業火のレクイエム

一宮 沙耶

文字の大きさ
上 下
1 / 9

1話 女性としての再出発

しおりを挟む
 私には、誰にも言えないことが3つある。

 私は、3年前、男子高校でいじめにあって暗い生活に絶望し、学校の屋上から飛び降り自殺をした。そして、目が覚めたら女子大生として生まれ変わっていた。しかも、時間は男性だった私が生まれた頃に戻ってる。

 私が、未来の男子高校生だなんて、言っても信じてもらえないと思うけど、誰にも言えないことの1つ。しかも自殺したなんて。

 高校では、毎日のように殴られ、蹴られ、苦痛の毎日だった。そして、そこから逃れる道はどう考えても見当たらなかった。

 アザもあって、先生も気づいているはずなのに、声もかけてくれない。それだからか、私への暴力は日に日にエスカレートしていき、絶望という言葉しか私にはなかった。

 そんな私が急に女性になり、親も友人も知らない人ばかりになっていて戸惑ったわ。そもそも、女性として暮らしていくのは、慣れないことばかりで大変だった。

 女性との話しはかみ合わないことも多くて、感じが悪くなったとか言われて誘われなくなったり、1人の時間が増えたし。

 いったん仲が悪くなると、トイレに入ったときに私の悪口で盛り上がっている場面に出くわしたり、正面から、あなたなんて消えればいいじゃないとかも言われたわ。

 これまで考えたこともなかったけど、女性って、本当に嫌な生き物だと女性になって初めて気づいた。男性がいなくて、恥じらいなんて考えなくていい女子大だったのが悪かったのかもしれない。

 いずれにしても、女性に生まれ変わっても、私は人から嫌われ、いじめられる運命にあるみたい。だから、よく家の近くにある川沿いの遊歩道を1人で歩いたり、そこにあるベンチに座り、1人で本を読んでたりした。

 遊歩道から見える公園では、子どもたちが友達と笑い声をあげて遊んでる。どうやったら、あんなにみんなで楽しそうに遊べるのかなんて、もう忘れちゃった。

 私の前を通り過ぎた2人は、手をつなぎながら、恥ずかしそうに下を向き、時々お互いの顔を見つめ合っている。とても楽しそう。でも、私には、眩しく光る木漏れ日だけが、心を温めてくれる友達。

 ベンチの脇に咲く花のまわりで2羽の蝶々が楽しげに飛ぶ。多分、あれはオスとメスかな。もともと男性だったからか、男性には興味をもてなくて彼はいない。だから、彼と付き合い、幸せな時間を過ごすなんていう経験もない。

 そうはいっても、たぶん、この身体で、私自身、女性と付き合うなんてこともないと思う。相手も受け入れてくれないと思うし。

 近づいてきた男性は何人かいた。最初は、もう男性に戻れないなら、女性として男性と付き合うことも必要なのかななんて思ったけど、どの男性も、結局、私の身体が目当てで、私の心なんて見てくれなかった。

 女性はみんな私に冷たいし、男性と一緒にいても、結局、心は1人だった。それなら、1人でいる方が楽。だれも、私の心を乱すことはないのが私にあっている。

 そんな私でも、3年も経つと、友達はまだいないけど、知らない人から見れば普通の女子大生にみえるようになっていたと思う。時間が解決してくれたということかしら。

 でも、男性だった私が、どうして、今は女性として暮らしているのか、未だに分からない。
しおりを挟む

処理中です...