滅びゆく都会の住人

一宮 沙耶

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第3章 田舎での家族生活

1話 娘さん

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 家に帰ったら、前に1台の車が停まっていた。

「お父さん、無事だったんだね。あ、この人は私の彼なんだけど、一緒に山形に旅行していて助かって、そういえば、昔、お父さんから聞いたセカンドハウスに行こうとなって、なんとかたどり着いたんだ。ガソリンもちょうどなくなったけど、なんとか来れた。」
「なみじゃないか。無事だったんだね。心配していたんだよ。どうぞ、どうぞ、家に入って。たいしたものはものはないが、暮らすには十分だ。部屋はどうしようか。みう、今の部屋は片付けて、僕の部屋に来なさい。なみは彼と一緒の部屋でいいよね。」
「いいけど、こちらは?」
「紹介していなかったけど、一緒の会社で働いていて、今回の事件の後、一緒に暮らしているんだ。」
「女の人と一緒に暮らしていたなんて、びっくり。みうさんって言うの。よろしくお願いします。かなり若そうだけど。私と10も違わないんじゃ。」
「こちらこそ、よろしくお願いします。聡さんは、娘さん達のこと心配していたから、まだ1人だけの安否が分かっただけだけど、まずはよかったわ。年齢のことは後でお話ししますね。聡さん、部屋の件は了解です。」

 なんか難題が一つ増えたわね。がっかり。せっかく聡さんと、せっかく一緒になれたのに、煩わしいことが増えちゃった。でも、一緒の部屋で過ごす口実もできたし、なんとかやっていくしかないわ。

 なみさん、少しキツそうなお嬢さんみたいだから、しっかり躾けないと。彼は、少しポワンとした感じかな。多分、なみさんの尻に敷かれている感じ。これは扱いやすそう。

 その晩は、久しぶりに日本酒と缶詰で再会のお祝いをした。

「みうさん、これから、よろしくお願いします。でも、お父さんが、女性と一緒に暮らしているなんて想像もしていなかった。失礼ですけど、おいくつなんですか?」
「最初の質問がそれ? 年は35歳。こちらこそ、何も言わずにお父様と一緒にいてごめんなさい。今回の災害で一緒に暮らすことになったけど、それまで付き合ってもいなかったの。それから本当にお世話になっているわ。一緒に暮らすことになって、なんとか今日まで生きてこれたという感じ。本当に感謝している。」
「やっぱ、若いんだ。こんなおじいちゃんとやっていけるのか心配だけど。」
「おじいちゃんって、ひどい。でも、それは大丈夫。災害の前から仕事を一緒にしていて、ずっと尊敬して人柄もよく知ったうえでの共同生活だから、思いの外、うまくやれている。ところで、彼とはどういう関係?」
「大学からの付き合いで、これからもずっと一緒に暮らしていくつもり。結婚という世の中の雰囲気じゃないから、このままでいいのかなって感じかな。」
「そうなんだ。なんか明るい未来があるようで、いいな。ねえ、彼氏さん、名前は何ていうの。」
「田村亮介です。よろしくお願いします。」
「じゃ、亮介さんと呼んでもいいですよね、なみさん。」
「どうぞ。」

 なみさん、彼氏と一緒だったのはよかった。お姑のように聡さんに接したら、追い出すしかないけど、そんなことはなさそうね。できるだけ、彼との関係をヨイショして、二人だけの生活に仕向けていこう。

 ここは、年上としての立場を明確にして、私たち2人の関係には、なみさんが関与しないよう、しっかりと関係作りをしていくのがいいわね。なんか弱みを握るのもいいかも。ガールズトークで何か引き出してみよう。

「ところで、なみ。僕らは今、農家の方と一緒に田んぼや畑仕事をしていて、今後の食材を確保しようとしているんだ。一緒に暮らす以上、そこに参画してもらうので、よろしくお願いする。亮介くんもいいよね。」
「暮らせるだけで十分ですよ。よろしくお願いします。」
「やったことないけど、頑張る。みうさんも、よろしくお願いです。」
「もちろん。4人になって力強いな。女性陣もできたのも嬉しい。」

