とても可愛い。今、私の方を見たけど、笑顔で、挨拶をしてくれたように見えた。
女性をそんな風に見るって、もともと男性だったんだから、不思議ではないわよね。でも、世の中的には、体は女性なんだから、異常者とか思われてしまうかもしれない。
私と付き合ってなんて言ったら、変態って大声で叫んじゃうかも。そうよね。どうしてか、いまだにわからないけど、私の体は女性。女性が女性を好きになるなんて異常だもの。
この女性には近づきたいけど、それ以上に近づくと、嫌われちゃう。本当に苦しい。どうしたらいいの。私には、永遠に幸せって訪れないのかしら。
そうは言っても、無意識のうちに彼女を後ろからついていったの。彼女がスタバに入ったので、後ろから入ってみると、店内は混んでいた。
「あの~。混んでいるので、相席してもいいですか。」
「ええ、ぜひ、ぜひ。ちょうど、誰か話し相手が欲しかったし。その制服、清和女学院の高等部のですよね。私、横にある渋谷区立第一高等学校に行っているの。」
「そうなんだ。セーラー服も可愛いわね。」
「そうかな。ブレザーの方が良かったんだけど。そういえば、昔から気になっていたんだけど、女子校って、どんな感じなの。陰険ないじめが多いとか。」
「そんな陰険ないじめとかないと思うけど、なんか男性がいないから、気が緩んでいるというか、席に座っているときに、スカートの裾を両手で持って上下させて、涼しいとか言ってる人もいて、信じられないわよね。」
「そうなんだ。こっちは共学で、男性もいるから、緊張感もあって、いい雰囲気よ。外国ではトイレとか男女兼用のところもあって、そんな所では、お互いに気を使うから、女性どうしの悪口で時間を使うとかもないらしい。日本でも、その方がいいかもね。他に、なんか面白いことある。」
「う~ん。男性の汗臭い匂いとかないからか、柑橘系の匂いとか、独特の雰囲気はあるわね。でも、私、男性には、そんなに興味ないから、女子校でよかったかな。」
「本当? 男性と会う機会が少ないから男性の良さに気づかないだけよ。男性は、優しいし、私、今は彼がいないけど、早く欲しいな。」
「早くできるといいわね。そういえば、私、理恵。名前は何ていうの?」
「祐美よ。」
「祐美、せっかく知り合いになったんだし、LINEを交換してよ。」
「いいわよ。」
私は、祐美のリップがついたカップ、それを拭く仕草、ずっと目が離せなかった。そして、祐美の可愛らしい声も、ずっとうっとりして聞いていたの。
笑顔も愛らしい。私の理想が目の前にいるって感じ。体も、下品にバストが大きいとかなくて、スタイルは自然だけど、なんか、妖精のように自然なウェーブを描いてる。
なんの香りかしら。甘い香りがする。まだ高校生だけど、香水をつけているんだと思う。とってもすてきで、上品な香り。
そんな会話をして別れたけど、私の気持ちは最高潮だった。これ以上、進むことはできないとしても、祐美と会うことはできる。そして、いろんな話しもできる。
もちろん、最初はいじめとか暗い話しはしない。でも、そのうち、クラスメートへの文句とか、話せるかもしれない。また、女性の嫌らしい所とか共有できるかもしれない。
いや、祐美みたいに可愛らしい人の横にいるだけでも、幸せ。こんな人に出会えたのは、これまで苦労してきたご褒美かも。本当にありがとう。
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