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第1章 死ねない
2話 始まり
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私がこんな体になってしまったのは、ある薬が原因だった。
私は、華族の一員として1909年に生まれた女性。
明治天皇が崩御されたのは記憶がない。
今から15年ぐらい前だと思う。
関東大震災で家族の何人かを亡くしたからなのかしら。
私が20歳になった時、家族全員が集められて、おじい様が語り始めた。
「人間は、生に執着する生き物だが、それは恥ずかしいことではない。そこで、私が持っている財産の半分をつぎ込み、永遠に死なない薬を手に入れることができた。今日は、一族が永遠に発展することを願って、みんなで、それを飲むことにする。皆の前に薬が一錠、置いてあるので、お茶とともに、飲んでくれ。」
この言葉を契機に、周りの人達は次々と薬を飲み始めた。
私は、薬に不安は感じたけど、飲まないという選択肢はなかった。
どうして、こんな信じられない話しに、誰も何も聞かないの。
本家の長男とか、分家の家長とかには、事前に相談があり合意ができているのでしょうね。
薬を飲んで5分ぐらい経ったころだったかしら。
みんなは苦しみ始め、血を吐いて死んでいくじゃないの。
その時の恐怖は、みんなには分からないと思う。
次に死ぬのは私だと確信したんだから。
でも、15分が経ったころ、私だけが、何もなく座り続けていたの。
「お医者様を呼んで。」
私は叫んでいた。でも医者が来ても、もう何もできなかったの。
そして、周りでは、私のことを疑って見ていたわ。
「あの生き残った娘が犯人なんじゃないの。」
「あの可愛らしい女が家族全員を殺したって?」
「そういう見かけの方が怪しいのよ。人間の皮を被った女狐なんじゃない?」
周りの私に対する目は厳しかった。
でも、おじい様が万が一のためと遺書を書いてくれて助かったの。
「あの女を釈放するんですか?」
「主人の遺書が出てきたんだよ。華族としての栄光が失われ、一家で死ぬことにしたという内容だったんだって。だから、仕方がないだろう。」
「そうなんですか。でも、裕福な生活をしていて何を言っているんだって感じですよね。ところで、どうしてあの女だけ助かったんでしょうかね?」
「怖くなって薬を飲めなかったんだろうさ。でも、それじゃ対面が保てないから、飲んだけど死ねなかったと言っているんだよ。きっと。」
警察の捜査は、一家心中として打ち切られた。
どうして、私だけ生き残れたのかしら。
薬が私のものだけ違ったのではないかと疑ったこともある。
でも、そうでないことが数年経ってわかってきた。
私は、怪我も病気もしない。
道で転んでも、痛いけど、傷ができたり、血が出たりはしない。
というより、傷ができても、あっという間に元通りに戻ってしまう。
周りで感染症が流行ってもかかる気配はない。
そして、薬を飲んだ20歳から5年も経つのに、見た目は全く変わらない。
周りからは、いつまでもお若いお嬢様と不思議がられる、そんな日々が続いたわ。
そして更に5年が経ち、30歳を過ぎても、あまりに年を取らない風貌。
一家心中の生き残りとして避けられて婚期も逃した。
でも、本当の原因は風貌だったのかもしれない。
周りは、化け物を見るような目に変わっていった。
華族ということで周りの喧騒には巻き込まれなかったけど、みんな噂していた。
ただ、日本は戦争に進み、私のことを気にする余裕もなくなっていった。
そして、東京大空襲で一面、瓦礫の山の東京で、私は佇んでいる。
こんな時でも陽は昇る。
各所で煙が見えるけど、建物が一つもない中で見た朝日は美しかったわ。
まだ3月の寒い東京で震えながら、私は、朝日を見つめていた。
私は、華族の一員として1909年に生まれた女性。
明治天皇が崩御されたのは記憶がない。
今から15年ぐらい前だと思う。
関東大震災で家族の何人かを亡くしたからなのかしら。
私が20歳になった時、家族全員が集められて、おじい様が語り始めた。
「人間は、生に執着する生き物だが、それは恥ずかしいことではない。そこで、私が持っている財産の半分をつぎ込み、永遠に死なない薬を手に入れることができた。今日は、一族が永遠に発展することを願って、みんなで、それを飲むことにする。皆の前に薬が一錠、置いてあるので、お茶とともに、飲んでくれ。」
この言葉を契機に、周りの人達は次々と薬を飲み始めた。
私は、薬に不安は感じたけど、飲まないという選択肢はなかった。
どうして、こんな信じられない話しに、誰も何も聞かないの。
本家の長男とか、分家の家長とかには、事前に相談があり合意ができているのでしょうね。
薬を飲んで5分ぐらい経ったころだったかしら。
みんなは苦しみ始め、血を吐いて死んでいくじゃないの。
その時の恐怖は、みんなには分からないと思う。
次に死ぬのは私だと確信したんだから。
でも、15分が経ったころ、私だけが、何もなく座り続けていたの。
「お医者様を呼んで。」
私は叫んでいた。でも医者が来ても、もう何もできなかったの。
そして、周りでは、私のことを疑って見ていたわ。
「あの生き残った娘が犯人なんじゃないの。」
「あの可愛らしい女が家族全員を殺したって?」
「そういう見かけの方が怪しいのよ。人間の皮を被った女狐なんじゃない?」
周りの私に対する目は厳しかった。
でも、おじい様が万が一のためと遺書を書いてくれて助かったの。
「あの女を釈放するんですか?」
「主人の遺書が出てきたんだよ。華族としての栄光が失われ、一家で死ぬことにしたという内容だったんだって。だから、仕方がないだろう。」
「そうなんですか。でも、裕福な生活をしていて何を言っているんだって感じですよね。ところで、どうしてあの女だけ助かったんでしょうかね?」
「怖くなって薬を飲めなかったんだろうさ。でも、それじゃ対面が保てないから、飲んだけど死ねなかったと言っているんだよ。きっと。」
警察の捜査は、一家心中として打ち切られた。
どうして、私だけ生き残れたのかしら。
薬が私のものだけ違ったのではないかと疑ったこともある。
でも、そうでないことが数年経ってわかってきた。
私は、怪我も病気もしない。
道で転んでも、痛いけど、傷ができたり、血が出たりはしない。
というより、傷ができても、あっという間に元通りに戻ってしまう。
周りで感染症が流行ってもかかる気配はない。
そして、薬を飲んだ20歳から5年も経つのに、見た目は全く変わらない。
周りからは、いつまでもお若いお嬢様と不思議がられる、そんな日々が続いたわ。
そして更に5年が経ち、30歳を過ぎても、あまりに年を取らない風貌。
一家心中の生き残りとして避けられて婚期も逃した。
でも、本当の原因は風貌だったのかもしれない。
周りは、化け物を見るような目に変わっていった。
華族ということで周りの喧騒には巻き込まれなかったけど、みんな噂していた。
ただ、日本は戦争に進み、私のことを気にする余裕もなくなっていった。
そして、東京大空襲で一面、瓦礫の山の東京で、私は佇んでいる。
こんな時でも陽は昇る。
各所で煙が見えるけど、建物が一つもない中で見た朝日は美しかったわ。
まだ3月の寒い東京で震えながら、私は、朝日を見つめていた。
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