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第3章 逃げる
3話 人体実験
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俺は、田舎の貧しい家庭で育った。
親は農作物を作り、自給自足の生活をしていたが、生活は苦しかった。
そんな生活だから、中学生のときもクラブ活動とかは本気でできなかった。
クラスでは、付き合いの悪いやつだといじめる奴もでてきた。
でも、俺は決して負けるようなヤワじゃない。
攻撃には攻撃で対抗しているうちに恐れられ、誰も俺には近づかなくなった。
だからだと思うが、この世の中でのし上がってやろうという思いは誰よりも強かった。
ただ、そのためにも金が必要だったんだ。
高校生の俺でもできることとして、ある医療機関が募集していた人体事件に応募した。
何を研究していたのかは知らない。
どうして俺のことがわかったのかは不明だが、破格の報酬を出すからと実験に誘われた。
もちろん、そんな甘い話しはないから、危ない実験だとは思ったんだよ。
でも、破格の報酬というのは俺にとって魅力的だった。
こんな生活を続けるのなら死んでるのと同じだし、こんな生活にしがみつく理由もない。
いつ死んでもいいと思っていたので、その場で応募することに承諾した。
その後、健康診断でOKとなり、その場で得体がわからない薬1錠を飲んだ。
それから毎日、血液とか脈拍とかを調べていたが、変わったことは何もなかった。
なんの実験だったのだろうか。
最初の説明会だけしか会わなかったけど、被験者は20人ぐらいだった。
被験者の年齢はバラバラで、高校生の俺が一番若かったと思う。
いずれも男性で、女性が対象外だったのか、別の施設で実験されていたのかは知らない。
でも、毎日、お腹いっぱい美味しい料理を食べられるし、毎月5万円もお小遣いもでる。
夢のような生活を過ごせた。
みぞれが降る寒い冬の日に施設に入ったけど、時間は過ぎていった。
窓から梅、桜がみえて季節の移り変わりが感じられた。
その後、つつじ、紫陽花を経て、施設を出たのは、陽が強く照りつける熱い夏だった。
他の被験者がどうなったかは不明だが、半分は実験の途中で亡くなったという噂も聞いた。
でも、俺は、1つ気付いたことがあった。
鏡を見ながら、先生の顔を考えていたら、鏡の顔が先生の顔になっているのに気付いた。
どうして先生が目の前に? いや、それは違う。俺の顔が先生の顔になったんだ。
そして、先生にそのことを伝えると、とても嬉しそうにしていた。どういうことだ?
「実験の参加、ありがとうございます。実は、この実験は異能力を身につける薬の開発のためだったんです。未だ、どういう人に効果がでるのか、そして、どういう条件で、どのような異能力が発現するのかは不明ですが、一定の確率で異能力を発現することがわかったんです。それだけでも、世界的発明だと言える。」
「そうなんですね。じゃあ、女性にも変われるのかな?」
「やってみなさい。あの看護婦とかはどうでしょうか。」
俺が試してみると、服装は変わらないが、その看護婦とそっくりな姿に変われた。
看護婦は気持ち悪いものでも見るような顔をしていたが、医者は笑顔で笑い始めた。
「すごいですね。ところで、1つお願いがあります。実は私も異能力を持っていますが、異能力者どうしで組織を作っていて、異能力者を中心とした世の中を作ろうとしているんです。君にも、この組織に参加してもらいたいと考えています。」
「参加するとどうなるんですか?」
「組織から年に1回ぐらい指示が来るから、それを実行するっていう感じですかね。別人になりきれるというのは、とても使える能力ですよ。」
「お金はもらえるんですか?」
「そうですね。それが条件であれば。」
「逆に、断れば、どうなるんですか?」
「我々の秘密を知った以上、我々の組織に参加しなければ殺すしかありません。」
