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*煌人*

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「位置について、よーいドン!」


ピストルのパンと弾ける音で、俺は後ろ足を蹴り、前進する。見るのは足元でなく、前。それのみ。そして風の向きさえも味方にして加速し、一番前へ踊り出る。


「ん?」


走っている途中に気づいた、とある違和感。

今……。あれ?ん?

「借り物が書いてある紙」が置いてある場所に、今……一瞬だけ、黒い影が見えたような。

ゴミでも飛んでんのか?


「(いや、やっぱ気のせいか……)」


そうこうしている内に、地面に置かれてある紙に辿り着いた俺。

一番近くにある紙を拾い、そして中身を確認する。


そこには、


「(自分にとって大事で好きな人を連れてこい――だと!?)」


学校の運動会で、こんなのありかよ!?

顔を真っ赤にした俺を、遠くからめざとく見つけた司会進行。アナウンスで「鳳条くんが固まってしまいました、頑張ってください!」と大きな声で言いやがった。


「(うるせーよ!動揺してんだよ察しろ!!)」


その時に――とある人物の姿を、俺は見つける。

司会進行がパイプ椅子に座っている、その後ろに、


「(なんでアイツが、本部のテントに堂々と立ってんだよ!!)」


そう。アイツとは、俺の執事。

やっぱり、さっき見えた黒い影は、ゴミでも見間違いでもなかった。きっと執事が、俺が引きそうな位置にあった紙と、あらかじめ用意していた紙を入れ替えたんだ。

くそ、なんのためにだよ!


「(って……目的は一つしかない、か)」



執事に目をやると、俺に気づいたアイツがニコリと笑っている。

俺は「チッ」と舌打ちをかまして、クルリと体の向きを変えた。


「(他の奴らが先にゴールしないように……早くアイツを見つけるか)」


そして、とある場所へ。
一目散へ走り出した。





「はぁ、はぁ……。クソ、全然いねぇ……」


凛を見つけに運動場から離れて、校舎まで来たけど……。

アイツどこ行ったんだよ、全然いねーじゃねーか。


「もしかして、もうテントに戻ったのかもな……」


そう思って回れ右をしようとした、

その時だった。


「あれー?煌人じゃん!久しぶりー」
「わ~本当だ、王子じゃん♡」
「入場行進みたよ~カッコいいね!」


私服姿で、着飾った女子達三人。

俺を見つけるやいなや、すごい速さで俺の近くまで寄って来た。


「(この子らって確か……)」


あぁ、思い出した。

小学校で一緒のクラスになった事がある人たちだ。中学は別々だから……会うのは久しぶりか?


「ねぇ煌人、今ヒマ?学校案内してよ」
「いや暇じゃないし、他の学校の人がここまで入るのはいけないと思うよ?」


冷静になって言うと、女子たちはムッとしたのか。

全員、合わせたように頬を膨らませる。


「えー煌人ってば真面目~」
「そうだよ、昔はもっとはっちゃけてたじゃん」

「(小学生の俺って、そんな目で見られてたのか……)」


恥ずかしい黒歴史を引っ張りだしかねない女子たちの背中を押して「はい行くよー」と運動場へ向かって歩く。ブーブー文句を言われ続けているけど、もうスルーしよう。俺も忙しいし。

すると、ちょうどそこへ、


「あ。煌人?」
「げ!?り、凛……!」


女子とイチャイチャして(いるように見え)る所を、運の悪いことに……

凜に見つかってしまった。


「煌人……」
「いや、ちげーんだよ!これは、」


必死で言い訳する俺を、凛はまるで「ゴミ」を見るような目で見ていた。

そして、俺の近くにいる女子達も「あの子は?」と、凜を見て首を傾げている。


「お、同じクラスの凛だよ」

「えー名前で呼んでるの~?じゃあ私たちの事も名前で呼んでよ」
「ねぇいいでしょ、煌人~?」

「いや、今はそれどころじゃないっていうか……!」


金輪際会わなさそうな奴らを、どうして名前で呼ばなきゃいけねーんだよ!

しかも、凛の目の前で!!


「ねー、煌人~」
「早く呼んでよ、煌人!」

「あっははは……」


ああーもう!
面倒だから、早くどっか行ってくれねぇかなぁ!


「(凛、助け、)」
「(……フッ)」
「(すごいダークな笑みをされた!?)」


俺がイライラしているのを知ってか知らずか……。

無表情で俺の事を見ていた凛は、急にしたり顔になって「ふっ」と笑った。


「(なにその笑み、不吉すぎるんですけど!?)」


すると、俺の予想は当たっているのか。凛は女子達に聞こえないように口パクで、「お・し・あ・わ・せ・に」と言って来た。

お幸せにって……俺が!?


「ちょ、ま!凛!」


お前抜きで俺が幸せになれると思ってんのかよ!!
くそ!絶対捕まえてやる!
逃がさねぇぞ!


「凛!」


すかっ


「え」


凛を捕まえようと必死に手を伸ばしたが、見事に空振りに終わる。

その間に、凛はサッと回れ右をして、女子に囲まれている俺を置いて一人運動場に戻って行った。


「(マジで置いてかれた!?)」


マジで!?
こういうのってさ、もっとさ……!

こう、なんか、ねーのかよ……。


「(女子に囲まれる俺を見て、お幸せにって捨て台詞。たったそれだけって……)」


凛に何かを期待してたわけじゃないけど……。さっき赤組のテントでは、男子からあんなに俺を庇ってくれたのに……。

そうだよ、凛。
こんなの、あんまりじゃねーか。
さっきは俺の味方してくれたじゃねーか。

今回も俺の味方をして、助けてくれたっていいだろ……。(意気地なし発言)


だけど女子達は、落ち込む俺に容赦はない。


「煌人~まずは校舎に入ってみようー!」と、俺を引っ張って無断で校舎に入ろうする。


「え、ちょ。それは待って、」


慌てた俺が、女子たちを止めようとした、

その時だった。

パシッと。
俺の手を握る「誰か」の手。


「え――」
「……」


その「誰か」は。

眉間にシワを寄せて、女子達を見ていた。
俺の手を掴んだまま。
俺の――を掴んだまま。

そして震える声で、静かに話し始める。


「お願いが、あるの……」


凛は、女子たちを真っすぐに見ながら言った。女子たちは「何この人」という感じで、迷惑そうに凛を見ている。

だけど――凛は怯まなかった。

俺を握るその小さな手が。カタカタと震えているのが、しっかりと俺に伝わっている。


「(凛……)」


お前は今、戦ってるんだな。「校舎に勝手に入るな」って、女子達にそう言いたいんだろ?

凛は真面目だもんな。大真面目だもんな。そんな凜が、この女子達を許すわけねぇよ。

なんて。
そんな事を考えていた俺。

だけど、次の瞬間。
凛の口から出て来た言葉は――


「煌人って、呼ばないで。

煌人って呼んでいいのは……私だけなの」

「っ!?」


今、なんて言った……?


「(凛が、俺の事を……また庇った?)」


しかも、最大級の庇い方で。
愛さえも感じる言い方で。


「(あの凜が?ウソだろ……?)」


俺が驚きで目を開き凜を見る、その間も。凛は女子たちに「負けまい」と、一歩も引かなった。カタカタ震える手で、一生懸命に俺を掴んでいる。

そして緊張で息が上がっているのを隠しながら、ひたむきに立ち続けていた。

その姿は――

俺の心に、これでもかというほど、深くささり決して抜けない。凛の魅力の深さに、俺がどんどんハマっている。

そんな気がして、ならなかった。
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