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君に揺れる4
しおりを挟むその後。
電車で私の家まで帰る道中。
煌人は、ふと、こんな質問をした。
「そういやさ、どうして凜は、そんなに勉強を頑張ってんだよ?」
「それは……」
昔を思い出す。
あれは、お父さんとお母さんがいなくなって、まだ間もない頃だった。
私に生きる力を与えようと、今のお父さんが私に言った言葉。
それが――
「”ただ一つでいい。他の人に誇れる事を手に入れるんだよ”って。そう言われてて」
「ふぅん?」
「だから勉強で一番になれたら誇らしいなって……そう思ったの。だから、小学校からすごく必死だったよ」
誰かさんがアッサリ抜いてくれたけど――。
煌人を見ながら、恨みを込めて言った。
だけど。
煌人が私を負かしてくれて、良かったのかもしれない――って。
今なら、そう思う。
煌人が私を負かしてくれたから、私は煌人を意識した。
話をするようになった。本音でぶつかるようになった。
だからこそ、私は自分のプライドの高さを直そうと思った。
ありのままの自分を見せて、素直になりたいって。
煌人に負けなかったら、煌人と会わなかったら。
そんな事、きっと考えもしなかったと思う。
「煌人に勉強で負けた時は悔しかったけど、」
負ける経験をするのも大事なんだって、気づくことが出来た。
だから、ありがとう煌人。
あなたには、感謝してる。
そう思って煌人を見ると、彼は申し訳なさそうな顔をしていた。
どうやら、私が怒っていると勘違いしてるみたい。
「勉強のこと……悪かったって」
「いいの。それはいずれ私が抜き返すから……それより」
「それより?」
煌人が私の前に来る。
私は、煌人の顔を見るのではなく、首のあたりを見た。
直接顔を見るのは恥ずかしくて、照れくさい。
「今までの勉強の事ばかりしてたから、恋愛の事がからっきしで……。だから、まだ煌人へ返事ができないの。ごめんね」
「……」
「……煌人?」
すると煌人は、顔を赤くして「そーかよ」と言った。
何か怒ってるのかと思ったけど……
「正直、なかった事にされたのかと思ったから……。覚えててくれただけ嬉しい。
だから、いーよ。返事がいつになっても、俺は待つから」
「煌人……」
「それにプロポーズもしちゃったしな」
「あ、あれは有効なの……っ?」
「当たり前だろー」
ブーと膨れっ面をする煌人が、どこか可愛くて。プロポーズなんて大それた言葉を前に、へにゃりと笑ってしまう。
そんな私に、煌人は背中を丸めて、顔を近づけた。
「忘れるなよ。俺はいつも――
本気で凜の事を思ってるからな」
「っ!」
いつにない、素直な煌人に……ドキッとした。
私の顔、さっきみたいに赤くなってないよね?
「(ってか顔だけじゃなくて、全身が熱い……っ)」
窓に反射させて自分の顔を確認する。汗、流れてないかな?
すると、バチッと。
煌人と目が合った。
「へ?」
「え?」
お互い、このタイミングで目が合うとは思わなくって……
「わ、悪い!」
「私、こそ……っ」
お互い微妙な反応をして、背を向け合った。
だけど、次の瞬間――
キキキ―
電車がすごい音を立てて、ブレーキを踏んだ。
「わっ」
あまり電車に慣れてない私は、思わずこけそうになってしまう。そんな私を、グイッと煌人の手が、強く引っ張った。
そして、
ポスッ
「おま、危なっかしいなぁ、もう……」
「ご、ごめん……?」
いつの間にか、煌人に抱きしめられていた。
その間、私の心臓はやっぱりドキドキと鳴っていて。窓を見なくても、自分の顔が真っ赤だと気づいてしまう。
「(これは、お父さんに相談してもいい事……なのかな?)」
照れや恥ずかしさも、まるまる曝け出していいんだろうか?
「誰かに話したい」と思った事を、お父さんに全て言いたい。
聞いてもらいたいって、今ならそう思う。
「(だから煌人の事も、話していいんだよね?)」
でも……やっぱり煌人の身が心配になるからやめておこうかな。
「ウチの娘を取るなー!」とか言って、お父さんが暴れそうだし……。
「……ふふっ」
「お?どした?」
ニコッと笑ってくれる煌人。
私は身じろぎしながら、モゾモゾと。
そう言えば煌人に抱きしめられたままだった事を思い出して、腕の中から逃げる。
「ふぅ、暑かった……」
「おい、お前なぁ」
「でも……」
「?」
この時、ふと。
予行演習をしたいなって思った。
本音を言う、予行演習。
たまには、ね。
自分の気持ちに、素直になろう。
「さっきの煌人には、すごくドキドキした……」
「っ!」
へへと、笑っている私と、顔を赤くして目を点にしている煌人。
「お前……その不意打ちは、ズルすぎるって……っ」
「ふ、不意打ちってなに……」
「いや、もういい。何もかも、もういい」
そう言いながら、寒いときに両手を温めるみたいに。
煌人は口を両手で隠す。
そして「あー」と声を漏らした。
「なに?煌人」
「……なぁ凛さ」
「うん?」
煌人は口に手をやったまま、目だけをチラリと私に寄こす。
そして、
「”好き”ってまた言ったら……呆れる?」
「……」
そんな事を言った。
「(いつもなら”ウザい”で返す。だけど……)」
煌人のキラキラして私を欲しがるような目に、応えたいと思った。
「呆れない……から、」
「から?」
「もっと言ってもいいよ、煌人」
「!」
「ズルすぎるだろ」と、今度は、顔全体を手で覆った煌人。
私も自分で言った事だけど恥ずかしくなって……煌人から目を逸らす。
そんなちぐはぐな二人を乗せた電車は、ちょうど私の降車駅についた。
煌人が降りる駅は……もう一つ後だよね?
「じゃ、じゃあね煌人。今日はありがとう」
「いや待て!送ってくから、」
「ううん。お父さんが迎えに来てくれてるの」
すると煌人は、私に伸ばした手を引っ込める。
「そっか」と言って、優しい笑顔でほほ笑んだ。
「気張らずに、いつもの凜でな」
「うん」
その言葉を交わし、ドアはプシューと音を立てて閉まる。
私が見えなくなるその時まで、煌人は私は見つめてくれていた。
「ありがとう、煌人」
そして私は、お父さんのいるホームへと足を進める。
その足取りはとても軽くて……
何から話そうかな、なんて。
そんな事を、笑顔で考えていた。
一方、その頃――
プルルル
「父さん母さん、俺。煌人。忙しい中悪いんだけど、ちょっと時間を作ってほしい。二人に話したいことがあるんだ――」
私と別れた後、目的の駅で降りて、いつもの執事さんの車に乗った煌人。
真剣な顔で話す彼の顔を、執事さんがただ静かに、運転しながらミラー越しに煌人を覗き見ていたのだった。
*おまけ*
その頃の泡音ちゃん。
「誰からも電話こないんですけどー!
結局、凛は見つかったのー!?鳳条くーん!!」
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