大嫌いなキミに愛をささやく日

またり鈴春

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「凛、こっち向いて」
「ん?なに?」

「それで、目を瞑って」
「また目を瞑るの?なんで?」

「いーから」
「……」


いつか車の中でも言われた「目を瞑って」発言。

前も言ったけど、視界を遮られるのは、怖くて苦手。


「不安になるから、ヤダ」
「じゃあ、いいよ。そのままで」
「え――」


いいから――と。

そう言って、煌人は私の顔を両手で挟んだ。そっと、まるで壊れ物を扱うように。

「何するの?」と不思議に思っていると、二人の顔が互い違いに傾き、そして、だんだんと近づいていく。

近づけば近づくほど、煌人のすごく真剣な顔が……威圧感があるように見えて。私は何も抵抗が出来なくなって。ただギュッと、両手を強く握る事しか出来ない。


「あ、煌人、っ」
「黙って」
「っ!」


怖い――と。

そう思ってしまった、その時だった。


バンッ


「……」
「……え?煌人?」
「あ……っぶね」


いきなり。

煌人が、倉庫の壁を思い切り叩いた。
そして「はぁぁぁ……」と深い息をついている。


「煌人……大丈夫?」
「……」


何も言わないから、何かあったんじゃないかと心配する私。

だけど、当の本人は――
ボソリと、ある事を呟いた。


「たった今キスされそうになったってのに……俺の心配してんじゃねーよ」
「え、き?ん?」


ボソボソ言われると、何て言ってんのか分かんない。

だけど聞き返すと、なぜか煌人は怒るし。

もう。なんなの、一体!


「わけわかんないよ、煌人!熱で頭おかしくなったんじゃないの?」


冗談半分で言うと、煌人は熱で赤くなった顔を、更に赤くした。

そして眉間にシワを寄せて、怒った顔で私を見る。


「そーだよ!熱でフワフワしてる俺に、凜が優しくするからいけねーんだろ!襲うぞ!」
「!!!?」
「あー!!じゃなくて!!」


な、なんか……。
本人がすごい葛藤してるんだけど……。


「煌人?病院、いく……?」
「病院の前に、俺を一人にさせてくれ。そして頭を冷やさせて……」
「??」


熱が出てるから、こんな感じなの?
あれは放っておいて大丈夫なの……?

心配していると、煌人は深呼吸を数回した後。
「よし」と自分の頬をパンと叩いた。


「おい、凛」
「え。なに?」
「勘違いすんなよ。俺が凛を守るんだからな」
「ん?」
「……はぁ」


理解できなくて、頭をコテンと倒す。
すると、盛大に大きなため息をつかれた。

え、なんで。


「さっき……お前が俺を守るって言っただろ。
けど、ダメだ。それは俺が許さない。

俺に凜を守らせろ」

「っ!」
「あの日、あの駅で誓ったからな」
「(それって……)」


煌人が私を追いかけて、両親が眠る墓の最寄り駅まで来てくれた時の事……かな?


――どんな時でも、凛は俺が守る


すると。
私の勘は正解だったみたいで、煌人は私を見てニッと笑った。


「俺にその誓いを守らせて、凛。
絶対に、ここからお前を出してやるからな」
「……は、はいっ」


なぜか丁寧語で返事をしてしまったけど。

その時の煌人は、まるで王子様みたいにカッコよくて……薄暗い倉庫の中が、一瞬にして明るくなった気がした。


「だ、だけど、どうやって出るの?」
「んなの、簡単だって」


話を変えようと、煌人に脱出の方法を聞く。

すると、煌人は外に向かって、壁を数回ノックした。


「おい、いるんだろ。主(俺)が干からびるぞ。さっさと助けろ」
「おや、バレてましたか」
「(この声……執事さん!?)」


どうやら執事さんは、煌人専属の執事だけあって。

学校での煌人にも、目を光らせているらしい。

それなら……煌人がココに閉じ込められたのも、当然、知ってるよね。


「(って!それなら早く外に出してよ!執事さん!!)」


その後――


いつものように「お怪我はなかったですか?レディ」なんて聞かれた私。

だけど、いるならいるで早く助けてほしかったから、プーッと膨れっ面のみで返した。

すると……


「おやおや、つぼみがつきましたね。愛らしい。煌人様に代わって、私が美しい花を咲かせましょうか?」
「えっ!?い、いや、結構です……っ」

「おい。俺がここにいるって、分かってるよな?」
「はい、もちろんですよ煌人様」

「じゃあ行動を慎めよ!」
「はいはい」


煌人の小言を聞きながら、執事さんは煌人のおでこに冷たい物を張ったりだとか、すぐに体温計を測ったりだとか煌人の体調を把握するのに、とにかく余念がなかった。

そして、やっぱり高熱が出ていると判明し、すぐに家に帰る。

だけど帰り際に……


「そう言えば、凛様。明日は運動会ですね」
「はい、そうですね。煌人の晴れ舞台……だけど、大丈夫でしょうか」


執事さんの背中に負われて、熱でぐったりしている煌人。

だけど、執事さんはニコリと笑って「明日には元気にします」と言い切った。

します……って。
これから煌人の身に何が起こるのか。

想像すると恐ろしくなって、顔を青くした私。

すると執事さんは「そうそう」と言いながら、人差し指を自身の口元に持って行った。


「明日は煌人様のお父様とお母様もいらっしゃるんですよ」
「え、煌人のご両親が?」
「はい。お二人共、煌人様のご活躍を、とても楽しみにしていらっしゃるんですよ」
「(そっか、初めてお会いするなぁ)」


煌人はご両親を嫌っているようだけど……あれから仲良く出来てるのかな?

あの後、煌人がバタバタ忙しく過ごしてたから、聞く暇なかったな。


そう考えていると、執事さんが「凛様」と、また私を呼ぶ。

そして、何を言うかと思えば、


「明日は煌人様の事、頼みますね」


ただ、それだけの言葉を残し、執事さんと煌人は帰って行った。


「なんだか意味深な発言に思えたのは……気のせい?」


それに。
煌人様の事を頼みます――って。
どういう意味なんだろう?

二人の後ろ姿を見ながら、漠然と思った疑問。


だけど、まさか。

この疑問が、まさに運動会当日に解消されるなんて。

私は思ってもみなかったのだった――
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