滅びゆく都会の住人

一宮 沙耶

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第2章 隕石の襲来

3話 どう生き残る

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 1週間ぐらい過ぎた頃から、だんだん状況がわかってきたの。

「東京とかは瓦礫の山となったが、水は引いたそうだ。ただ、海辺では死体とかは海に持ってかれたけど、内陸地ではそこまではなく、死体がゴロゴロしていて、とても行ける雰囲気ではないとのことだ。しばらくは東京に戻っても暮らす場所もないから、ここで過ごすしかないな。また、当面は、海外からガソリンとかも来ないから、いずれ車も動かなくなる。まずは、ここで、どう暮らすか考えないと。」
「時間だけはたっぷりあるし、まず、状況をゆっくりみてから考えましょうよ。」
「そうだな。実は、家庭菜園やってみようと思って、ジャガイモを庭で育てているんだ。この前に来た時に収穫したけど、今後は、その他のものも育ててみるか。」
「この前、この辺歩いていたら、農家の方とかもいて、結構、高齢者が多かったように見えたわ。弟子入りして、お米とか作ってみたらどうでしょうか。」
「そうだね。高齢者しかいない農家では、ガソリンもなくなって、トラクターとか動かないと労働力は足りないだろうし、東京とかの需要がなくなれば、私たちを雇い、農作物を対価として渡す余裕も出てくると思う。」

 そのうち、農家の高齢者が亡くなれば、農地を乗っ取ればいいわよね。ここまで来れば、弱肉強食という考えで対応するしかないもの。

 その意味では、農地が広く、農家もできるだけ高齢者しかいないという所を探して、そこにアプローチする方がいいわ。そして、亡くなるまで、せいぜい、ノウハウを吸収するの。

「そういうアイディアもあるね。明日にでも、一緒にお願いに行ってみよう。お米や野菜を作りながら生活するのも、生きてるって実感できるかもしれないし。」

 河北さんは、口が上手いから、多分成功するわよね。たしかに、農家の方々と、親密な付き合いをするのは嫌といえば嫌よ。でも、生きていくためだし、当面は我慢するしかないかな。

 でも、田んぼでの作業か。都会で綺麗に楽しく過ごす予定だったのに、なんで、こんな世界になっちゃったんだろう。爪とか汚れるのも嫌だし、日焼けして、肌ボロボロのおばあちゃんになっちゃう。

 嫌、嫌。でも、生きていくためには、仕方がないものね。今日だって、お米とお新香ぐらいの質素な食事だし、もう少し、人間的な生活にしないと。

「うんって言ってもらえるといいね。農家の生活も楽しいかも。」

 私は、心にもないことを言って、その場をごまかした。社会人になって身についた1つの能力かな。

 そういえば、一緒に暮らして1週間が経ったけど、子供を作りたいという気持ちは変わらないわ。いや、むしろ高まっているかもね。子孫を残したいという本能なのかしら。どうすれば、もっと親密になれるかな。

 と言ってもいきなりだと驚くだろうから、呼び名を変えたりして徐々に近づき、夜に河北さんの部屋に行って、寂しくてと言って、ベットに潜り込む、こんな感じかな。

「1つ提案があるんですが。」
「何?」
「もう一緒に暮らしているわけだし、農家とか周りに、河北さんというのも変だし、聡さんって呼んでいいですか? そして、私のことをみうと呼んでくれると嬉しい。」

 もう会社もないし、こんな状況なんだから断らないわよね。今の状況だと、夫婦としておいた方が都合がいいと思うし。

「それもそうだ。では、みう、よろしく。」
「こちらこそ。敬語もやめるね。なんか、楽しくなっちゃった。」 
「それがいい。僕は、かなり年配者だから、色々な決断をして、みうを守っていかないと。」
「頼もしいぞ。」

 翌日、2人で聡さんが選んだ農家に相談しに行ったところ、その農家は、おじいさん1人で、広い田んぼの世話をどうしようか悩んでいたらしくて、ラッキーなことに、こんな世の中なんだからお願いすることになった。

 やや警戒している風もあったけど、聡さんが家庭菜園をしている姿も見ていたらしく、一緒にやれると思ったと後で聞いた。そして、農家生活が始まったわ。

「今日もいっぱい動いたね。腰が少し痛いな。」
「でも、こんな生活をするとは昔は全く想定していなかった。土地はいっぱいあるから、畑も広げていくのも楽しいと思うよ。」
「聡さん、昔は運動は足だけだったけど、最近は上半身も動かしているから、筋肉がいっぱいついて、一段と素敵になったね。すごい。」
「こんな環境で、よくそんなこと言えるね。でも、みうは、こんな環境でも、怖いくらい明るくて助かっているよ。」
「聡さんと一緒だからだよ。ところで、今朝採れたミニトマト食べてみて。」
「農家の方も最初は半信半疑だったけど、当面は、ジャガイモを作って食べてみなと畑も勧められたのが良かったな。100日ぐらいで育つらしいから、美味しいジャガイモが待っていると思うと、少しはやりがいがあるっていうか。」
「そうね。そして、秋にはお米も取れるし、頑張りましょう。まずは生きることが大切だと気づいたわ。」

 ネイルもなく、土が少し入り込んだ爪をみて、都会の生活はもうなくなったんだと実感した。周りを見渡すと、田んぼ、畑、山があって、自然といえば聞こえはいいけど、なんとか生きてるという状態だし。

 でも、まだ生きていられるのは、聡さんと一緒にここに来たから。聡さんの子供を産みたいと思ったことと関係があるのかはわからないけど、津波に巻き込まれ、息ができずに水の中で溺死することはなかった。

 再び、周りをみると、日本全国で大災害があったなんて思えないほど、のどかな風景が続いている。

 少し歩けば、アスファルトの基幹道路も、そのまま。ただ、最近は車が走っているのを見ない。ガソリンがなくなったのか、いざという時に残しておこうということなのか、わからない。

 北の方に目を向ければ、磐梯山がみえる。ラーメンで有名な喜多方市も近く。それだけなら、大災害の痕跡は全く感じられない。

 いずれにしても、この風景が津波の前だと言われれば、そんな気もする。変わったのは、聡さんと私。でも、今後も、聡さんから魅力的と言われるように、農家のおばさんと言われないように、努力してみる。

 最近は、あんな事件のことは忘れ、一段と明るくなっている自分に驚いていた。
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