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第2章 同性愛者でもいいじゃない

8話 小説

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 俺はもう、年金生活で、特に毎日することがない。だから、河合が、桜井を殺した犯人になんらかの思いがあれば、この女性に何かをしてくるはずだと思った。そこで、桜井を殺した女性が刑務所を出る日から河合を尾行することにした。

 思ったとおりだ。あの女性の家に河合は向かった。今晩、何かすると直感した。気付かれないように後をつけると、河合は、玄関横のキッチンの窓だろうか、その網戸を開け、急に何かを入れて、火をつけた。部屋は、いきなり炎に包まれ、河合はその場を去ろうとした。

 俺は、河合を取り押さえたが、部屋の炎は止めることができず、部屋全体が火で覆われ、この家に住むあの女性ともう一人は焼死体で発見された。河合は、すぐに警察に引き渡したが、復讐してやったわと言って笑っていた。

 すぐに消防車を呼んだので、横の部屋とかまでには大きな被害はなかったが、何をするのか想像できなかったので止められず、部屋の二人を助けることができなかったのは悔やまれる。ただ、河合を捕まえられたので、ずっと心に刺さっていた棘がやっと取れた気分だ。

 後輩に、取り調べを引き継ぎ、あの事故死した南についても、河合の犯罪じゃないか調べるよう依頼しておいた。

「あなたは、友達だった、桜井 美花が殺された復讐として、今回の被害者である澤井 由香を殺したということでいいですか?」
「ええ、あんな女は死んで当然なのよ。そんな女でも、5年で刑務所出てこれたんだから、そんな悪女をこの世から消した私は、褒められるべきで、執行猶予が出るわよね。」
「あなた、検事なんだから、そんなことないって分かっているでしょ。」
「本当に、日本の法律は不備が多いわね。拳銃を持って、自分を守れるアメリカとかの方が正しいと思わない?」
「そもそも、あなたが狙われたわけじゃないし、アメリカでも、友達の復讐で殺害したら捕まるんでしょ。」
「そういうことじゃなくて、腐った人はこの世から排除されるべきということなのよ。頭が悪いんじゃない。」
「まあ、あなたの主張はわかりました。ところで、階段から落ちて事故死したとされている南さんは、あなたが殺したという疑いがありますが、どうなんですか?」
「そういえば、そんなことで刑事が聞きに来ましたね。違うって、言ったじゃない。しつこいわね。」
「あれから、南さんが階段から落ちたときに、あなたと言い争っていたと証言する人が出てきたんですよ。」
「5年も経っているのに?」
「死亡したことで怖かったようです。でも、あなたを捕まえた元刑事が、根気よく探して、やっと見つかりました。」
「他の人と勘違いしたんじゃないですか。どうして私だと言い切れるんですか。」
「あなたは、その日は、派手なワンピース着てたでしょう。居酒屋の店主が、独特の絵柄のワンピースを着ていたと証言していて、あなたを見たという人も、同じ絵柄のワンピースが印象的だったと証言しているのです。」
「たまたま、他人も同じワンピース着てたんじゃないですか。」
「そんな偶然なんてないですよ。そろそろ、本当のことを言ってください。南さんとはどのような関係だったんですか。」
「ただ、居酒屋で同席した、知らない人です。」
「そんな人を、後ろから追いかけて、その人の家の前で言い争っている。どう見ても、知らない人じゃないでしょ。」
「万が一よ、私がその場にいたとしても、その男性が酔っ払って階段から自分で落ちたかもしれないじゃない。」
「普通だと、そんな時には、救急車を呼ぶでしょ。その場から逃げ去ったなんて、怪しいじゃないですか。」
「いずれにしても、もう解決されたんでしょ。私が犯人だと決めつけないでよ。」
「仮の話しです。私、思ったんですが、今回、あなたが殺した澤井さんと、事故死した南さんの背格好って似てません? 背は低めで、猫背ぽいところとか。南さんを澤井さんと勘違いして殺したんじゃないかと。今回のあなたの執着はすごかった。もし、南さんを犯人と思えば、きっと殺すんじゃないかと。」
「あなたの空想ね。証拠はないでしょ。」
「証拠がないって言う人は、大半が犯人なんですよ。証拠がなければ、知らないって言い続けるのが普通ですから。どうですか。」
「・・・・」
「急に黙秘ですか。やっぱり怪しいですね。もう少し、調べてみます。」

 1週間ぐらい経った時、再度、先日の刑事から呼び出された。

「やっと、見つかりましたよ。ちょうど、あなたが言い争っていたとき、タクシーが通ったでしょ。そのドライブレコーダーに、あなたが突き飛ばした映像が写っていたんですよ。」
「そんな前の映像なんて残っているはずないでしょ。」
「そう、通常は消されているんだけど、ドライバーは犯罪の証拠だとして、SDカードを残していたんですよ。でも、当時は、ヤクザとかの犯罪じゃないか、巻き込まれたくないと思って、黙っていたと言っていました。ただ、自分に被害が及んだときは、警察に証拠として出すとか、いざという時の交渉材料としてSDカードを残していたんですよ。先輩が、根気強く説得して、やっと出してもらえました。」

 その映像を見せてもらったが、明確に私が、男性を階段から突き落としているところが写っていて、もう逃げられないと思ったわ。そして、美花がもういないことを再度思って、涙が目に溢れた。

「そうなの。もう隠せないわね。戦争もそうだけど、大きなことをやり遂げるためには、その途中で犠牲も出てくるものなのよ。彼には申し訳なかったけど、犯人の女と似ていたのが不幸だったのね。私にとって、美花はそれほど尊い存在だったんだから。」

 俺が6年も追いかけた事件はやっと解決するに至った。これで、やっと落ち着いて寝れる。でも、大切な人だとしても、友達を殺した人をここまで憎むんだろうか。2人も殺したんだもんな。

 でも、それは、しばらくして分かった。河合が、刑務所から小説を書き、出版社に送り、出版されたからだ。河合が、桜井をどれだけ愛していたかということ、その楽しい日々が綴られていた。そして、その愛する人を奪われた悲しみ、怒りが書かれていた。
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