誰か、私を殺して

一宮 沙耶

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第6章 東京生活

4話 朋美との再会

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私は、雪が降る東京が好き。
大正の頃のように寒々しい風景ではなく、ビル群の煌々とした光の中を雪が舞う。
そして、薄っすらと地面を雪が覆うと、汚いものもすべて消してくれる。
汚らわしい私も、清めてくれそう。

そして、私は夏よりも冬が好き。
寒い空気を吸い込むと、頭は冴え、荘厳な雰囲気になれる。
夏は、仲間で汗だくになって騒ぐような雰囲気があり、私には向かない。

そういえば、人は、自分が生まれた月が好きだとか。
私の誕生日が2月だということにも関係しているのかもね。
まあ、そんなこと関係ないか。美しいこの風景が好きなだけ。

今日の天気予報で東京に雪が降り、5cmぐらい積もるって言っていたわね。
雪が舞う六本木を歩き、高いビル群を見上げていた。
そして、雪で電車に影響がでると困ると急に現実的になり、帰路についたの。

その時だった。横断歩道の先に朋美がいる。私の時間は止まった。
私から去っていった朋美が目の前にいる。
私は、思わず、朋美に向かって走り出していた。

これって、日々悲しい思いをしている私への神様からのご褒美なの?
今、声を掛ければ、再び、昔のような関係に戻れる可能性はゼロじゃない。
それが無理でも、今、5分でも朋美の声を聞きたい。私が愛した人。

もしかしたら、子供を産んだから、もう女性と付き合っても神様は怒らない?
そう思って、私のところに帰ってきたのかしら。そうかもしれない。

1人で歩く朋美は真っ赤なワンピースに包まれていた。
すらっとしつつ、魅力的なスタイル。
一面の花畑の中で、一輪、鮮やかに咲いた薔薇のよう。

風に髪がたなびき、ぷっくりとした唇が存在感を増す。
整った鼻筋も、相変わらず日本人離れしているわね。歩き方もモデルみたい。
あの大好きな朋美がすぐそばにいる。

私の高なる心は、もう止められない。
顔から、笑顔が溢れていたんだと思う。
ハイヒールなんて壊れていい。走りづらいことなんて、頭のどこにも感じていなかった。

走り出した私に何人かぶつかったけど、私の目には誰も見えなかった。
ビルや周りの飲食店から漏れる光が朋美を中心に渦を巻き始める。
その光は朋美をライトアップし、朋美はより美しく輝いている。

粉雪もが朋美の周りに集まり、朋美を愛でるよう。
そう、朋美は美しかった。そして、心も清らかだった。
私と別れたのは、不幸な事故のせい。
だって、私達の絆は強かったもの。

朋美も気づいてくれた。私に微笑みかけ、手を振っている。
そう、私への気持ちは続いていたのね。
もしかしたら、私と再び付き合いたいとか。
今日は、私がここにいることを知っていて、会いに来てくれたのかも。

期待しすぎとは思いつつ、もしかしたらという気持ちを抑えられなかった。
だって、そうじゃなければ、私に手を振ってくれるはずがない。
あれだけ悲しい別れをしたんだから。

でも、朋美に手が届くぐらい近づいた時に、その女性は朋美ではないことに気づいたの。
これは、異能力者。先日、私が殺した男性と同じ気を感じるもの。
私の気持ちを弄ぶなんてひどい。

「あなたは朋美じゃないわね。異能力者。どうやって朋美になりすませたの?」
「気づいたんだな。俺は、見たことがある人なら、顔、体、声を自由に変えられるんだ。組織の上から、お前を仲間に連れ込めと指示が来たんだよ。そして、お前は朋美という女性に未練があるから、その姿をすれば、お前の方から近づいてくると言われたんだ。そのとおりだったから、上はすごい。ただ、女性の体になって、外を歩くのは初めてだが、恥ずかしいものだな。」
「そういうことだったの。ひどいわ。私の朋美に対する気持ちを利用するなんて。」
「組織なんて、そんなもんだよ。逆に、そこまで上に気に入られているお前は何者なんだよ。1人味方を殺ったのにもかかわらず、仲間にしたいんだってよ。まあ、そういうことだから仲間になれよ。それでも断るというなら、組織は朋美を放おっておかないと思うけどな。」
「それはやめて。わかったわよ。何ができるかわからないけど、一員にはなるわ。だから朋美のことは放っといて。」
「わかればいいんだよ。早く、そう返事しておけばよかったんだが。」

朋美の姿で、声で、朋美が言うはずもないことを聞いて吐き気がした。
別人だと頭ではわかっていたのよ。
でも、朋美の姿を目の前にして、朋美との楽しかった日々のことを思い出していた。

私から雪が清らかだっていう気持ちを奪った組織は許せない。
でも、朋美がなにもなく今後も無事に過ごせることに勝るものはないわね。
私は堀を埋められて、チェックメイトとなってしまったんだと思う。

そして、しばらくは、昔の華族としての知識を利用された。
政治家について、誰が誰とどういう関係なのかなどということを。
それぐらいで、朋美に被害が及ばないならいいわ。
私の愛した朋美、これからも幸せに過ごしてね。
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