誰か、私を殺して

一宮 沙耶

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第2章 仙台生活

5話 恨み

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旦那様から離別を言い渡された後、暗い自分の部屋で持ち物とかを整理していた。
暗い部屋で、自分が化け物であることを恨んだ。

この服を着ていたときに、旦那様から褒めてもらったこと。
お母様から美しい帯をいただいて嬉しかったこと。
懐かしい物を見るたびに、目から大粒の涙がこぼれていった。

でも、それとともに、梅への恨みがこみ上げてきたわ。
たしかに、私は化け物で、子供を産めなかった。
だからって、私がこの家で生きる場所を奪う権利はないわよね。
あの女こそ、人を食いつぶす化け物なのよ。

私は、怒りを抑えられなくなっていた。
鬼のような顔になっていたんだと思う。
私は、華族の時代に、2袋、自殺用の薬を与えられていた。
苦しいときにとは思っていたけど、死ぬことができない体には無用の長物になっていたの。
でも、今なら使える。

私は、荷物をまとめた後、梅の部屋に梅がいないことを確認して入った。
梅がお昼のあと、こんぺいとうとかのお菓子を食べているのを知っていた。
だから、部屋にあったお菓子の箱の中に薬をまいておいた。

そして、荷物を持って静かに家を出た。誰も見送りなんてしてくれる人はいない。
私は、まだ6年以上、仙台にいる時間は残っていたけど、次の大阪に逃げることにした。
それほどない荷物を持ち、東京を経て大阪に向った。

その頃、旦那様の家では和やかな会話がなされていた。

「菊代がなにも揉めずに出ていって一段落してよかったわね。これからお梅さん、当家の嫁として、よろしくお願いしますよ。」
「本当に、あの陰気な女が出ていって、お梅のような器量のいい女が残って、今日はお祝いだ。」
「本当ですわね。私こそ、よろしくお願いいたします。じゃあ、私が大切にしているこんぺいとう、皆さんでいただきましょうよ。どうぞ、お母様、旦那様。」
「ありがとう。では、いただくわ。」

その直後、3人は口から泡を出して畳に横たわっていた。
しばらくして、膳をさげようと使用人が部屋に入ったときに悲鳴が家中に轟いた。
そして、大勢の警察がこの家を取り囲んだんだって。

「兄貴、今日、もとの正妻がこの家を去ったらしいんですよ。使用人に確認したところだと、子供を産めないって責められて、今回殺害された女性と正妻を交換させられたとか。こりゃあ、その女性の恨みですよ。」
「俺もそうだと思うが、普通に暮らしている女性が人を殺せるような薬を持っているか? 単純に考えるな。これは、その女性に罪をなすりつけた別の犯人がいるかもしれない。」
「たしかに。」
「2つの線で捜査を進めろ。」
「はい。」

私は仙台にすでにいなかったこともあり、捜査は混迷を深めたらしい。

「もと正妻らしき、大きな荷物を持った女性が仙台駅から東京の方に向って電車に乗ったらしいという情報が入った。」
「このもと正妻は東京に住んでいたということだから、東京の知り合いのところに戻ったのだろう。ただ、離縁されたから東京に戻ったのか、殺人から逃げるために東京に戻ったのかまだ2つの可能性があるな。」
「もと正妻がいた住所とか調べましたし、私が東京に行ってみます。」
「わかった。よろしくな。」

でも、私は東京にいない。
東京での捜査はなにも得ることがなく時間だけが過ぎていった。
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