大嫌いなキミに愛をささやく日

またり鈴春

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私の本音2

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現在、泡音ちゃんはトイレ休憩。

本来なら、この辺で泡音ちゃんが「ストップ」と言うけど……彼女がいないんじゃ、どうにもならない。

この場の空気は、どんどん重くなっていった。


「今ここで。煌人を侮辱した事を謝って」

「はぁ?」
「なんで俺たちが」

「確かに煌人はムカつくし腹が立つし気に食わない。けどね……」


顔色悪くなるまで、家庭教師だとかピアノの練習とか。

煌人は陰で、色んな事をやってんのよ。私たちが知らない所で、煌人はいつも頑張ってるんだから。


「それ相応の努力を、煌人はいつも、人並み以上に時間をかけてやってんの。何も頑張ってない私たちが、頑張り屋の煌人にとやかく言える権利はないよ」


言い切ると、男子たちは黙っていた。

そして私も、夢から覚めたように「はっ」と我に返る。

どうしよう……。
せっかくの運動会なのに、水を差しちゃった……!


「と……」

「と?」
「と?」


「トイレ!!!!」

「トイレ!?」
「このタイミングでかよ!」
「俺らよりカッコ悪いー!」


私が男子の前から全速力で逃げた後。

テントの中は、再び悪口を言う男子のたまり場になる。

今度は主に、私の事で。


「なんだよ三田のやつ」
「正義のヒーローぶりやがってな」
「結局、鳳条を庇いたいだけなんだよなぁ」


と、男子たちが私の悪口を言う、その後ろで。


ザッ


なぜか現在リレーの競技者である煌人が、笑顔で立っていた。


「誰が、誰を。庇いたいんだって?」

「ひ!?」
「鳳条!?」
「なんで、今リレーじゃ……!?」


顔が青ざめる男子たちの肩をまとめて組んで、笑顔で問い詰める煌人。

その様子を、トイレから返って来た泡音ちゃんが、苦笑いで見ていた。


「鳳条くん、ほどほどにね」
「……悪いけど、泡音ちゃん」


今まで煌人はニコニコ笑っていたけど、急にピタリとやめる。

そして真剣な表情になり、声のトーンを低くした。


「凜の事でブレーキを掛けるの、
俺には無理だから」
「あらまぁ……」
「だから次に凜の悪口を言ったら――君ら俺とシュート勝負ね」


煌人のいきなりの言葉に、男子たちは「?」と首を傾げる。

すると煌人はニッと、挑発するような笑みを浮かべた。


「君らサッカー部なんでしょ?素人の俺よりも上手いはずだよね?それとも、俺に負けるのが怖いの?」

「な!」
「負けるワケねーよ!」
「俺らがどれだけ練習して、」


男子たちが言い終わらない内に「そっか」と。

煌人は太陽のような笑みで、ニカッと笑った。


「じゃあ、もし次があったらそういう事で。はい、約束」

「お、おう」
「仕方ねーな」
「ほら、約束」


煌人と男子たちは、グーパンでコツコツと、それぞれの拳を順番に当てていく。

何かの挨拶みたいに見えるけど、あれが彼らなりの「約束の仕方」らしい。


「じゃあ、この話はここまでね」
「(誰にもわだかまりを残さずに、この場を上手くまとめたってわけか。鳳条くんは)」


煌人のおかげで、何とか場が落ち着いたところで。

泡音ちゃんは「入場ゲート」に立っている係が、煌人の名前をひたすら連呼している事に気づく。


「ねぇ鳳条くん。次の借り物競争に出るんだっけ?すっごくお呼びがかかってるよ?」
「やっべ。忘れてた」
「はい、行った行った。凛は私が探しておくから」


泡音ちゃんが言うと、煌人が「いいよ」と言った。

フッと笑った時に、ゆるく風が吹いて……イケメンとの相乗効果で、さわやかさ抜群だ。


「俺が凜を探しに行くよ。今スゲー気分がいいんだ」
「それはいいけど……」


滅多に見ない煌人のルンルン顔に、泡音ちゃんの頬も緩む。


「まぁ好きな人に、あんな事を言われたんじゃ……。喜ぶなって言う方が無理か」


――確かに煌人はムカつくし腹が立つし気に食わない。けどね、

――それ相応の努力を、煌人はいつも、人並み以上に時間をかけてやってんの


泡音ちゃんにそう言われて、煌人もさっきの私の言葉を思い出したのか……。

へへと。
だらしない顔で、へにゃりと笑う。


「なぁ泡音ちゃん。俺って幸せ者すぎだろ?」
「(すぐ自意識過剰になる所が、鳳条くんの”残念”な所なんだけどなぁ)」


こういう場面で、もっとスマートに対応してれば、もっとカッコいいのに。

と泡音ちゃんは思う反面。
でも――と、日ごろの私を思い出す。


「凛は紳士な鳳条くんが嫌いって言ってたから、素直で残念な鳳条くんで問題ないか」
「その言葉に俺はどう反応したらいいの……じゃねーや、行かねーと」

「はいはい、頑張ってね~」
「おう、ありがとう。泡音ちゃん」


そう言い残し、選手が整列する場所へビュンと走って行った煌人。

泡音ちゃんは「結局、凛は誰が探すの?」と首を傾げていた。
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