結城 隆一郎 の事件簿 Seazon 4

一宮 沙耶

文字の大きさ
上 下
1 / 7
第1章 犯罪カウンセラー File 4

1話 違和感

しおりを挟む
 私は、目の前にいる女性が2人も殺す凶悪な犯人には見えなかった。可愛らしい、どこにでもいる女性だ。しかも、とても信じられないことを言い始めた。

「今回の事件は、パラレルワールドにいる、もう一人の自分が引き起こしたんです。」

 パラレルワールドなんて、SFの世界だけの話しだろう。何を言っているんだ、この人は。でも、嘘を言っている雰囲気は、自分の経験からして感じられない。

 二重人格者なのだろうか。もう一人の人格をパラレルワールドと言っているのだろうか。

「老婆の魔法で、パラレルワールドの別の私と入れ替わっちゃったんです。」

 もう、支離滅裂だ。魔法まで言い出したら、正常な人間の話しとは思えない。精神科の患者だということで私に回ってきたのは理解できた。

 ただ、これまでの経験から見ると、嘘を言ったり、思い込みが激しい患者には見えない。言っていることは本当のように思える。ただ、言っていることが信じ難い内容ということだけが問題だ。

 パラレルワールド、魔法、そんなものはないだろう。なんで、こんなことを言うのだろうか。自分が犯した犯罪を隠蔽するため? そうかもしれないが、犯罪とは真逆で、蚊も殺せないような人に見える。でも、2人も殺害してる。違和感がある。

 私は、この患者の目を見つめた。嘘をいう患者は、目をそらしたり、挙動不審になりがちだが、この患者は、私の目をしっかり見つめている。信じてっていう目で。嘘は言っていないようだ。

「パラレルワールドとか、魔法とか、ちょっと、アニメとかの世界観で、信じられないんですけど。」
「私も、そうなんですけど、本当なんです。信じてもらえないですか。」
「あなたは嘘を言っているようには見えませんが、さすがに無理ですね。」

 目の前には、落胆した女性の姿があった。そうだと思う。

「でも、それ以上の説明ができないんです。私が、人を殺すようだと思いますか?」
「それは、思えないですけど。」
「そうですよね。私は、どこにでもいる、か弱い女性なんです。信じてください。」
「そうは思うんですけど、パラレルワールドとか言われても・・・。」

 こういう患者はいることはいる。思い込みが激しい人だ。その場、その場で人格が変わる。多分、この患者もそういう人で、今は、自分はそんな犯罪を犯したことはないと信じている。

 ただ、ある時には、凶悪な人格に変わり人を殺害する。そして、その記憶がないまま、心優しい人に戻る。

 そんな症状なのだろう。警察としても、指紋とか監視カメラとかで、この患者は2人も殺害したと認定した。それは事実なんだから。

 じゃあ、二重人格者だということを理解してもらうところから始めることにするか。その場合は、今の人格からは、悪いことなんて一つもしていないと思っている。だから、それは肯定した上で、他の人格が行ったことを理解してもらうことになる。

 でも、その場合は、ある時には、正常心で人を殺したことになる。そのことは刑事上でどのように扱われるかは私の専門外だが、この人にとって納得できない結果になるかもしれない。

 まずは、このあたりを整理する必要がある。

「知っていますか? 二重人格という病気があるんです。あなたは、そういう病気じゃないかって。それって、病気で、今のあなたは全く悪くないということなんです。そういうことって、世の中にはあるんですよ。」
「何言っているんですか? 二重人格じゃなくてパラレルワールドのもう一人の私がやったって言っているじゃないですか。」
「パラレルワールドって言っても、誰も信じてくれないですよ。」
「だって、本当にあるんだから、信じてよ。私も、昔は、そんなことはないと思ったから、信じられないことは分かるけど、本当にあるんだから。どうすれば信じてもらえるの?」
「私がパラレルワールドに行ければ信じられますけど、無理ですよね。」
「多分、無理ね。どうして、パラレルワールドに行けたか、私もわからない。魔法を使う占い師と会ったからとしか言えない。」
「魔法とか言われても・・・。」

 こんな感じで、議論が噛み合うことなく、今日の接見は終わらせることにした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

処理中です...