結城 隆一郎 の事件簿 Seazon 3

一宮 沙耶

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第1章 犯罪カウンセラー File 3

1話 復讐

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「河合さん、初めまして。私は、あなたのカウンセラーで、しばらく、お話をさせていただきます。」
「今日、来ると言っていたカウンセラーの方ね。よろしく。」

 なんか、冴えない男性ね。髪もボサボサで、服装もよれよれ。なんたって、履いてる革靴がいかにも安物って感じ。おそらく、女性にもモテないんだと思う。病院を構えて精神科を経営するのではなく、刑務所のカウンセラーをしてるぐらいだから、実力も知れている。

 でも、刑務所で働くだけあって、眼光は鋭い。何を話すのかしら。

「あなたが書いた本を読みました。愛した人の復讐だったんですね。」
「そうよ。読んでくれたのね。聞いたところだと、結構、評判になって、SNSでも、気持ちわかるってかなりの同情票を集めているらしいじゃない。私と同じ考えの人はいっぱいいるってことね。」
「それは間違いです。最近、SNSでは、断片的な情報で、短絡的に考える人も増えているだけです。そんな考えで復讐とかしていれば、今回のように誤解で人を殺してしまったり、不必要な戦争とかの原因になるんですよ。」

 人を愛したことがない人に、復讐の気持ちなんてわからないのよ。どうせ、あなたには大切な彼女なんていないでしょう。本当に愛せる相手を見つけられることは奇跡なの。そして、その相手を失うことが、どれだけ悲しいことなのか、わからないでしょう。

 そんなことを経験せずに、単に、歴史を振り返って不必要な戦争の原因になるんですって。本当に短絡的というか、何も考えていないっていうか。どうやったら、私の今回の殺害が戦争につながるっていうのよ。

 でも、ダメね。こんなくだらないレベルの人と議論しても時間の無駄だもの。私の高尚な考えは、この人には理解できないんだから。

「昔から、親の仇という言葉もあるじゃない。仇を取るのが合法の時代もあったんだから、この時代でも合法化すべきなのよ。あなただって、お子さんがいるかわからないけど、お子さんが殺されたら恨むでしょ。」
「もちろん、恨む気持ちはありますよ。でも、最近は、短気で、人の命とか軽んじる風潮が蔓延しているんです。正当防衛だとか、相手が先に攻めてきたからといって相手を殺せば、いつまでも仇の応酬は続くから、仇は禁止されたんですよ。どうして、あなたのように法律で生きてきた人が、わからないんですか。しかも、関係のない人まで殺しているじゃないですか。」

 本当にくだらない時間だわ。そんな、上滑りな話しじゃないのよ。じゃあ、あなたの子供を殺してあげましょうか。そうしたら、いつまでも仇の応酬が続くから仕方がないと諦めるのね。そんなわけないでしょう。

「日常と狂気とは表裏一体なの。先日、ホストの女性客が、ホストにお金をむしり取られたって恨んで殺したらしいじゃないの。日頃、普通に暮らしている人だって、そんなもんなのよ。あなた、結構、年とっているようだけど、人のこと、まだまだ知らないのね。」
「このままじゃ、反省の色がないとなって、刑務所から出るのも相当後になってしまいますよ。」
「私は、愛した人のためにすべきことをしたんだから後悔はないわ。」

 私が刑務所に入ってから、もう3年が経つ。でも、人生を振り返ると、ずっと勉強の毎日だったから、本を読むとか、人生の深みを増すことができる豊かな時間を過ごしているわ。夕方5時には部屋に戻って、9時までじっくり本を読めるなんて、これまでの人生ではなかった。

 刑務所では、俳句などの趣味のクラブなどはあるようだけど、私は1人が好きだから、そのような交流は避けている。TVとかも見れるけど、あんなくだらないものを見て時間を無駄にする気にもなれない。だから、殺風景な自分の部屋で本を読むことが多い。

 そして、本を読みながら、過去を振り返っていた。人に理解されない日々、孤独、そして、やっと見つけた最愛の人との日々。そして、その最愛の人を殺害した人への復讐。いずれも、紛れもなく自分自身の時間。

 刑務所の窓から見た景色は、私の気持ちとは関係なく、変わっていった。雪が降る寒々とした景色、梅が寒い中で一生懸命咲こうとし、桜の季節にバトンタッチする。そして、木々が新緑に溢れ、生命が爆発して、何もかもうなだれるような猛暑。

 そして、銀杏で一面が黄色になる美しい道路、そして、また寒々しい冬へと季節は変わっていく。その中で、私は、自分の部屋で1人で本を読んでいた。

 時間は着実に前に進むけど、私は、ここに立ち止まり、時に、気持ちが過去に戻っていくだけ。でも、そこに後悔はない。だって、愛した人の復讐ができたんだから。
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