ようこそ、悲劇のヒロインへ

一宮 沙耶

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4話 女子大

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 窓から周りを見渡すと、目の前の道は、桜並木で、桜が咲き誇っている。今は、春休みでクラブ活動なのか、多くの女子学生が道を歩き、テニスコートでは、女性が練習を始めようとしている。間違いなく、女子大の風景だ。くどいようだが、俺の体も、女性そのものだ。

 ここは3階なんだと思う。横を見ると、だいぶ大きな建物だから、この女子大は全寮制なのかもしれない。女性が、ここに何百人もいるってことか。本当に大丈夫かという不安が、どんどん大きくなっていった。

 ところで、下はパンツだけだと少し寒い。クローゼットの中を探したが、越してきた時に多くの衣類を持ってきていないのか、ズボンはなく、スカートしかなかった。俺が、スカートを履くのか? 恥ずかしかったが、部屋には1人しかいないので、スカートを履くしかない。

 ロングスカートでも、なんか、スカートって、あまり暖かくないんだななんて思い、もう少しどうにかできないかと思って探すと、ストッキングがあって履いてみた。


 暖かくなったが、これって、上から下まで女物を着てるじゃないか。俺は男なのに。でも、体が女性なんだから、どうしょうもないし、ここには女物しかない。

 でも、スカートを履くなんて、どうかしてるぞ。なんか、とっても恥ずかしいことをしてる気分でいっぱいだった。

 こんなことをして1日、部屋にいても、どうしようもない。外を散策して、まず、この部屋の外の状況も把握しよう。そのためには、すべきことがあるだろうか。そうだ、化粧だ。すっぴんで外とか出たら、逆に目立つと思う。

 さっき探していた時に、化粧のポーチがあったので、それを持ってきて、まず、YouTubeで化粧について調べてみることにした。

 化粧って、メークっていうんだな。初心者メーク徹底解説という動画を1時間ぐらい見て、実際に、自分の顔で試してみたが、よく分からない。ただ、やってはメイクを落とし、もう1回と4回ぐらいやってみたら、なんとなく、わかるようになってきた。

 そんなことをしていたら、お昼の3時になっていた。俺は6時間も、この顔と悪戦苦闘していたわけだ。初めてなのに、よく頑張ったと自分を褒めてあげたい。そして、頑張ってメークしたその顔で、それでも、部屋から出てみることにした。

 おそるおそる、部屋のドアを開けると、そこは板敷で、スリッパを履いて歩く廊下になっていた。確かに部屋には靴を置くところがなく、1階に大きな玄関があって、そこにロッカーがあって靴とかが置いてあるんだろう。

 俺の部屋は、さっき見たように3階で、共同風呂は2階、食堂は1階と表示されていた。この建物は5階建てで、各階には25部屋ある。通常のワンルームマンションだと、廊下に出れば外という感じだが、ここは、学校みたく、部屋を出ても壁があって建物の中だった。

 まだ寮に来ている人は少ないようで、廊下も空いていたが、廊下を歩いていると、1人、正面から歩いてきた。

「あら、こんにちは。1年生かな。私、2年生だけど、よろしくね~。」
「こちらこそ・・・」

 先輩らしき人が、手を振って通り過ぎていったが、シャツと、下はパンツだけで廊下を歩いている。春休みで人がいないからと言っても、女性って、人が見ていないと、そんなんになっちゃうのか?

 そうは言っても、清掃の人とかいるだろう。女子大だから、寮の中も清掃の人とかはおばさんしかいないのかもしれない。とは言っても、男性でも、そんなだらしない格好はしないと思うが。

 大体、この寮の構造はわかった。次は、食べ物を買い出しに行こう。お財布をみると5万円入っていて、外に出かけた。

 女子大って、こんな感じなんだ。これまで男性ばかり見てきたから、横を通る人が女性だけというのはとっても恥ずかしくて、下を見てしまった。でも、よく考えてみると、俺は女性なんだからと前を見るようにした。

 でも、女性の靴って歩きにくい。なんか、重心の位置が不安定だし、前に倒れてしまいそう。歩くだけで、足が痛くなっちゃうな。しかも、スカートが邪魔して、足を前に出しにくい。小股で歩けってことだな。

 道を歩いていると、テニスコートから、ボールをとってくださいって声をかけられた。目の前に2つボールが転がっていて、1つを上から投げようとすると、全然違う方に行ってしまった。あれ、腕が思うように動かない。

 もう1個を下から投げて、別の方向にいったボールまで歩いていって、これも下から投げた。なんか、さっき投げた腕の付け根が少し痛くて、体はそんなに強くないんだと気づき、気をつけないといけないと反省した。

 そして、学校の門を出て、一般の道路に出ると、結構、緊張する。なんか、女の服って、軽いからか、よく分からないが、着ていない感じで、ずっと見られているっていう感じがする。こんなものなのだろうか。

 前から来る男性が、俺の体を眺めながら通り過ぎる。気にしすぎか? 男性の目線を見てみると、俺の胸に向かってる。それで、今更だけど気づいた。ニットのセーターだと、体のラインが丸見えで強調されるんだ。胸とか、はっきりとラインが見えてる。

 そうだったんだ。これから、この服着る時は気をつけないと。そういう服なんだな。なんか、男性たちの目が俺を突き刺すようで、怖いというか、恥ずかしい気持ちでいっぱいだった。

 そんなこと考えながら歩いていると、スーパーに着いていた。まず、寮の食堂は8日からと書いてあったし、部屋には、冷蔵庫とか、湯沸かし器があったから、カップラーメンとか、パンとか、お茶を買っていこう。

 気のせいかもしれないけど、レジのおばさん、俺の方を見て、冷たい目線を送っていた。男性の時には、レジのおばさんって、俺に笑顔を向けてくれていたけどな。なんか、雰囲気が違う。そんなことを考えながら、部屋に戻ってきた。

 まだ時間があるから、部屋にある服を一通り着てみよう。この服、どう着ればいいんだろうか。なんか、上から着て手を入れようとしても、どこに入れればいいのかわからない服もある。スカートって、どっちが前かわからない。こんなに短いの、電車で座ったら見えちゃうな。

 そんなことで悪戦苦闘して、気づくと、夜7時になっていた。そこから、カップラーメンを食べて、夜中まで、ブラジャーの付け方とか、髪型とか、かなりの時間を使って情報収集をしたんだ。

 女性に変わるとは思ってなかったが、膵臓がんで死ぬよりマシかもしれない。やり直せるんだったら、そういう選択肢でもいいかもしれない。明日起きたら男性に戻っていたなんてこともあるかもしれない。

 いずれにしても、俺にはどうにもできないと思い、眠りについた。
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