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愛をささやく3
しおりを挟む「あ、あき、」
「凛」
「~っ」
煌人は、何度も何度も私にキスをした。煌人のキスを受けると、煌人が今まで、どれほど私に遠慮して触っていたのかが分かる。
だって、今の煌人は……
「凛、好きだよ」
こんなにも荒々しく、だけど大切な物を触るように優しく。
私に触れてくれている。
そして、何回かキスをした私たちは……落ち着いた頃に、少しずつ顔を離していった。
「凛……これで分かった?」
「……へ…………?」
今、煌人とキスをしたんだ――という事実が、まだぼんやりとしか頭になくて。
だけど、煌人を見ると「私はさっきあの唇と…」って思い出しちゃって。
ボンッと、頭が沸騰したように熱くなった。
「(信じられない、煌人とキスなんて……っ!)」
私の潤んだ瞳の先にいるのは――煌人。
その煌人が、緊張した面持ちで口を開いた。
「俺とキスして……どうだった?」
「え、」
「嫌じゃなかった?」
「(煌人と……)」
煌人とキスした時、私……どうだった?
チラリと、煌人の唇を見上げる。
「えっと……」
「うん」
「って、さりげなく抱きしめないで……っ」
「ごめん、つい」
「(もう、何が”つい”よ……!)」
怒っていた私だけど。抱きしめられて、再び近くになった私たちは……やっぱり、どうしてもソッチの方に意識がいってしまって。
「なぁ凛、最低な事を言っていい?」
「な、なに……?」
「もう一度キスしたら答えが出る?なんて……そんな口実を作って、
もう一度、凛とキスしたい」
「っ!」
スッと、煌人の顔が降りてくる。お互いの息が、近い距離でぶつかって跳ねた。
あ……煌人が目を閉じた……。
ということは、私も……?
「(流されちゃダメって、分かっているのに……っ)」
そう思いつつも、キュッと目を閉じてしまった私。煌人はその瞬間を目撃したのか、フッと笑みを漏らした。
「もう限界。これから凛を食べ尽くす」
「(ん!?)」
今、物騒なワードが聞こえたよね!?
その予感は的中したのか、煌人は目をぎらつかせて私を見ていた。
「え、ちょ、ま、……煌人!!」
パシン、と。私が煌人の頬を叩いたのと、執事さんが教室のドアを開いたのは……ほぼ同じ瞬間だった。
「凛様、狼を前によくぞご無事で」
「し、執事さん……っ」
「あの狼は少々お勉強が足らないみたいなので、後でみっちり教えておきますね」
「おい、誰が何だって?」
煌人が顔に青筋を入れた、まさにその瞬間。教室に「コツッ」と、高い靴音が響く。
そして、
「レディの扱いを心得てないんじゃ、まだまだねぇ煌人♡」
「……げ、母さん!?」
「(煌人のお母さん?)」
今日が運動会だというのに、どこの舞踏会に行くんだろうってくらい華々しい赤いドレスを着ている煌人のお母さん。
そんなお母さんを見て、煌人の顔色はすぐに悪くなった。
「な、なんでこんな所に、」
「奥様が煌人様をお探しだったので、私が案内させていただきました」
「お前のせいかよ!」
私と離れたところで言い合っている、煌人と執事さん。
そんな二人には目もくれず、お母さんは真っすぐ私に近づいた。
「あなたが三田凛さん?」
「あ、はい……えと、煌人くんにはいつもお世話になってます」
ペコリと頭を下げると、煌人のお母さんは「こちらこそ」と笑った。
金髪のロングヘアが、とても良く似合っている。ナイスバディなお母さんだ。
「あなたのお父さんには、とてもお世話になっていてね」
「え、お父さんが?」
「あら、知らないの?鳳条グループの秘書をしているのよ?あなたのお父さんはすごいんだから!」
「(秘書!?)」
「今も、保護者テントで主人の相手をしてもらってるわよ。さっき”休日出勤手当つきますか?”っ聞かれちゃった~」
「(お父さん、ちゃっかりしてる!!)」
っていうか、え?
お父さんて、煌人の会社で働いてたの!?
全然、知らなかった!!
驚きを隠せないでいると、お母さんは更に私に近づき、私の頭を撫でた。
「凛さんと会うのは二回目かしらね。あの時、あなたはまだ小学校一年生だったわ」
「え、あの……すみません……」
こんなスゴイ人と会った事があるなら、絶対忘れなさそうだけど……何も覚えてない。
そう思って頭をひねっていると、お母さんは口紅が引かれた唇を、ゆっくり横に伸ばした。
「覚えてないのも無理ないわ。市役所で初めて会った凛さんは……何も目に写していなかったから。ご両親を亡くされた直後だったと、後から真くんに聞いたわ」
「あ……」
そうか。お父さんお母さんがいなくなって、私は生きる希望を失って……。
そんな中、今のお父さんに引っ張られながら、市役所に行ったんだ。色んな手続きをしないといけないからって。
「私もちょうどその日に、市役所に行ったのよ。それで真くんに会ったの」
「お父さんに……?」
「若い人が年齢に合わない娘さんを連れてるから、すごく目立っててね。それに、二人共とんでもなく沈んだ顔をしてたから……つい声を掛けちゃったのよ」
「そうだったんですか……」
煌人のお母さんが言うには、初対面にも関わらず、その場でお父さんを鳳条グループに採用してくれたらしい。
でも、なんで天下の鳳条グループが、お父さんを採用してくれたんだろう?
すると。
今まで外野でバトルしていた煌人が「そういや真さん言ってたな」と、私たちの話しに入ってくる。
「鳳条の会社がニートの俺を拾ってくれた、って」
「え、お父さん働いてないのに私を養子に迎えたの!?」
それは聞いてなかった……。
しっかりした今のお父さんからは、全然想像できない……。
すると、煌人のお母さんが「若気の至りね」とクスクス笑った。
「だけどね、若いといっても思う所はあったのでしょうね。あなたの手を握って市役所の隅で立っていた真くんの顔……今でもハッキリ覚えているわ。
あなたの親になるっていう決意と、今後の生活への不安と……。色んな物を背負ってたんでしょうね」
「お父さん……っ」
思わず、泣きそうになった。
お父さんは本当に……色んな思いを抱えて、私の親になってくれたんだ。
私を一人にさせないって、その気持ちだけで――
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