あなたは知らない

一宮 沙耶

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1話 爆破

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「逃げろ。」

 なにが起きたの? さっきまで、教会で比菜の結婚式にでてたわよね。たしか、新婦入場があって、神父が・・・。よく思い出せない。砂埃で前が見えないし、耳も、中でキーンと響いていて、よく聞こえない。

 そう、さっき、爆発のような音がきこえ、強iい熱風を受けた。でも、幸いなことに、後ろの方の席に座っていたおかげか、席の背もたれにぶつかって、横に倒れ、前の背もたれが守ってくれたのか、私には怪我はあまりないみたい。

 比菜は大丈夫? さっきまで指輪の交換をしていたところをみると、真っ黒なウェディングドレスを着た比奈が床に倒れている。そして、比奈の頭には、コンクリートの大きなブロックがのっていて、とても生きてい
るようには見えない。

 また、神父の後ろで素敵に光を浴びていたステンドグラスがあったところからは、後ろのビル群が見え、ガラスが床に散乱している。

 いままで気づかなかったけど、ステンドグラスの上にあった天井は床に落ちて、空もみえていた。

 まだ、砂埃であまり見えないなかで、ふと、肩をたたかれて我に返った。

「お嬢さん、大丈夫ですか?」
「少し怪我しましたけれど、大丈夫です。」
「まずは、外に出ましょう。」

 前列にすわっていた人たちは、ほとんどが床に倒れて全く動けないようにみえたけど、後列にすわっていた人たちの中で半分ぐらいは、なんとか自力で歩けるようで、そういう人たちは外にでて、救急車を待っていた。

 私は新婦の親友として前列に座るべきだったんだけど、次の用事もあり、終わり次第すぐに出なけばいけなかったので、後列に座っていた。それが幸いしたのだと思う。

 外は新緑の季節で、明るい緑の葉が生き生きと成長していく木々と、本来は白いはずの壁が崩れ、灰色のコンクリートがむき出しになっている教会の姿は非常にアンバランスな感じのする風景だった。

「何が起こったんですか?」
「よくわからないけど、爆弾が爆発したみたいです。テロとかですかね?」

 周りの人たちも、何が起きたのか理解できていなかったみたい。

「あなたは新婦の友達ですか?」
「ええ。」
「新婦はかわいそうですね。でも、あなたは怪我とかあまりなさそうで、本当によかったです。」
「おにいさんは、怪我してないようですけど、結婚式に参列してたんですか? でも、服装は結婚式っていう感じじゃないですけど。」
「偶然、近くをとおりかかっただけです。爆発の音が聞こえて、なにが起きたのか見にきたんです。 」
「そうなんですね。」

 私は、病院で念のためのチェックを受けたけど、特に問題はないと言われ、すぐに家に帰れたの。チェックのあいだ中、さっきの男性は、私が心配そうな顔をしていたせいか、病院のロビーでずっと待っててくれていた。

「ありがとうございます。特に問題はないとのことでした。本当に、ご迷惑をおかけしてしまい、申し訳ありませんでした。」
「いえいえ、なにかの縁ですから。でも、服も切れたりしているし、ご自宅まで、近くに停めている私の車で送っていきましょう。」
「そこまでしていただくわけにはいきません。タクシー呼んじゃったので、自分で帰れます。今日は、どうも、ありがとうございました。」
「じゃあ、私のLINEのIDをこのメモに書い渡しておくので、なにか不安なこととか、相談したいことがあれば、ご連絡ください。」
「ありがとうございます。では、ここで失礼します。」

 全く知らない人に、連絡先を伝えるのも怖いし、ましてや車に乗ることはできないので、その場は、タクシーで帰ることにしたの。

 でも、お世話になったし、お礼ぐらいはしないといけないかなと思い返して連絡をしたわ。そうしたら、安い居酒屋に誘われ、断りきれずに行くことにした。

 半月ぶりぐらいに会ったんだけど、あの時は、爆破事件で動揺していたのか、あまり彼の記憶がなかったけど、今日、再び見る彼は、とても素敵に見えたの。

 背が高くて、それなりに運動しているのか筋肉もけっこうあって、服装も、いまどきのおしゃれな感じ。雑誌の表紙に出てるモデルさん? 結構、もてるんだろうなって思っちゃった。
 
 多分、結婚していて、きれいな奥様と可愛らしいお嬢様がいるんだろうなって感じよね。まあ、期待はしない方がいいわね。これまでも、期待すると裏切られてきたし。

 でも、彼の話しはとても面白くて、また、私に触れる気配もなく、いつのまにか警戒心はなくなっていったの。

「今日は、ありがとうございます。でも、奥様とか彼女さんに、今日のこと怒られないですか?」
「奥様、彼女、そんな人いたら、今日、ここに来ないですよ。そんなこと気にしないでください。」
「とても素敵な方だから、きっと、奥様とかいると思っていました。」
「それなら、これからも、時々、会っていただけます?」
「友達からなら。」
「よかった。今日は誘ったかいがあった。」

 このようにして、私達は、月に1回ペースで会うようになった。
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