「まあ、わかりました。参加する、参加する。いいことしかなさそうだし。」
「では、これでこの病院を退院していいです。連絡が後日いくので、待機しておいてください。」
「学校に行ったり、卒業後に、東京に移ったり、どこかの会社に就職してもいいんですか?」
「かまいません。ただ、事件を起こして牢獄に入れられるとか、注目されたりすると、こちらからの指示に差し障りがでるので、静かに過ごしておいてくださいね。」
「わかりました。では、またお会いしましょう。いずれにしても良かったです。」
俺は東京に出て、酒屋で働くことにした。
そして、美智子の家にお酒をしばしば運ぶ中で、美智子と知り合ったんだ。
いつも明るく朗らかな美智子は、ぎすぎすした環境で過ごしてきた俺には眩しかった。
美智子の親はお金持ちで、この女性と一緒になれば、世の中でのし上がれる。
親は最初は俺が田舎出身ということで反対していた。
でも、俺が誠実さをアピールして、騙されたのか、反対しないようになったんだ。
でも、付き合っていくと、美智子に心が惹かれている俺がいた。
女性と交際したことがない俺にとって、どう接していいかわからなかった。
でも、なにもしなくても、いつも笑顔で、俺に語りかけてくれた。
そんな美智子だったから、俺は、何も気にすることなく美智子に接することができたんだ。
美智子は俺のことが好きだ。間違いない。
そこで、親が不在になったある夜、美智子の部屋で男女の関係を持った。
朝、起きた時に、美智子は涙を流しながら、目覚めた俺を見つめていた。
俺は、昨晩のことは間違っていなかったと確信したよ。
美智子は、ベットの中で、胸が小さい、こんな私で、ごめんなさいとつぶやいた。
俺は、そんなことは気にしなくても、美智子には素敵な所がいっぱいあると言った。
そうすると、美智子は、嬉しそうに、俺の胸に顔を埋めてきたんだ。
それから、美智子の親に彼女をもらいたいと伝え、家族として一緒に暮らすようになった。
一緒に食卓を囲むなんて、昔では考えられないぐらい幸せで楽しい日々を過ごした。
その頃だったと思う。組織から指示が来た。
ある議員の顔に変わり、国会議事堂に荷物を運んでもらいたいということだった。
荷物はなにかわからないが、断ることもできない。
議員の顔になり、何の問題もなく国会議事堂に入り込めることができた。
そして、カバンを椅子に置いたままその場を去った。
国会議事堂をでて10分ぐらいだっただろうか、後ろから大きな爆発音が聞こえた。
俺は、すぐに公園のトイレで自分の姿に戻り、家への帰途についた。
TVでは、国会議事堂が爆破され、多くの政治家が亡くなったと報道されていた。
ただ、そんな事件の後も、私生活は美智子との平穏な生活を続けていた。
ただ、初めて美智子と体を重ねてから3ヶ月ぐらい経った頃だろうか。
美智子から妊娠したと深刻な顔をして相談された。
一緒に暮らしているが、まだ結婚していないのに子供がいるなんて世間は許してくれない。
美智子はふしだらな女だとみんなに指をさされてしまうだろう。
俺は美智子との子供は欲しかったし、すぐに結婚しようと伝えた。
美智子はうなづき、床にしゃがみこんで泣いていた。
そんな姿をみて、美智子を抱きしめた。
でも、奇妙なことが起こったんだ。
美智子から相談があった日から、急激に美智子のお腹は大きくなっていった。
それから1ヶ月しか経っていないのに、もう臨月のような大きさだった。
美智子は、体調が悪いとデパートには嘘を言って、親が手配した病院に入院したんだ。
そして、美智子の親が俺の所に来て、分かれて欲しいと言ってきた。
1ヶ月で生まれるような化け物の親にさせるのは心苦しいと言いながら。
俺は正式に結婚したいと伝えたけど、認めてもらえなかった。
俺の異能力が原因だったんだと思う。でも、怖くてそんなことは言えなかった。
美智子の体を傷つけてしまったのは俺だ。
美智子に、これからも俺のことが好きだなんて思ってもらえないななんて考えていた。
