業火のレクイエム

一宮 沙耶

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9話 再生

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 私は、駅のホームの最前列に立っていた。そして、この駅には停まらない、もう見えてきた特急電車を待って、前に進んだ。

 ここはどこだろうか。たしか、電車に飛び込んだはずだけど、生きてるみたい。でも、真っ暗で目の前には何も見えない。目はみえず、光ひとつない世界。喉も傷ついたようで、自分から喋ることもできない。耳だけが聞こえた。

「手も足も、体さえもほとんど失って、これから生きていけないでしょう。もう、延命はやめましょうよ。」
「ただ、脳はしっかりと動いていて、脳死状態にならないと殺すことになってしまう。」

 医者たちの会話が聞こえた。

「もう延命装置は切ってあげてください。目ももうなくて、顔もぐちゃぐちゃ、こんな姿で生きていけなんて娘がかわいそう。」
「でも、お母さん、今も、お嬢さんは、私たちの会話は聞こえているはずです。殺さないでと思っているかもしれないんですよ。」
「いえ、自ら電車に飛び込んだんですから、もう生きたくないと思います。」

 母が泣き崩れる様子が聞こえた。

 自分では分からないけど、頭だけになっているのかもしれない。

 これまでの経験を振り返ると、自殺するとか、逃げていても救われない。そして、他人のことを傷つければ、その分、自分に苦痛が跳ね返ってくる。だから、苦しくても、前に進むしかなかったのね。気づくのが遅かった。

 こんな姿になって気づいたわ。女性とか男性とか関係ない。人間として、自分のことばかり考えて、不幸だとばかり言ってないで、周りを思いやり、平和に暮らし、寿命を全うすることが大切だったって。

 でも、この姿で、これから、どのくらい生きなければいけないの。どのくらい苦悩が続くの。罪は増えたといってたから、たぶん、地獄で炎に焼かれるような日々がずっと続くに違いない。

 想像もつかないでしょう。何も見えず、動けずにいる人の1分が、どれほど長く感じられるか。そして、麻酔が切れれば激痛に襲われ、痛いと伝えることもできない。

 もう、地獄に行った方がまし。私は、これから、なにを希望に生きていけばいいのかしら。生きている意味があるのかしら。でも、これまでのことを考えると、このまま苦痛に耐えるしかない。

 ある日、目が覚めると周りが明るいことに気づいたの。ここは、どこかしら。

 私は、男子高校生として目覚めた。私が病院で手当を受けている時、学校の屋上から飛び降りて脳死状態の男子高校生が運ばれ、私の脳を移植をしたとのことだった。

 奇跡的に、身体には、それ程の損傷はなく、手術で治ったらしい。そして、鏡を見た時の驚きは今でも覚えている。昔の自分だった。あの自殺をした。

 そして、私を手術した先生からは、女性だった人が男性としてこれから生きていくのは困惑するだろうけど、せっかく、やり直すチャンスを与えられたんだから、自殺とかせずに、しっかりと生きなければならないと言われた。

 先生には言い返さなかったけど、困惑するはずがない。私は、この身体で生まれ、これまで育ってきたんだから。

 そして、自殺しても、また繰り返すだけだから、もう自殺もしない。前に進むしかないことも分かってる。

 私は回復し、学校にいったけど、またいじめの毎日で、今日も、校舎の裏で、3人の先輩たちから殴られ、蹴られ、持っていたお金も全て取られた。

 結局、前の生活に戻っただけだった。でも、これまでの人生での経験を使って、少しは人間関係も良くしていこう。大学に入ったり、会社に入ったりするときには、人間関係の再構築もできる。

 ところで、今日、街の商店街を歩いている時に、芽衣とそっくりな女性を見つけた。友達と話す姿、内容は芽衣そのもの。

 でも、芽衣は死んだ、いや、私が殺したんだから、あの人はうり二つの別人なんだと思う。名前も違うはず。

 私は、人生経験も増え、人の気持ちも少しは分かるようになった。これからは、周りの人を幸せにする人生を送ろう。
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