大嫌いなキミに愛をささやく日

またり鈴春

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「暑い……っ」


ずっと煌人に抱きしめられた状態で、いつまでこのままでいればいいの……!?

倉庫の中って、ただでさえ熱気でムンムンしてるのに……

それ以上に、体温も心拍数も上がっちゃって……っ。


「おい凛、大丈夫か?」
「あ、煌人……。なんか、やたらと余裕っぽいの……なんで?」
「俺からしたら、何でお前がそんなに汗かいてんだよって話だよ。今が普通の温度くらいだろ?」
「!?」


いや、それはおかしいから!

夏直前の、太陽がジリジリ照ってるこの季節に!

こんな狭い倉庫に閉じ込められて、暑くないわけないじゃん!


「ちょっと待って煌人!顔が真っ赤だよ!?」
「あ?真っ赤なのか?俺」
「なに強がってんのよ、バカ!」


こんな状態なのに。

しかも、
私と煌人の仲でしょ!?


「しんどい時くらい、しんどいって言ってよ!」
「いや、俺は自分がしんどいとは気づかなかったんだけど……」
「気づいてよ!それで私に話してよ!
だから私も、さっき……っ」


――煌人が、心配で……


ありのままの自分で、素直になろうって思って。だからあぁ言ったのに――と。

思わず出そうになった言葉を飲み込む。


やめよう。


この話題をほじくり返すのは、ダメだ。

煌人がしんどい思いをしてる、こんな時に話す事じゃない。


すると煌人が「……そうだな」と。

私の肩に、自分の頭を置いた。


「煌人、あっつ……!」


私の肩に伝わる、アツい熱。
それは、煌人のオデコから。


「熱あるじゃん、煌人……」
「あ?ねーよ。ピンピンしてんだろ」
「だから、強がらないで!」


目を見ながらビシッと言うと、煌人は一瞬怯んだ。

かと思えば「……しんどい」と。

熱い息を、長く吐く。


「寒気がする……。全身が痛ぇ」
「(悪寒に関節痛って……。熱が出てる時の症状じゃん……)」


やっぱり、煌人はめちゃくちゃ調子が悪かったんだ。

なのに全体練習なんかに参加して、大きな旗を持って……。


「バカじゃないの?何やってんの……!」
「……うるせぇ。頭に響くから大声出すな」


煌人は、声色からして弱っている。

助けてあげたい。

というか、すぐにでも横にならないと煌人が死んじゃいそうで……すごく怖い。


「(助けを呼ばなくちゃ!)」


ここから出ないと、煌人はしんどくなるばかりだ。

なら――と。
出来る限り手を振って、思い切りドアを叩く。


「誰か!誰か助けてー!!」
「だから大声出すなって……」
「でも、このまま大人しくなんて――無理!」


そう言うと煌人は、一瞬だけ目を開いた。

そして、眉を八の字にして弱々しく笑う。


「凛……バカだなぁ。お前」
「こんな時に笑わないでよ」
「笑うくらい許せよ……」


煌人の息が荒くなってきた。

煌人が、私の目の前で、どんどん弱くなっていってるようで……。

今まで出ていた私の汗が、一気に冷えたものに変わる。


「煌人……っ」
「おわっ」


むぎゅっ


私は煌人を思い切り抱きしめ、そして頭を撫でた。

煌人は目に見えるほど「?」マークを頭に浮かべていて……


「何、してんだよ……?」


素っ頓狂な声で、そう聞いた。


「守ってるの」
「守る?俺を?」
「そう……っ」


ぎゅっ


と更に強く抱きしめれば「お前のせいでお花畑が見えそうだ」と。更に顔色を悪くした煌人に言われた。

しまった、やりすぎた……!


「煌人、その……助けは来るから!だから気をしっかり持って!」
「なぁ凛、俺たちは別に遭難してるわけじゃねんだぞ?」
「っぽいことになってるじゃん!」
「……」


すると煌人は、ぱったりと何も喋らなくなってしまう。

か、勝ったのかな……?私
(何に勝ったのかは分からないけど)。


まるで赤ちゃんをあやすように、煌人の背中をポンポンと叩く。

こうしてると……
最初の頃が、何だかウソみたい。


「(私を勉強で負かした相手・煌人を、私はずっと嫌ってたはずなのに……)」


だけど自分が嫌われていると知りながらも、煌人は私に近づいた。

誰よりも、近くに。


――俺がお前を好きって言ったら、どうする?
――お前を迎えに来たんだ、凛
――凜、今だけ俺に吐き出して見ろよ
――まずはぶつかれよ、本当の親子みたいにさ


私に真っすぐ、迷いなくぶつかって来てくれた煌人。

その煌人のおかげで、私は少しずつ変われてる気がする。


「(煌人、ありがとう)」


あなたがいてくれて、
私を好きになってくれて、

本当に良かった。


「煌人……」


キュッ、と。
煌人を優しく抱きしめた。

すると煌人は――


プツン


何かが音を立てて崩れた。

そして、その瞬間から。


「じゃあこれから――
彼氏彼女っぽいこと、しよっか」


煌人は、その人柄をガラリと変える。
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