 この日から、聡さんの娘と彼もこの家にジョインし、一緒に過ごし始め、その夜から、私たちは一緒のベットで夜を過ごすようになった。

「聡さん、今日から同じ部屋だけど、よろしくね。」
「身近に過ごせるようになって嬉しいよ。狭いけど、キングベットだし、それほど窮屈ではないと思う。遠慮は不要だからね。1人で過ごしているのと同じ気分で過ごしてもらいたい。」
「なんか、下着だけで一緒に寝るのは恥ずかしい。」
「みうは、本当に清楚で恥ずかしがり屋だね。入っておいで。横になりながら話そう。」
「はい。ところで、奥様と別れた後、ずっと1人だったんですか?」
「ずっと1人だったな。女性とはプライベートで話すこともなかった。そんな中で、みうは眩しいよ。」
「そうなんだ。じゃあ、いっぱい楽しい思い出作ろうね。」

 聡さんの顔が目の前にきた。あ、口を塞がれ、胸に手が。さすが、ブラも、パンツも脱がすのは自然ね。やっとここまで、嬉しい。ぎゅっと抱きしめて。

 横の部屋に娘達がいるのにも関わらず、みうは声を抑えきれず、2人は抱き合い続けた。

 こんなのは初めて。やめないで、このまま続けて。同じタイミングで続けてくれる方が気持ちいい。もっと来て。体がそりかえっちゃう。あぁ、だめ。

「とっても良かった。いったの、初めて。」
「そうなの。そんなこと言われると嬉しい。みうと一緒に過ごすの、毎日楽しいよ。」
「これからも、ずっと一緒ね。」

 好きな人とするのは気持ちいいと聞いてたけど、本当ね。好きというより、したいと思う人ということかもしれない。

 今回は少し遅いので、子供はできないと思うけど、聡さん、年だけどまだまだ元気だから、今度の排卵期にエッチすれば、なんとかなるかも。環境は良くないけど、絶対にゲットするわ。

 そういえば、清純のふりは成功した様子ね。男性って、やっぱり清純で、初めてという経験が少ない子が好きだもんね。

 できるだけ、前の旦那や、関係を持った男性の話しはしない。前の旦那が初めてだったということにして、でも旦那は性格が悪く、エッチもほとんどしなかったということで通そう。男性って単純だから、その方が燃えそうだものね。

 その後、数ヶ月が過ぎ、東京に戻る人たちはいたけど、人手もなくて復興は基幹道路ぐらいで、瓦礫の撤去などは進んでいなかった。結局、食料もないので被害がなかった地域に戻るしかなかったみたい。

 そんな中、東京都心で大地震が起こったけど、人もほとんどいなかったから、ビルの倒壊が進んだ程度で、大きな被害はなかったのは不幸中の幸いかもしれないわね。

 電気や携帯については、多くの設備が破壊されたけど、電力会社や電話会社の方が、太陽光パネルや古い発電所を再開したり、自動車などに搭載された簡易電波装置を使って、繋がりにくいものの、なんとか使える状況にはなっていったわ。

 そんななか、一緒に暮らし始めて3ヶ月程経ったけど、聡さんは、コンドームをつけているから、まだ子供ができないの。こんな時に子供なんて無理だろうと考えていたんだと思う。でも、聡さんも年だし、そんなに待てないかも。

「ねえ、相談なんだけど、聡さんとの子供が欲しいと思っているんだけど、どう?」
「こんな環境で大丈夫かな?」
「助産婦さんもいると聞いたし。」
「そうじゃなくてさ、子供の世話をしながら農作業もして、日々生活できるかということだよ。」
「私との子供は欲しくないの? 前の人とは2人も作ったのに。」

 あ~、今日はイライラする。あの日だから? でも、子供を産みたいんだから、なんとしても合意させないと。どうして男の人って、はぐらかすんだろう。あなたが不安でも、ちゃんと私が育てるわよ。まあ、作っちゃえば、こちらのものだし。

「聞いている? 子供を育てる環境が不安だと言っているだ。」
「私も35歳は過ぎたし、あなたもいつまでも若くないし、早く作りたいの。」
「そうはいっても、現実を見ようよ。」
「もういい。寝る。」

 私がずっと粘っていたら、聡さんも折れて、子作りを始めることができた。粘り勝ちね。
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