そんなことを考えながら道を歩いているときだった。
工事中の建物から、俺の頭に鉄パイプが何本も落ちてきて、俺の意識は遠のいていった。
親は農作物を作り、自給自足の生活をしていたが、生活は苦しかった。
そんな生活だから、中学生のときもクラブ活動とかは本気でできなかった。
クラスでは、付き合いの悪いやつだといじめる奴もでてきた。
でも、俺は決して負けるようなヤワじゃない。
攻撃には攻撃で対抗しているうちに恐れられ、誰も俺には近づかなくなった。
だからだと思うが、この世の中でのし上がってやろうという思いは誰よりも強かった。
ただ、そのためにも金が必要だったんだ。
高校生の俺でもできることとして、ある医療機関が募集していた人体事件に応募した。
何を研究していたのかは知らない。
どうして俺のことがわかったのかは不明だが、破格の報酬を出すからと実験に誘われた。
もちろん、そんな甘い話しはないから、危ない実験だとは思ったんだよ。
でも、破格の報酬というのは俺にとって魅力的だった。
こんな生活を続けるのなら死んでるのと同じだし、こんな生活にしがみつく理由もない。
いつ死んでもいいと思っていたので、その場で応募することに承諾した。
その後、健康診断でOKとなり、その場で得体がわからない薬1錠を飲んだ。
それから毎日、血液とか脈拍とかを調べていたが、変わったことは何もなかった。
なんの実験だったのだろうか。
最初の説明会だけしか会わなかったけど、被験者は20人ぐらいだった。
被験者の年齢はバラバラで、高校生の俺が一番若かったと思う。
いずれも男性で、女性が対象外だったのか、別の施設で実験されていたのかは知らない。
でも、毎日、お腹いっぱい美味しい料理を食べられるし、毎月5万円もお小遣いもでる。
夢のような生活を過ごせた。
みぞれが降る寒い冬の日に施設に入ったけど、時間は過ぎていった。
窓から梅、桜がみえて季節の移り変わりが感じられた。
その後、つつじ、紫陽花を経て、施設を出たのは、陽が強く照りつける熱い夏だった。
他の被験者がどうなったかは不明だが、半分は実験の途中で亡くなったという噂も聞いた。
でも、俺は、1つ気付いたことがあった。
鏡を見ながら、先生の顔を考えていたら、鏡の顔が先生の顔になっているのに気付いた。
どうして先生が目の前に? いや、それは違う。俺の顔が先生の顔になったんだ。
そして、先生にそのことを伝えると、とても嬉しそうにしていた。どういうことだ?
「実験の参加、ありがとうございます。実は、この実験は異能力を身につける薬の開発のためだったんです。未だ、どういう人に効果がでるのか、そして、どういう条件で、どのような異能力が発現するのかは不明ですが、一定の確率で異能力を発現することがわかったんです。それだけでも、世界的発明だと言える。」
「そうなんですね。じゃあ、女性にも変われるのかな?」
「やってみなさい。あの看護婦とかはどうでしょうか。」
俺が試してみると、服装は変わらないが、その看護婦とそっくりな姿に変われた。
看護婦は気持ち悪いものでも見るような顔をしていたが、医者は笑顔で笑い始めた。
「すごいですね。ところで、1つお願いがあります。実は私も異能力を持っていますが、異能力者どうしで組織を作っていて、異能力者を中心とした世の中を作ろうとしているんです。君にも、この組織に参加してもらいたいと考えています。」
「参加するとどうなるんですか?」
「組織から年に1回ぐらい指示が来るから、それを実行するっていう感じですかね。別人になりきれるというのは、とても使える能力ですよ。」
「お金はもらえるんですか?」
「そうですね。それが条件であれば。」
「逆に、断れば、どうなるんですか?」
「我々の秘密を知った以上、我々の組織に参加しなければ殺すしかありません。」
「まあ、わかりました。参加する、参加する。いいことしかなさそうだし。」
「では、これでこの病院を退院していいです。連絡が後日いくので、待機しておいてください。」
