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4話 ホステス

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「あなたは、やはり弱年齢化していますね。」
「どういうことなんですか?」
「調べてみると、半年前と比べて細胞の増殖機能が増えています。また、活性酸素の量も減っています。これから推測すると、1年で約10年若返っていることになりますね。あなたが最初にこの病院に来たのは1年半前ですから、その時よりもう15歳若返って、今は45歳ぐらいの体年齢だということです。たしかに、45歳だと言われれば、そのぐらいに見えます。」
「そういうことだと、あと1年経てば35歳、3年経てば15歳になるということですか。赤ちゃんまで若返るなんてことになるのですか?」
「骨はそこまで縮まらないだろうから、赤ちゃんまでにならないとは思うけど、15歳ぐらいにはなるかもしれない。初めての症例で、よくわからないんですよ。」

会社を辞めて、余生を過ごすと思っていた。
でも、もう1度、チャレンジできるチャンスが来たのかもしれない。
しかも、女性としての一番美しい時期を過ごせるかもしれない。

今回も検査を受けて病院を出た。
でも、これから何十年も生きていけるお金はない。
どうしようかしら。

前も考えたけど、普通の企業に就職することはできない。
戸籍もそうだけど、これまで何をやってきたのか言えないもの。
丸菱商事で部長をしていた?
中東で石油プラントの設計をしていた?
そんなこと言っても嘘だと思われるだけ。

この体で、素性を明かさずに働けるのはホステスぐらいかな。
もうそろそろ、見た目も35歳ぐらいにはなってきたし。
私は、夜の銀座に出かけ、高級クラブらしいお店を訪問してみた。

お店に入ると、きらびやかな内装とシャンデリア、装飾品の数々。
いかにも、人気があって儲かってるって威勢を張っている。
でも、勝負するには、このぐらいがいい。

ここで働きたいと伝えると、ママが出てきた。
お客には優しい顔をしていても、私に厳しい目を向けた。
この子はどのぐらい稼げるのかって探るように。

私の上から下まで目をやり、ソファーに座らせた。
歩き方や座り方もチェックをしていたみたい。

「あなたは、過去にホステスはやったことはあるの?」
「いえ、初めてです。」
「じゃあ、今まで何をしてきたの?」
「ずっと会社に勤めてきました。でも、人を気持ちが分かる能力には自信があります。」
「そうなの。問題でも起こしてクビになって困っているなんて感じね。」
「困っているのはそうなんですが、悪いことはしてません。」
「会社のお金を横領したとかじゃないのね。」
「そんなことはなく、真面目に勤めてきました。」
「まあ、良いわ。今晩、やってみなさい。それを見てから決めるわ。あなた、バストは大きいわね。男性は、そこだけ見てて、初心者だっていうことはごまかせそうだから、このドレスを着なさい。あとは、このボーイから教えてもらって。まずは、がんばってみなさい。」
「はい。」

私は、言われたとおりバストを武器にしてみた。
また、会社のことはよく知っていたから、悩みに親身に対応したの。
そんなことで、何度も来てくれるお客も増えていった。

「凛さん、やるじゃない。こんなに人気が出るなんて思わなかった。」
「ありがとうございます。」
「これから、上客が友人の大物政治家を連れて来るといっていたから、横について。ぜひ、あなたを指名するぐらい気に入られてね。」
「わかりました。がんばります。」

それから15分ぐらいすると、その政治家が現れた。
ママも知らなかったようだったけど、民自党の幹事長だった。

太った、貫禄があるおじさん。
愛嬌もあって、知らない人からは信じられると思われるかも。
政治家にそんな人はいないのに。

ママは、いつになく甲高い声で嬉しさをいっぱいに表現していた。

「ママ、こちらが僕の旧友の佐藤だ。もてなしてあげてくれ。」
「あら、佐藤先生。ようこそお越しいただきました。こちらは、当店でも一番人気の女性、凛です。楽しんでいってください。」
「凛です。お名刺を。よろしくお願いいたします。佐藤先生、お酒は何にされますか? ウィスキーの水割りでいいですか?」
「おお、可愛い子だね。そうそう、水割りでお願いするよ。ママ、いい子をありがとう。このぐらいの歳の女性が一番いいな。若すぎると、チャラチャラして話しも合わないし、歳を取りすぎると女としてどうかと思うし、このぐらいが、人生経験もあり、体も魅力的でいいな。」
「あら、佐藤先生、私は歳を取りすぎていて、すみません。」
「ママは別格だから。でも、凛、銀座でクラブを続けるには信用が重要だからな。言うまでもないが、ここで話すことは他言は無用だぞ。」
「わかってます。」
「佐藤先生、このお店では、その点はご心配に及びませんから。さあ、さあ、そんな肩苦しい話しはやめて、くつろぎましょう。」
「そうだな。」

この政治家は何度もこのクラブを訪問して、いつも私を指名してくれた。
ある晩、秘書と一緒にお店に来ていた。

「先生、ここまでパーティー券について話題になると、そろそろやめた方がいいのでは?」
「いや、政治には金がかかるのはお前も嫌と言うほど見てきただろう。あれほど、裏で自由に使えるお金を集めるいい方法はないんだよ。」
「先生、この女性には外してもらったほうが・・・。」
「凛は大丈夫だ。口が固いのはわかっている。」
「お気になされず、男性どうしで話しを続けてください。先生、水割りをお作り直します。」
「よろしく。」
「水島さんもどうですか?」
「私は、まだ残っているので。で、この前のTVの政治討論会で、裏金の使い道を明らかにせよと追求されて困っていたじゃないですか。」
「それは、お前がいいシナリオを考えてくれよ。だって、この前も、青森万博の誘致に向けて総務大臣に5億円を積んだし、岩手県知事の弔事に50万円を渡しただろう。こういうお金は表にだせないんだから、必要悪なんだって。もう若くないんだから、それぐらいわかってるだろう。」
「時代は変わってきているんですから、政治も変わらないといけないんじゃないですか? だいたい、万博誘致のためだからといって先週の火曜日に総務大臣と接待の場を持ちましたが、総務大臣のあんな要求に応じていいですか? また、今週の月曜日に岩手県知事の弔事に私が代わりに行きましたが、あの封筒に50万円も入っているなんて知らなかったです。そんなことは、もうやめましょうよ。」
「そんな青臭いこと言っているから、いつまでも秘書なんだよ。才能があるのに、もったいない。総務大臣だって、関係する所に、俺の金をばらまくんだから、しかたがないだろう。まあ、この話しはこのぐらいにして飲もう。凛も飲め。」
「え、嬉しいです。では、ビールをいただきます。」
「揃ったな。じゃあ、乾杯だ。」
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