業火のレクイエム

一宮 沙耶

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4話 親友の彼氏

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 芽衣と出会って2年ぐらい経ったころ、芽衣から、彼氏を紹介したいと言われた。やっぱり芽衣も女性なのね。しかたがない。

 女友達としては続くんだろうけど、私だけの芽衣じゃなくなっちゃう。そして、時間とともに彼の方が大切ってなって、結婚し、子供ができて、そうやって私との時間はなくなっていくんだと思う。私は、目に涙をいっぱいため、眠れない夜を過ごした。

「紹介するね。私の彼氏の桜井 竜也。こちらは、私の親友の一ノ瀬 瑠華。これから仲良くしていこうね。」
「よろしく。ところで、一ノ瀬さんは、彼氏はいるの?」
「今は、いないんだけど・・・。」
「竜也、女性にそんなこと聞かないの。」
「いや、でも、こんなキレイな人だったら男性が放おっておかないでしょう。」
「ありがとうございます。でも、本当なんですよ。いつも、芽衣と仲良くし過ぎだから、男性と会う機会が少なくなっていたかもしれないわね。これからは、素敵な彼氏さんができて、私と会えないなんて言われちゃうかも。」
「そんなことはないから。」
「僕は、3人でいつも会えると楽しいかな。」

 芽衣は、親友に手を出さないでねという警戒の目線を彼に送っていたけど、そんなことより、私は自分の気持ちに驚いていたの。

 これまで男性になんか関心なかったのに、芽衣の彼を見た時、どうしてかしら、この人の子供を生みたいと思ってしまった。不思議な感覚だった。

 頭で感じるというより、体の中から、そういう気持ちが沸き起こってくるというか、よく分からない気持ち。

 彼は、とても爽やかで、体も、外から見て、かなり鍛えているようだった。固そうな胸板、大きな肩幅、これまで気にしたことがなかったのに、どうして目がいっちゃうんだろう?

 そして、声は、低すぎることはなく、とはいっても高くもなく、爽やかに聞こえた。芽衣には悪いけど、私の目は、彼に釘付けになってしまった。彼は、輝いていたから。

 話しも知的で、芽衣が好きになるのも分かる。ITが社会に影響を与えているけど、それはまだまだだで、これから大きく社会を変えていくということを強く語っていた。

 私もIT業界で働いているけど、ITで私たちの生活って、そんなに変わるのかしら。たしかに、銀行振込の給料は、昔は手渡しだったと聞いたこともあるけど、それで私たちの生活が変わったと言うほどでもない。

 また、このような変化の中で、自分は将来をみてこんなことをしたいなんて夢も語っていた。私なんて、将来の夢なんてないし、女子大のときには、そんな女性はいなかったから、将来の夢を語る人がいるなんて考えたこともなかった。

「瑠華、今、この人と一緒に暮らしてるんだけど、この人、お料理も得意なのよ。むしろ、洗い物とか、掃除とかお茶碗洗とかが私の担当で、料理は、彼の担当という感じ。こんな男性って初めてで、そこがこの人と付き合おうとした決め手かな。」
「3年も一人暮らししてれば、だれでもできるよ。そうしないと、美味しい料理食べられないし。」
「そんなことないって。男性の1人暮らしなんて、外食とかコンビニ弁当とかが多いと思うけど。」
「そうかな。」

 料理もできるんだ。なんか、私と一緒に暮らしている姿を想像していた。でも、現実は、彼は、親友である芽衣の彼氏。私は、彼の顔をずっと見つめながらも、これ以上先に進んじゃだめだと、暴走しそうな自分を止めていた。

 でも、それからというもの、気づくと彼のことばかり考えていたの。朝起きたら、彼は今、まだ寝てるのかなとか、夕方になると、彼は仕事で疲れてるのかなとか、休日は、彼は何をしているのかなとか、いつも彼のことばかり。

 いつものように、小川に沿った遊歩道を歩くときも、暖かい日差しのもとで、手をつないで一緒に歩けたらなんて、ふと気づくと考えている。お互いに、ほほえみながら、たわいもない話しで笑っている姿なんて想像したりして。

