滅びゆく都会の住人

一宮 沙耶

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第2章 隕石の襲来

2話 津波

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 その日の明け方、彗星への迎撃ミサイル発射に向けてNASAでは緊張感が高まっていた。

「3、2、1、ゼロ」とミサイルを発射。ミサイルは真っ直ぐ彗星に向かっていき、彗星に直撃した。

「やったー。成功だ。」
「いや、まずい。彗星の破片が地球に向かっています。軌道を計算します。少し待ってください。えーと、1つが太平洋、フィリピンのマニラと日本の中間あたり、もう1つがメキシコ、そしてモンゴルにもう1つです。今からだと、これらを破壊するミサイルを打つ余裕がありません。」
「この地域の人達の安全を祈るしかない。まずは、関連する国々のリーダーに連絡しろ。」

 数時間後、それぞれの破片が衝突した。そして、太平洋に落ちた破片の影響で、日本、台湾、フィリピン等の国々に400mクラスの津波が襲った。

「日本には申し訳ないが、我々は最善を尽くした。許してくれ。」

 朝10時ごろ、日本の太平洋沿岸に津波が押し寄せた。400mというと、日本の大部分の都市は水の中という状況。東京タワーの高さが333mなので、400mがどのぐらいかは分かると思う。

 日本政府も、情報を得てから朝9時ごろ緊急速報を出したけど、大半の人たちは逃げられる余裕はなかった。というのも、高尾駅でさえ標高190mぐらいなので、都心から車で走っても逃げられる距離ではないし、高速道路もみんなが逃げるので渋滞になってしまう。

 タンカーとかも流されるなか、湾岸のタワーマンションも大きくダメージを受けた。これは地球規模の災害なので、東京だけの問題ではない。日本各国で標高400m以下の場所は、ほとんど壊滅状態となった。

 山歩きをしている私たちは、電波も届かず、ひと気も少なかったので、この事態に気づいたのは、安達太良山の山頂に着いたころで、12時を過ぎていた。山頂では、大変なことが起きていると大騒ぎになっていた。

「なんだって、これじゃ日本が崩壊しちゃうじゃないか。」
「どうしましょう。」
「まず、麓に降りよう。予定のコースが一番近道だと思う。その後、車道で猪苗代湖の方向に行こう。実は、一緒に泊ると言われると困るので言っていなかったけど、猪苗代湖の近くに私のセカンドハウスがある。ネットで見ると、最後のニュースが400mの津波と行っているから、猪苗代湖の標高は500mぐらいだし、ここは津波については大丈夫だ。」
「そうなんですか。お子さんとか大丈夫でしょうか。」
「携帯は繋がらないし、わからないが、まずは進むしかない。」

 そこからだいぶ歩いて、後ろから来た車に相乗りさせてもらったりして、夕方にはセカンドハウスに着いた。

「この後、1週間はここで過ごす予定だったから、食料は当面ある。また、現金もたっぷり置いてある。ただ、今後、東京からも何も届かないだろうから、当面は、現金で食べ物とかは買って過ごし、食品が流通しなくなってから、ここにある食料を食べよう。」
「TVって見れるのかしら。電気はまだついているようだけど、いつまでかっていう感じですよね。東京の様子とか、どうなっているのか分からないですね。」
「まずは、しばらくここで過ごそう。」

 TVのスイッチをつけると、いずれのチャンネルも放映されていなかった。ただ、限られたエリアだけなのか電気とネットは通じていて、海外のニュースサイトでは、世界各国で大変なことになっていると報道している。

  とんでもないことになっちゃった。私の部屋とかどうなっているんだろう。会社のメンバーもどうだろう。お父さん、お母さんも。想像したくないけど、何もかもめちゃくちゃなんだと思う。

 でも、一瞬、ほっとした気持ちもあった。私が、祐樹とその家族を殺害しなくても、この事件で亡くなっていたのだと思う。わずかな時間の差だけの問題だったと言える。

 また、もしかしたら逮捕されるかもという心配も、おそらく警察の関係者は、この事件に巻き込まれて亡くなったにちがいない。そうすれば、もう捕まることもないと思う。

 もう、このことは忘れよう。私は、何もしなかった。捕まることはない。これを機に、河北さんとの生活だけを見つめて、前に進んでいこう。なんでも、前向きに考えないと。

 私は禊を受けた気持ちになっていた。そして、勝手に良い方に考えて、肩の荷が降りたとホッとした。そして、この日を境に、悪夢にうなされることもなくなり、罪の意識も薄れていった。

 でも、河北さんと一緒に暮らすことはできても、食べ物とか、水道とか、生きていけるのかしら。子供とか考えていたけど、産めるのかしら。

 結婚したいとは思っていたけど、いきなり共同生活って、どう役割分担したり、コミュニケーションをとっていけばいいんだろう。わからない。

「でも、大きい家なんですね。びっくり。」
「友達なんか呼ぶことはないんだけど、土地は安いから、せっかくだからって大きな家を作ってしまったんだよ。部屋はリビングの他に2つある。今井さんは、この部屋を使ってくれ。私はこの部屋。子供達とか来れば、その時に考えよう。台所は、そこ、バストイレはこちらにある。埃っぽいけど、疲れているし、掃除は明日にしよう。ベットとかは、それほど、汚れていないと思う。シーツだけ、外で叩いてほこりを取るぐらいかな。まだ電気は使えるから、冷蔵庫とかは大丈夫だ。」
「お風呂とか入れるんですか?」
「どうだろう、あ、まだ使えそうだね。ただ、今後、どうなるかは分からない。そういえば、裏庭に昔の井戸もあるから、これまで使ってこなかったけど、そこで、水は汲めるかもしれない。今夜は、まず汗を落として、ゆっくり寝よう。タオルはこちら。まず、先に入って。」
「はい。ではお言葉に甘えて。でも、埃もあるし、まず、ざっと、掃除してからお風呂に入ります。掃除機とかどこですか。」
「奥の部屋にある。今後、電気がどうなるかわからないから、いつまで使えるかは不安だね。まず、窓を開けよう。」

 シャワーを浴びた後、缶ビールと缶詰で軽い夕食をとり、疲れていたこともあって、2人ともベットに入ると同時に眠りに落ちた。さすがに、こんな状況で追い出されることはなく、偶然にも2人での生活が始まったの。
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