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君に揺れる
しおりを挟むその頃。
泡音ちゃんが私の心配をしてくれてるなんて、微塵も知らなかった私は――
「お父さんお母さんの所まで、もう少しなのになぁ」
両親のお墓に一番近い駅の、ホームにある長椅子に座っていた。
もう夕方。
さっきまで学生が駅にたくさんいたけど、ラッシュが過ぎたのか閑散としている。
「この駅から20分歩けば、お父さんとお母さんの所に行けるのに」
なんで、ここに来たのか分からない。
気づいたら、この駅まで来ていた。
財布とスマホだけ持って。
「鞄もないって……どういう事よ、私」
こんな私、信じられない。
いつもなら、家に帰ってる時間だ。
お父さんに「そろそろ家に着くよ」とかメールを打ちながら。
「帰るの遅くなりそう。メール……しようかな」
そう思って、スマホをポケットから出した時だった。
「お、可愛い子いんじゃん♪」
「俺らとどっか行くー?」
「……」
すごく面倒くさそうな不良たちに、声を掛けられてしまった。
「私、これから行く所があるので」
「えー、どこ行くの?」
「墓参りです」
「……」
正直に言うと、不良たちは「プーッ」と吹き出して笑った。
もう爆笑に近い笑い方で、ひたすら「墓参り」と連呼している。
「今までナンパを断られてきた事はあったけど、は、墓参りだってよ!」
「おい笑うなよ!可愛い子ちゃんが泣きそうだぞ!」
「いや、別に泣きそうなんかじゃ……」
と思った、その時だった。
バサッと、私の頭に、何やら痛い物がのしかかる。だけど仄かにいい匂いがしてきて……。
深呼吸をすると、良い匂いが、私の体の中をグルリと回る。すると、体の中の悪いモノが、吹き飛んで行くような気がした。
良い気持ち……
「じゃなくて、なんか痛い!そして重い!
ちょっと誰なん、」
誰なんですか――と、そう言おうとした時。
「え」
驚くことに、私の目の前に、バラの花束を持った煌人が立っていた。
椅子に座る私を守るように、私に背を向けて、不良に立ち向かってくれている。
「あ、煌人……?」
「ん。遅れてごめん」
「遅れてって……」
そもそも約束なんてしてないけど――
という言葉を最後まで言わせてくれなかった煌人。
恐れを知らないのか、不良相手に満面の笑みで近づいていく。
「俺がこのままあなた方をホームから落としてもいいのですが、いいんですか?もう電車来ますよ?それに、困りましたね。ここの駅は古くて監視カメラもないみたいで……もしも今落ちたら、あなた方はきっと自殺扱いになるでしょうねぇ」
「は!?」
「何言ってんだ、コイツ!?」
「早めに手を打っておかれる方が良いと思いますが、どうされますか?あぁ、すみません。それ以前に、彼女は俺のものなので――
今後一切、話かけんじゃねーぞ」
たったそれだけの言葉なのに、不良たちは「ひいい」と言って逃げてしまった。
煌人は得意げに「ふん」と言ってるけど……今の煌人の何が怖かったんだろう。
ポカンとしていると、煌人がスマホを耳にやり、どこかへ電話をする。
「もういいぞ。誰かに見つかる前に物騒なもんしまっとけ」と。
「(まさか……私の見えない場所から、執事さんが物騒なもんをチラチラ見せて不良たちを脅したの!?)」
ゲスイ!
卑怯!!
その言葉たちは、私の口から出ていたみたいで……
「お前なぁ」と煌人が呆れながら、私に振り向いた。
「ケンカするよりマシだろ」
「そうだけど……無謀すぎる」
「ここまで無計画で来た鉄砲娘に言われたかねーわ」
「……」
確かに。
私もさっき、自分の無計画さを反省していた所だった。
「な、なんでここにいるの?まさか私を探しに?」
なわけないよね。こんな無名の駅。
と思っていると、まさかの「そうだよ」の返事。
「え」
「お前を迎えに来たんだ、凛」
煌人はバラの花束を、私の横の空いたスペースに置いて、そして――
私を包み込んで、抱きしめた。
「心配かけんじゃねーよ、バカ」
「あき、と……」
ギュッと、優しく。
だけど、強く。
複雑な強弱のつけ方で、煌人は私を不器用に抱きしめた。
「っ!」
煌人とこんな近い距離……恥ずかしい。
そう言えば、抱きしめられるのって、車の中で以来……かな。
っていうか、待って。
心の準備が……っ!
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