業火のレクイエム

一宮 沙耶

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7話 彼との別れ

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 竜也のご両親にご挨拶にいった後、とんでもないことが起きたの。そう、誰にも言えない3つ目のことが発覚した。

 私が大学生になり、男性から女性に変わったすぐ後ぐらいに、家に帰るとお母さんが真っ暗な部屋で泣いていたの。

 何かと聞いたら、お父さんが、電車の中で痴漢として逮捕され、それで会社をクビになったって。離婚するのは当然で、慰謝料もたくさんもらうけど、それ以上に恥ずかしくて生きていけないと泣いていた。

 お母さんの実家は、お金持ちで、お父さんと離婚しても暮らしには困らなかった。大学もこれまでどおり通うことができた。

 だけど、なぜか、私の大学の友人とか、その事件のことを知っていて、私を見るみんなの目は冷たかった。私には、嫌らしい遺伝子が入っているって。私には、関係ないのに。

 そして、大学では、私ははぶられるようになり、飲み会とかにも呼ばれなくなった。そして、孤独になったし、引け目を感じて、いろいろなところで、暗い日々を送ることになったの。

 その頃は、見えるものは全て灰色で、私から色が消えた。そして、みんなが私のことを、汚らわしいものでも見てるように思えて、いつも、陰に隠れて過ごすような生活をしていた。

 大学の校庭を歩くと、サークルでテニスをしている人たちが、練習の合間に楽しそうに話している姿が見える。どうして、私は、この人たちのように過ごせないんだろう。

 お父さんのことは私のせいじゃない。でも、みんな私が汚らわしいと見てくる。どうして、こんなに世の中は不公平なんだろう。

 大学生なのに、サークル活動に参加せず、授業が終わるとすぐに家に閉じこもっていた。大学の最後の2年は、本当に辛かった。

 でも、今の会社は、その事件について知らなかったのか、素直に入社できたことはラッキーだった。だから、お父さんの事件のことはすっかり忘れていたの。

 でも、竜也のご両親は、この事件のことを、どうやってかは不明だけど見つけ出し、私のせいじゃないけど、息子を、このような事件を起こした家族の一員にはできないと言い出した。そして、竜也もごめんって言って、私を守ってくれなかった。

 私は、この人とずっと一緒にいられると喜んでいたのに、一瞬にして崩れ去ったことに、目の前が真っ暗になったわ。

 そして、家に帰ると、お母さんをたたき、お母さんのせいだと大声で責めたの。お母さんは、ごめんなさいといい、2人で泣き崩れた。

 その後、竜也から、お詫びのメールが来て、ご両親にあの事件のことを伝えたのは、芽衣だったと聞いた。それを聞いた私は、復讐する気持ちに溢れて、自分を止められなかった。もともと、竜也を芽衣から奪ったのは私だったのに。

 芽衣は、その頃、あのホストが自分を貶めたにもかかわらず、そのホストにはまり、財産を失い、借金までしていた。でも、なんとか20万円ぐらい借りて、私の過去を調べたらしい。恨みを晴らすって。

 ひどい。幸せの絶頂だった私を崖から突き落とすなんて。私は、気づいたら、夜道を歩く芽衣を待ち伏せしていた。

「芽衣、ひどいじゃない。竜也と私との仲を壊すなんて。」
「そもそも、あなたが竜也を奪ったんでしょう。また、痴漢のことは、私が作りだしたものじゃなくて事実だし。それを知ってもらっただけで、私が悪いわけじゃないわよ。」
「そうだとしても、芽衣が言う必要はないのよ。」

 私は、怒りを抑えられなくなって、芽衣を突き飛ばした。その時に、運悪く、トラックが走ってきて、芽衣は轢かれてしまった。私は、別に殺そうとして突き飛ばしたわけじゃない。

 周りを見渡したけど、監視カメラとかがあるように見えなかったし、帽子もかぶっていたので、私と分からないと思い、その場から走って逃げたの。

 翌朝、女性が事故で轢かれたというニュースがでていた。また、警察がきたけど、私は昔、親友だったけど、芽衣が部屋に入ってきて暴行されて以来、会っていないと答えておいたら、それ以降は警察も来なくなった。

 ニュースとかで見ている限り、ホストにお金をむしり取られ、お金がなくなったら相手にされなくなり、また借金が膨らみすぎたことに悲観し、自殺したんじゃないかということで決着したように見えたわ。

 私は、胸をなでおろした。怒りに任せて動いちゃったけど、今回は、なんとか問題にならずに終わらせることができた。しかも、私を恨んでた人を排除できたし。

 でも、竜也が戻ることがないのは変わりがない。本当に、余計なことをして。だから、死んで当然なのよ。

 私は、ベットで横たわりながら、そんなことを本心から思っている自分に、本当に人格が変わっちゃったと、ふと我に返り驚いていた。でも、もう私には、自分を止めることはできない。

 いつの間にか寝ていたら、ふと、大きな鳥が羽ばたいて降りてくる気配を感じた。そして、目を開けると、天井がなくなっていて、星空が見える。私はどこにいるの?

 いきなり、大きな鳥は私に向かって降りてきて、鋭い爪があるその足で私をつかみ、再び、空に向かって飛び始めた。

 10階建てのマンションが真下にみえているから、地上30mぐらいの所にいるんだと思う。強風が吹くなか、街と私の間には何もないこの状況に恐怖を感じていた。

 そういえば、男子高校生のときに学校の屋上から飛び降りた時、学校は4階建てだったから、ちょうどこの半分ぐらいだったと思う。あの時は、死ぬことしか考えていなかったから怖くなかったけど、今は、再びあの痛みを感じるのかと思い、恐怖の中にいた。

 いつのまにか、器用に私は、地面が見える方にひっくり返されていた。今見える家々からは暖かい光が窓からもれる。みんな、家族で幸せな時間を過ごしているのだと思う。

 どうして、私だけ、いじめられて、彼との仲は引き裂かれ、そして、このような恐怖体験をしなければならないの。みんなは幸せに生きているのに。

 前世での悪行とかが原因だというの。そんなもの私に関係ないし。芽衣のことだって、私も悪いところはあるけど、芽衣が悪いんじゃない。芽衣のせいで、婚約者と破談になってしまったのよ。あれだけ夢みた竜也との生活が・・・。

 みんな不幸になって、死んでしまえばいいのよ。

 そう思った時だった。鳥は足を開き、私は地面に向けて落ちていった。そんな長い時間じゃないと思うけど、落ちていく時間は永遠に感じた。

 そして、私はアスファルトの道路に叩きつけられて骨は砕け、手足を動かそうと思っても少しも動かない。

 そして体中に激痛が走っている。体中をハンマーで殴られたように痛い。もう、許して。

 そう思った時、私は目が覚めた。目にはたくさんの涙をうかべて。そして、手足は動くけど体中に激痛がはしる。どこまで続くのかしら。

 ところで、今から振り返ると、どうして男性だった私が女性となったんだろう。そして、いつの間にか、心も女性となり、男性をめぐって親友を殺してしまった。私は、どこに向かっているんだろう。
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