業火のレクイエム

一宮 沙耶

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2話 女友達

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 元の自分に戻る方法は分からないし、生きていかないといけないから、普通に女子大生として暮らしてきた。そして、今日は、就職活動で合格した会社の入社式。スーツ姿で、私は、社長の訓示を受けていた。

 大学の時は、男性から女性にいきなり変わって慣れず、多くの失敗をした。でも、この新しい環境なら、心機一転、人間関係を作り変えられる。この機会に大きな期待を持っていたの。

 特に、いじめられて怖い思いをした男性よりも、女性の友達を作りたかった。女性にも嫌な思いもしたけど、女性だって、誰もが悪人ではないはず。優しい人がきっといる。

 女子大時代には、女性との関係がうまく作れなかったけど、今なら、何が悪かったかわかっているから、普通の女性として女性に接することができる。

 新入社員数は300人で、かなり広い会場だったから少し寒かったけど、1時間ぐらいの入社式が終わると、研修センターに移動になり、2ヶ月の研修になった。

 研修センターでは、もう学生じゃないと言われたけど、新入社員は、まだまだ学生気分から抜けてなかったと思う。1日目の研修が終わり、学生ののりで、女性5人、男性5人の10人で渋谷に行き、飲もうとなったの。

「一ノ瀬さん、しばらく一緒に研修だね。どこに配属になりたいとかあるの?」
「よろしくね。わたしは、世の中に役立つサービスを作って社会に貢献したいかな。だから公共事業部に行きたい。」
「僕は、法人事業部で、身近な小売業界のシステムを作りたいかな。お互いに、どうなるか楽しみだね。まあ、飲もうよ。」

 佐々木さんが、さっきから積極的に迫ってきてる。無視するのも角が立つし、適当に話題を変えたりとか面倒。あなたなんかに興味はないのにってことに気づいて欲しい。

 でも、内定式から見ていて素敵だと思っていた女性がいたから、この飲み会に来たの。佐々木さんとかだけだったら、最初から参加していないし。

 その女性は、遠くから見ていると、周りの人にとても誠実で、清楚な対応をしている。それは、会話の内容からもにじみ出ていて、相手を貶めたり、陰で悪口を言ったりするような素振りは全くない。

 直接、話したことはないから、まだ分からない部分があるかもしれない。だから、その女性を男性たちが飲みに誘っているのを見て、一緒に話そうと思ってこの飲み会に参加したの。

 もしかしたら、佐々木さんは、私がここにいる男性の誰かに興味があって来たと勘違いしたかもしれないわね。私は、さっそく、その女性に話しかけてみた。

「橘さん、これからよろしくね。私のこと瑠華と呼んでね。」
「じゃあ、私は、芽衣と呼んで。どこの所属に希望出してるの?」
「私は、社会の役に立ちたいから、公共事業部かな。」
「わたしも同じ。一緒の部署になれるといいね。」
「私も、芽衣と一緒になれると嬉しい。」
「お二人さん、僕と一緒に小売業界のシステムをやらない。」 

 佐々木さんはうるさい。芽衣とは私が話しているのよ。

「トイレで噂話ばかりしている女性って嫌よね。そういう時って、だいたい悪口だし。この会社は、そんなことは少ないと聞いているけど、本当はどうなのかしら。」
「本当に、そういうの嫌よね。欧米なんかではトイレを男女共有にして、そんな恥じらいのないことを防いでるとか聞いたこともあるけど、そうするのもいいかもね。」
「それもありね。ところで、男性の前だけ声が高くなって、かいがいしく男性の世話をするけど、女性の前だと態度が悪いという女性も嫌い。」
「そういう人いるわよね。本当に見苦しいというか、そんなことしなくて自然に振舞って、それで好きになってくれる人と付き合う方が楽なのにね。」
「本当に、そう思う。」

 しばらく、私たちは、嫌な女性について大笑いしながら2人で盛り上がっていた。

 2ヶ月の研修が終わり、芽衣とは同じ部門への配属になった。佐々木さんは、ほとんど関連がない小売業界のシステムを担当する法人事業部の配属になったことも朗報だったわ。

 芽衣は、その後も親しくしていたけど、知れば知るほど、とても、素直で優しくて素敵な女性だった。

 正直言うと、繰り返しになるけど、これまでの3年間で知り合った女性はあまりよい印象がなかったの。人のことを陰で悪く言ったり、その場で口ではいいことを言いながら、全く違うことを考えていたりという人ばかりだったから。

 本当に信用できないというか、陰で嫌なことばかりしてくる。また、マウントを取ってくる人もいて、気が滅入っちゃう。もう、本音で話せる女性なんていないと思っていたわ。

 その意味では、男性の方が単純で、政治家とかはわからないけど、あまり相手の足を引っ張ろうとか考えていないわよね。

 そんな中、芽衣は、付き合ってみると、裏表なく、私のことが悪ければ、悪いと言ってくれるし、いつも、暖かく私のことをみて、アドバイスもしてくれる。

 楽しいときは、一緒に楽しみ、悲しいときは一緒に悲しんでくれる。もちろん、私も、この気持ちに応えたくて、芽衣には、正面から付き合っていた。だから、親友と言ってもいいと思う。

 休日、一緒にショッピングをしたり、旅行とかもした。温泉に入りながら、悩み相談をお互いにして、励まし合ったりもした。そして、いつも2人には笑いが溢れていた。

 一緒に渋谷にでかけたときには、このイヤリングが似合うんじゃないかしらなんてお店をめぐりながら穏やかな時間を過ごし、その後には2人でカフェとかで笑いながら夕食を一緒にとった。

 こんな穏やかな時間があるなんて、これまで考えたことなんてなかった。もしかしたら、身体が女性な私だけど、男性としての心が芽衣を愛していたのかもしれない。

 本当に、芽衣は私にとってなくてはならない人だったし、永遠に親友でいたいと思ってたの。本当に心を許せた女性は芽衣だけだった。

 私は、この芽衣との時間を失いたくないから、元男性だったなんてことは言えない。嫌われてしまうもの。
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