滅びゆく都会の住人

一宮 沙耶

文字の大きさ
上 下
2 / 18
第1章 都会生活

2話 普通の恋愛

しおりを挟む
 バーカウンターで、私たちの会話は続いていた。

「みうも、もう一度、恋愛して結婚してみたら。まだ若いんだし、子供だって欲しいでしょう。」
「まだ離婚して2年だし、そんな気になれないかな。」
「みうは、キレイで、これまでも何回も素敵な男性から声をかけられてきたじゃない。前の人が悪かっただけだって。普通の恋愛をすれば、考え方が変わるわよ。あ、電話だ、少し外すね。」

 私はバーカウンターに1人残されて、普通の恋愛ってなにか考えていた。今どき、いろいろなライフスタイルがあって、女性どうしで暮らしている人もいるし。

 女性は、男性に頼らないと生きていけないというのも偏見。私は、どちらかというと1人でいるのが好き。だって、相手に合わせるのって面倒じゃない。

 友達と飲めば、その時は楽しく過ごせる。だけど、スケジュール調整は面倒だし、急な用事が入ったりすると、遅れて迷惑かけたくないとか考えて、あたふたしちゃう。そんな気持ちになるんだったら、会わない方が楽かもしれない。

 そんな私だから、待ち合わせ場所に行く途中も、早く家に帰りたいななんて思いながら来るのよね。人に合わせずに、思ったらふと出かけたり、1人でその日の気分で旅行にいったり、今、食べたいと思うお料理を食べたりする方が気楽でいいでしょう。

 そういえば、焼肉とかも1人が楽で、この前、19時まではハイボール29円という、お得で1人で入れる焼肉チエーン店を見つけちゃった。近いうちに行こう。

 最近は、フレンチだって、Uberとかで頼んで、自分の部屋で他人の話しに邪魔されず、1人でじっくり味だけを楽しめる。本当にいい世の中になったわ。

 もしかしたら、贅沢しなければ、食事代なんて1日500円もかからないんじゃないかな。それで楽しめるんだから、こんないいことはない。

 やっぱり、1人が好きなのは、人の話しに合わせたり、面白くないのに笑顔を作るとか、疲れちゃうからだろうな。

 そういえば、ある女優さんが言っていたけど、人の温もりなんか欲しいと思ったことはなく、電車で横に座っているおじさんの肩が触れるぐらいで十分だって。それって分かるな。人がいなくて寂しいと思わないもの。

 最近はリモート勤務が普及して、とっても嬉しい。同じ部屋にずっといて年だけとっていくのもどうかとは思うけど、人に合わせる時間は減って、メークもしなくて楽だし、仕事が終わったら、すぐに乾杯って飲み始められる。

 ただ、こんな怠惰な生活ばかりしていると太るので、毎朝、5Kmぐらい朝日を浴びて走るのが日課になったかな。

 満員電車に乗ってるより、朝日を浴び、新鮮な空気を吸いながら、小川の横の遊歩道を走っているほうが、どれだけ健康にいいかわからない。

 走り始めて期間も経ったから、走りながら、今日の会議では何を話そうかと考えていて、仕事の効率も上がる。新鮮な空気で脳も活性化して、いいことばかりだと思う。

 春になると新緑が爽やかで、いろいろな花が咲き始めて、セミが鳴き、紅葉で落ち葉が増え、雪化粧の街って、このごろは四季を楽しむ時間が増えた。

 でも、そういえば、この前、窓を開けたら、鳥が鳴いていて、すっぴん、すっぴんと聞こえて、少し反省はしたけど。こんな生活、ずっと続けたいな。

 梨沙が戻ってきたと思ったら、彼女は、いつの間にかカウンターに座っている男性に胸の前で小さく手を振っていた。

「入口のそばに座っている男性2人組って、かっこよくない。服装も、身につけている時計とか靴とかも高級で、エリートって感じ。さっきさぁ、後ろを通るときに、一緒に飲まないかって誘われたんだけど、行こうよ。みうも、もっと同年代の人とのチャンスを掴まないと。」
「気が乗らないなあ。でも、梨沙が行きたいなら、行ってもいいけど。」
「じゃあ、行くわよ。」

 朝日が窓から差し込んで目が覚めた。ここはどこだろう。いつもとは違うカーテンの柄、照明器具、私の部屋ではない。

 寝返ると、横には男性が寝てる。そうだ、昨晩、飲み明かして、この男性と一緒に道元坂のホテルに泊まったんだ。もちろん、生理痛軽減のために低用量ピルを飲んでるから子供はできないはず。

 時々は、ストレス解消というか、欲求不満解消でこんなこともある。でも、それだけで、男性のぬくもりが欲しいわけじゃない。この男性、付き合うレベルじゃないし、昨晩の様子だと、セフレとしても不足かな。

「あ、起きたんだ。昨晩は楽しかったね。もし、良かったらだけど、僕達、付き合ってみない。みうさん、可愛いし。」
「遠慮しておく。昨日はありがとうね。でも、帰るわ。もう、会うことないと思うから、昨晩のことは忘れて。ホテル代は、任せてもいいかしら。」
「ああ。でも、本当にこれっきりにするの。」
「そう、これっきり。あなたも、そっちの方が楽でしょう。私は組の女かもしれないじゃない。じゃあね、バイバイ。」

 目の前の男性は、目を伏せて、顔からは表情が消えた。暴力団とかから脅されると思って怖かったんだと思う。だから、もう私のことは詮索しないはず。

 私は、ホテルからでて、ビル街から漏れるまぶしい朝日を浴びながら、腕を組んで幸せそうにしている男女の横を通りすぎ、渋谷の駅に向けて歩いていった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

社長室の蜜月

ゆる
恋愛
内容紹介: 若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。 一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。 仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語

六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

窓野枠 短編傑作集 4

窓野枠
大衆娯楽
日常、何処にでもありそうな、なさそうな、そんなショートショートを書き綴りました。窓野枠 オリジナル作品となります。「クスッ」と笑える作風に仕上げているつもりです。この本の作品20編をお読みになりましたら、次巻も、閲覧のほど、よろしくお願いいたします。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

『 ゆりかご 』  ◉諸事情で非公開予定ですが読んでくださる方がいらっしゃるのでもう少しこのままにしておきます。

設樂理沙
ライト文芸
皆さま、ご訪問いただきありがとうございます。 最初2/10に非公開の予告文を書いていたのですが読んで くださる方が増えましたので2/20頃に変更しました。 古い作品ですが、有難いことです。😇       - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - " 揺り篭 " 不倫の後で 2016.02.26 連載開始 の加筆修正有版になります。 2022.7.30 再掲載          ・・・・・・・・・・・  夫の不倫で、信頼もプライドも根こそぎ奪われてしまった・・  その後で私に残されたものは・・。            ・・・・・・・・・・ 💛イラストはAI生成画像自作  

処理中です...