「学校に行ったり、卒業後に、東京に移ったり、どこかの会社に就職してもいいんですか?」
「かまいません。ただ、事件を起こして牢獄に入れられるとか、注目されたりすると、こちらからの指示に差し障りがでるので、静かに過ごしておいてくださいね。」
「わかりました。では、またお会いしましょう。いずれにしても良かったです。」
俺は東京に出て、酒屋で働くことにした。
そして、美智子の家にお酒をしばしば運ぶ中で、美智子と知り合ったんだ。
いつも明るく朗らかな美智子は、ぎすぎすした環境で過ごしてきた俺には眩しかった。
美智子の親はお金持ちで、この女性と一緒になれば、世の中でのし上がれる。
親は最初は俺が田舎出身ということで反対していた。
でも、俺が誠実さをアピールして、騙されたのか、反対しないようになったんだ。
でも、付き合っていくと、美智子に心が惹かれている俺がいた。
女性と交際したことがない俺にとって、どう接していいかわからなかった。
でも、なにもしなくても、いつも笑顔で、俺に語りかけてくれた。
そんな美智子だったから、俺は、何も気にすることなく美智子に接することができたんだ。
美智子は俺のことが好きだ。間違いない。
そこで、親が不在になったある夜、美智子の部屋で男女の関係を持った。
朝、起きた時に、美智子は涙を流しながら、目覚めた俺を見つめていた。
俺は、昨晩のことは間違っていなかったと確信したよ。
美智子は、ベットの中で、胸が小さい、こんな私で、ごめんなさいとつぶやいた。
俺は、そんなことは気にしなくても、美智子には素敵な所がいっぱいあると言った。
そうすると、美智子は、嬉しそうに、俺の胸に顔を埋めてきたんだ。
それから、美智子の親に彼女をもらいたいと伝え、家族として一緒に暮らすようになった。
一緒に食卓を囲むなんて、昔では考えられないぐらい幸せで楽しい日々を過ごした。
その頃だったと思う。組織から指示が来た。
ある議員の顔に変わり、国会議事堂に荷物を運んでもらいたいということだった。
荷物はなにかわからないが、断ることもできない。
議員の顔になり、何の問題もなく国会議事堂に入り込めることができた。
そして、カバンを椅子に置いたままその場を去った。
国会議事堂をでて10分ぐらいだっただろうか、後ろから大きな爆発音が聞こえた。
俺は、すぐに公園のトイレで自分の姿に戻り、家への帰途についた。
TVでは、国会議事堂が爆破され、多くの政治家が亡くなったと報道されていた。
ただ、そんな事件の後も、私生活は美智子との平穏な生活を続けていた。
ただ、初めて美智子と体を重ねてから3ヶ月ぐらい経った頃だろうか。
美智子から妊娠したと深刻な顔をして相談された。
一緒に暮らしているが、まだ結婚していないのに子供がいるなんて世間は許してくれない。
美智子はふしだらな女だとみんなに指をさされてしまうだろう。
俺は美智子との子供は欲しかったし、すぐに結婚しようと伝えた。
美智子はうなづき、床にしゃがみこんで泣いていた。
そんな姿をみて、美智子を抱きしめた。
でも、奇妙なことが起こったんだ。
美智子から相談があった日から、急激に美智子のお腹は大きくなっていった。
それから1ヶ月しか経っていないのに、もう臨月のような大きさだった。
美智子は、体調が悪いとデパートには嘘を言って、親が手配した病院に入院したんだ。
そして、美智子の親が俺の所に来て、分かれて欲しいと言ってきた。
1ヶ月で生まれるような化け物の親にさせるのは心苦しいと言いながら。
俺は正式に結婚したいと伝えたけど、認めてもらえなかった。
俺の異能力が原因だったんだと思う。でも、怖くてそんなことは言えなかった。
美智子の体を傷つけてしまったのは俺だ。
美智子に、これからも俺のことが好きだなんて思ってもらえないななんて考えていた。
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