 そして、この前は、彼が、後ろから私を抱きしめてくれて、私が彼の手を上から握ると、彼は、私を振り向かせて口づけをしてくれる夢を見た。

 そして、それは毎晩、エスカレートしていき、私は、彼に強く抱きしめられる夢までみるようになった。私って、どうしてしまったのかしら。

 私は、もともと男性。そんな気持ちになることなんて、考えたこともなかったのに。男性から手を握られたときには、気持ち悪くて、その手を払っていたのに。

 まして、これまで、心の中を占めていた芽衣のことは、どんどん関心はなくなり、女性を見ても心がときめくということはなくなっている自分に気づいた。

 芽衣とは、それからも時々、ランチとか一緒にしてたけど、一緒にいると後ろめたい気持ちでいっぱいだった。

 芽衣には笑顔で笑って、親友だと言いながら、彼を奪いたいと思っている。なんか、私が嫌いだった女性たちと同じじゃない。

 でも、芽衣と遠ざかると、彼とも会えなくなっちゃうんじゃないかと思って、関係は続いていたの。

 ある日、仕事が終わり家に帰ろうと電車に乗っているとき、彼と再会した。

「あれ、一ノ瀬さんだ。今、帰り?」
「あら、偶然ですね。私は帰りですけど、桜井さんも、今、お帰りですか?」
「今日もお疲れさま。」

 私は、この頃見ている夢のこともあり、恥ずかしくなって、彼の顔をみることができずに下ばかり見ていた。

「せっかくの機会だし、一緒に飲みにでも行かない?」
「でも、芽衣はいないし。」
「大丈夫。僕らは友達でしょう。友達なら、一緒に飲みに行くくらい普通だよ。」
「そうかしら。でも、芽衣から怒られるかも。」
「僕から、芽衣には言っておくから。」

 なんとなく強引に誘われ、断りきれずに、気付くと表参道を一緒に歩いていた。

「どこに行こうか?」
「桜井さんは、どこがいいですか?」
「そうだね。じゃあ、僕が知っているお店にするね。着いてきて。」
「ええ。」

 表参道の駅から5分ぐらい歩いたところだったかしら、隠れ家のようなお店で、なんか雪で作ったかまくらのような個室があるお店に入った。

 そのお店では、見た目が美しい和食がいただけて、さすが桜井さんは、大人だななんて思って、気持ちは高まっていった。

「一ノ瀬さんはお酒が強いんだよね。じゃあ、今日は飲み明かそう。」
「そんなに強いってわけじゃないですけど。」
「遠慮しないで。ここは、美味しい地酒も揃ってるから。」
「じゃあ、少しだけ。」

 今夜も、彼の話しはとても知的で、私の目は、ずっと彼の顔に釘付けだった。そして、少し酔っ払ったのか、いつの間にか、彼は、私の横に座っていた。

「瑠華さんって、本当に美人だよね。」
「そんなことない。」
「謙遜しなくていいんだよ。」

 そう言って、私の手に彼は手を重ねてきた。

「芽衣に怒られる。」
「僕は、君の魅力に勝てないんだ。」

 その後の記憶はない。そして、朝起きたら、彼と一緒にベットで寝ていたの。それも、下着もつけずに。

 え、どうしよう。芽衣に、なんて言ったらいいのかしら。でも、私は、彼の寝顔を横にして幸せな気持ちを抑えられなかった。

「あれ、起きたんだね。おはよう。」
「おはよう。昨日、私、どうしちゃったんだろう。覚えていない。」
「あのお店で、だいぶ酔っ払ったようで、タクシーでここまで来たんだ。覚えていない?」
「うん。」
「でも、瑠華さんと一緒に素晴らしい夜を過ごせたよ。」
「芽衣に怒られる。」
「芽衣とは、別れようと思っていたところなんだ。」
「そうなの。でも、私、芽衣とは親友だし。」
「僕が謝るよ。瑠華さんと会ってから、ずっと瑠華さんのことしか考えられなくて、この日が来るなんて夢のようだ。」
「でも・・・。」

 竜也は、私を強く抱きしめて、私も、もう抗うことはできずに、竜也に唇を重ねた。
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