大嫌いなキミに愛をささやく日

またり鈴春

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愛をささやく

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「来いよ、凛」
「……っ」


煌人が私に向かって、手を伸ばしている。

煌人の後ろには、電気のついていない薄暗い教室が見える。つまり、誰もいないって……そういう事で。


「(そこに私と煌人が、二人きりで……っ?)」


その後は……その、後は……?

何を考えたらいいのか、何を思ったらいいのか分からなくて……。

とりあえず、煌人の名前を呼ぶことにした。


「あ、煌人……っ」


だけど、


「そんな顔真っ赤にして泣きそうな目をして、上目遣いで見られても。助けてやらねーぞ」
「え、なんのこと、」
「……こういう事」


意味が分からなくてオドオドしていると、煌人はニヤリと笑って、私を見た。

そして私に伸ばしていた手を、


グイッ


我慢できないように更に伸ばし、私の手を掴む。

そのまま私を引っ張り、二人で教室の中に入ってしまった。


パタンっ


「あ、入っちゃった……」
「……嫌なの?」
「! そういうわけじゃっ、」


嫌とか、そういうのじゃなくて。単純に、私がドキドキを抑えきれないというか。これ以上は、もう何だか限界な気がして……。

煌人と一緒にいると、何かがどうにかなっちゃいそうな。そんな胸の高鳴りを、どうしても覚えてしまって。


「戸惑ってるの……」
「戸惑う?」
「……うん」


煌人を前に、自分がこんなにも変になるなんて……。ワーって、何も考えられなくなるなんて。


「煌人、私に……何かした?」
「おい俺を犯罪者みたいな言うな。それに”何か”ってなんだよ」
「わ、分かんない……っ。でも煌人と一緒にいると、前みたいに出来なくて……っ」
「!」


私の言葉に、煌人は目を開いて驚いていた。

呆れてるのかな?
そうだよね……だって、前はこんな私じゃなかったもん。

前は――煌人を見たら、とりあえず腹が立って、何でも悪口を言い合えたのに……今は緊張して、それどころじゃない。


「ねぇ煌人、私……おかしいの」


自分の変化に、自分がついていけないの。

自分の事なのに自分が分からなくなるって、そんなのおかしいよね?


と、私が一通り呟き終わった、その時。
煌人が「あー」と片手で顔を覆った。


「もう、やめろ。それ以上は本当にやめて」
「や、やめてって……」


私を避けるように、ツツツと距離をとる煌人。

そっか……。煌人も、私の変化についていけないんだね。

つまり……


「もう友達じゃいられなくなるね、私たち」
「なんでだよ!」
「だって私の事を嫌いになったんでしょ?煌人」


私も、こんな分けわからない……フワフワした自分は嫌いだし。

煌人が私の事を嫌って「友達やめる」って言っても無理ないよ。


だけど、煌人は「はぁ」と深いため息をついた後。私と開けていた距離を、ゆっくりと縮めて来た。

そして、


「友達は、ずっとやめたいって思ってるよ」


そう言った。


「……やっぱり」
「あー!じゃなくて、もう!そうじゃなくて!」


肩を落として落ち込む私に、煌人は手をブンブンと振った。


「さっきも言ったろ!俺は凜を友達じゃなくて、彼女にしたいの!」
「彼女……え、じゃあ、」


私を嫌って、距離を取ったんじゃないの?

そう尋ねると、煌人は「違う」と。また首を振った。


「お前が恥ずかしげもなく、思った事をポンポン口にするからだっての」
「お、思った事を口にして何が、」
「……わかんねーかなぁ」


どこか悔しそうに笑う煌人は、私に向かって両手を伸ばす。

そして、ギュッと。
私を優しく抱きしめた。


「え、あ、あの……煌人!?」
「こういう事だっての」
「こ、こういうって、どういう……!?」


すると煌人は、私の耳に顔を近づけ、そして囁く。


「俺の抑えが効かなくなるから、可愛い事を言うのはやめてほしいって事」
「っ!」


なんか、もう……無理……っ。

頭がグルグル回って、何が何だかわからなくて。

あんなにいがみ合っていた煌人と、今は抱きしめ合ってるなんて……!


「ちょっと、タンマ……っ!」
「なぁ凛、抱きしめてもいい?」
「人の話を聞いてる!?って、それに!もう抱きしめてるじゃんっ!」


私のドキドキした心臓も、まるごと。

私の全部ぜんぶ、既に包み込んでるじゃん。


怒ったように言うと、煌人は「本当だ」と笑った。

反省するそぶりは、全くなし。

だけどすごく嬉しそうに弾む声。

昨日の調子の悪そうな煌人が嘘みたい。


「本当に、もう調子はいいの?」
「凛のおかげでバッチリ」
「私、何もしてないよ?」


私がそう言うと、煌人は「守ってくれたじゃん」と、また笑った。


「守る?私が?」
「昨日、倉庫の中で俺を守るって言ってくれた。あと、赤組のテントの中でも、俺を守って庇ってくれた。それに、さっき女子たちからもな」
「え!」


赤組のテントの中での事件を、なんで煌人が知ってるの!?

あの時、煌人は地区対抗リレーに出てたはずでしょ!?


私の疑問はお見通しなのか、煌人は「観念しろって」と私の後頭部を何度も撫でる。


「俺は凜のことを何でも知ってるからな」
「……キモイ」
「うん。言うと思った」


キモイ、なんて言われても、まだ嬉しそうにしてるんだから……やっぱり煌人は変だ。

それに……私も。

さっきから、やっぱり心臓が落ち着かない。

ドキドキが鳴りやまなくて……ずっと煌人に反応してる。
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