誰か、私を殺して

一宮 沙耶

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第2章 仙台生活

3話 結婚

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周りの女性は、だいたい23歳前後で結婚して会社を辞めていった。
寿退社とか言われて、最終出社日には、職場で花束とか渡して送り出す。

「加代さん、結婚、本当におめでとう。」
「ありがとうございます。これまで皆さんのおかげで楽しく過ごすことができましたが、これからは、やっと私も旦那様と幸せに過ごしていけます。これまでありがとうございました。」
「加代さんは、いつも明るいから、絶対によいお嫁さんになれるね。子供も5人は作るといいよ。兄弟姉妹が多いほど、子どもたちは楽しいから。」
「そうですね。子宝に恵まれるようにお祈りしないと。」
「じゃあ、みんなで加代さんの幸せを祈り、送り出そう。本当におめでとう。」

花束をもった女性は、本当に幸せそうに見送られていった。
結婚って、幸せになれるものなのね。

私も本心から結婚したいと思っていたのよ。
でも、私には親戚とかいなかったので、お見合いの話しとかはなかなか来なかった。
だから、権三に、なんとか働きかけて、お見合いを持ってきてよと毎日、愚痴ってたの。
そうしたら、やっと27歳でお見合いの話しがきたわ。

相手は、地元の酒蔵の若旦那で、お父様が酒蔵を運営していた。
地元では有名な酒蔵で、裕福に暮らしているらしい。
旦那様は、私は27歳と年上だけど美人で一目ぼれだったと告げられたの。
そんなこと言われたことなかったから、私はすぐに応諾した。

会社では、私も花束をもらって、送り出された。
上司からは、少し遅くなっちゃったけど、これで幸せになれるねと声をかけてもらえた。
そう、私は結婚して幸せになるのよ。誰もが祝ってくれている。

結婚式は、桜が散るなか執り行われた。
私の結婚衣装と桜の色が重なり、桜が美人妻を連れてきたと周りは褒めてくれたわ。
そして、お酒を飲んでも酔わない私は、酒蔵の嫁として最高だと言ってくれた。

初めての結婚式。
真っ暗な中で、ロウソクの光に照らされ、荘厳な雰囲気に包まれている。
桜の花びらは、はらはらと落ちて、地面を白い色に染め上げる。
私が純白で、清らかな女性だと桜が祝ってくれているみたい。

そして、二人は上座に座り、親族で祝の園が催された。
東京大空襲で家族はみんな亡くなっと伝えていたから、私側では権三だけが参加している。
でも旦那様の親族は大勢いて、みんなが私を祝ってくれていた。

「清にも、よい嫁が来たな。とびっきりの美人じゃないか。お酒も飲めるようだから、酒蔵の嫁として最高だ。羨ましい限りだな。」
「ありがとうございます。本当に美人で、嬉しくて。やっぱり日頃の行いがいいと、報われるんですね。」
「また、のろけちゃって。菊代さん、清をよろしくね。とってもいい人だから。」
「はい。私こそ、よろしくお願いいたします。」
「まあ、飲みなさい。さあ、さあ。」

みんながお酒をついで来るなか、緊張して、あまりお食事は食べられなかった。
みんな酔って、しばらくすると、私のことは忘れ、周りの人たちと大騒ぎとなっていた。
なんか、私だけが別の空間にいるようで、お庭に目を向けたの。

部屋からみえるお庭はとっても立派。
池には何匹も鯉が不自由なく泳いでいる。
もう少しするとつつじとか、アジサイとかが立派に咲いて、美しい風景が広がるはず。

私は、良い家に嫁ぐことができて嬉しかった。
これから、みんながいう幸せが待っている。

そして、その晩、布団が敷いてある部屋に通され、旦那様が私を抱いてきた。

「そんなに緊張をしなくていいんだよ。」
「でも、怖い。」

旦那様は私の体を求め、私も自然に声がでていた。
どうして声がでちゃうんだろう。
お姑様とかに聞こえるんじゃないかと不安で、声を出さないように口を抑えたりした。

「痛い。」
「最初だけさ。慣れれば気持ちがいいんだから。」

旦那様は、荒い息で、私を揺さぶってきたけど、私は痛みしか感じなかった。
逆に、私は、どうしてこんな恥ずかしい格好をしてるんだろうとしらけていたの。

私は、そんなものかと思いつつ、男性に抱かれることに違和感を感じていた。
最初だからなのかしら。なんか、男性に触られるのが気持ち悪い。
特に、汗をかく旦那様の肌に触れるのは嫌だった。

旦那様の腕の中で、不思議と、そんなことを考えていた。

「ああ、気持ちよかった。最初は誰でも痛いから、気にしなくていいよ。さあ、寝よう。」
「ええ、おやすみなさい。」

何だったんだろう。なんか押し付けられているみたいだった。
まだ、私の敏感なところが擦り傷のように痛い。血もでてる。
圧迫感がすごくて、近寄らないでという気持ちがして、ずっと我慢していた。
でも、初めてだからと自分に言い聞かせ、眠りに落ちた。

家は裕福で家事は使用人がしてくれたから、朝も早く起きる必要はなかった。
むしろ、華族だったときに身につけた花道、振る舞いはとても褒められたわ。
使用人が雨戸を開け、陽の光が差し込んできた。

「おはよう。」
「おはようございます。」
「昨晩は、どうだった?」
「初めてなので、よくわかりません。申し訳ありません。」
「これから楽しみになるさ。僕らは夫婦なんだから、そんなに敬語じゃなくていいよ。」
「少しづつ、慣れていきます。」
「でも、本当に、美しい人だ。」

仕事を辞めて家に入り、初めて男性と一緒に暮らすことになった。
男性に抱かれることには慣れなかったけど、旦那様は優しく、最高の家に嫁げたと思えた。

権三はいたけど、長い間1人暮らしだったから、寂しい生活には慣れていた。
でも、久しぶりに家族と一緒に暮らすという暖かい気持ちになれたのは嬉しかったわ。

家族全員で顔を合わせて食事をする。
夜は、旦那様と同じ部屋で寝て、朝起きると旦那様が横にいる。
いつも、誰かと一緒にいることで温かい気持ちになれた。
特に、旦那様は私に優しかった。

酒蔵が順調だったからか、誰もが私に笑顔で話しかけてくれたのは嬉しかった。
夜になると、部屋で旦那様とお酒を交わしていたの。

「お前みたいな美人を嫁にとって、今日も寄合で酒を飲みながら自慢しちゃったよ。」
「そうなんですね。嬉しい。」
「ところで、床では、もっと積極的になってほしいな。」
「男性とのことは、まだよく分からなくて。どうすればいいのですか?」
「どうすればいいというか、例えば、俺のあそこを口にいれるとか。」
「え、そんなことを普通の女性はしてるんですか? お好きならやってみます。」

いろいろと言われるようにやってみたけど、なにか私の心はしらけていたの。
でも、この家での楽しい暮らしは続いた。
他の家族はわからないけど、家ではいつも笑い声が絶えなかったし。

子供の頃は、何不自由もなかったけど、自分の居場所があったかはよく覚えていない。
今は、長男の妻という明確な役割を与えられて生きている。
自分の存在価値があるのは嬉しい。

夫を支えるという役割の中で、旦那様と接し、旦那様は私を守ってくれる。
この安心感は、思っていた以上に大きなことだった。
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