大嫌いなキミに愛をささやく日

またり鈴春

文字の大きさ
上 下
23 / 40

君に揺れる

しおりを挟む

その頃。

泡音ちゃんが私の心配をしてくれてるなんて、微塵も知らなかった私は――


「お父さんお母さんの所まで、もう少しなのになぁ」


両親のお墓に一番近い駅の、ホームにある長椅子に座っていた。

もう夕方。
さっきまで学生が駅にたくさんいたけど、ラッシュが過ぎたのか閑散としている。


「この駅から20分歩けば、お父さんとお母さんの所に行けるのに」


なんで、ここに来たのか分からない。
気づいたら、この駅まで来ていた。
財布とスマホだけ持って。


「鞄もないって……どういう事よ、私」



こんな私、信じられない。
いつもなら、家に帰ってる時間だ。
お父さんに「そろそろ家に着くよ」とかメールを打ちながら。


「帰るの遅くなりそう。メール……しようかな」


そう思って、スマホをポケットから出した時だった。


「お、可愛い子いんじゃん♪」
「俺らとどっか行くー?」

「……」


すごく面倒くさそうな不良たちに、声を掛けられてしまった。


「私、これから行く所があるので」
「えー、どこ行くの?」

「墓参りです」
「……」


正直に言うと、不良たちは「プーッ」と吹き出して笑った。

もう爆笑に近い笑い方で、ひたすら「墓参り」と連呼している。


「今までナンパを断られてきた事はあったけど、は、墓参りだってよ!」
「おい笑うなよ!可愛い子ちゃんが泣きそうだぞ!」

「いや、別に泣きそうなんかじゃ……」


と思った、その時だった。


バサッと、私の頭に、何やら痛い物がのしかかる。だけど仄かにいい匂いがしてきて……。

深呼吸をすると、良い匂いが、私の体の中をグルリと回る。すると、体の中の悪いモノが、吹き飛んで行くような気がした。

良い気持ち……


「じゃなくて、なんか痛い!そして重い!

ちょっと誰なん、」


誰なんですか――と、そう言おうとした時。


「え」


驚くことに、私の目の前に、バラの花束を持った煌人が立っていた。

椅子に座る私を守るように、私に背を向けて、不良に立ち向かってくれている。


「あ、煌人……?」
「ん。遅れてごめん」
「遅れてって……」


そもそも約束なんてしてないけど――


という言葉を最後まで言わせてくれなかった煌人。

恐れを知らないのか、不良相手に満面の笑みで近づいていく。


「俺がこのままあなた方をホームから落としてもいいのですが、いいんですか?もう電車来ますよ?それに、困りましたね。ここの駅は古くて監視カメラもないみたいで……もしも今落ちたら、あなた方はきっと自殺扱いになるでしょうねぇ」

「は!?」
「何言ってんだ、コイツ!?」

「早めに手を打っておかれる方が良いと思いますが、どうされますか?あぁ、すみません。それ以前に、彼女は俺のものなので――

今後一切、話かけんじゃねーぞ」


たったそれだけの言葉なのに、不良たちは「ひいい」と言って逃げてしまった。

煌人は得意げに「ふん」と言ってるけど……今の煌人の何が怖かったんだろう。


ポカンとしていると、煌人がスマホを耳にやり、どこかへ電話をする。

「もういいぞ。誰かに見つかる前に物騒なもんしまっとけ」と。


「(まさか……私の見えない場所から、執事さんが物騒なもんをチラチラ見せて不良たちを脅したの!?)」


ゲスイ!
卑怯!!

その言葉たちは、私の口から出ていたみたいで……

「お前なぁ」と煌人が呆れながら、私に振り向いた。


「ケンカするよりマシだろ」
「そうだけど……無謀すぎる」
「ここまで無計画で来た鉄砲娘に言われたかねーわ」
「……」


確かに。
私もさっき、自分の無計画さを反省していた所だった。


「な、なんでここにいるの?まさか私を探しに?」


なわけないよね。こんな無名の駅。

と思っていると、まさかの「そうだよ」の返事。


「え」
「お前を迎えに来たんだ、凛」


煌人はバラの花束を、私の横の空いたスペースに置いて、そして――

私を包み込んで、抱きしめた。


「心配かけんじゃねーよ、バカ」
「あき、と……」


ギュッと、優しく。
だけど、強く。

複雑な強弱のつけ方で、煌人は私を不器用に抱きしめた。


「っ!」


煌人とこんな近い距離……恥ずかしい。

そう言えば、抱きしめられるのって、車の中で以来……かな。


っていうか、待って。
心の準備が……っ!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

王女様は美しくわらいました

トネリコ
児童書・童話
   無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。  それはそれは美しい笑みでした。  「お前程の悪女はおるまいよ」  王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。  きたいの悪女は処刑されました 解説版

【完結】月夜のお茶会

佐倉穂波
児童書・童話
 数年に一度開催される「太陽と月の式典」。太陽の国のお姫様ルルは、招待状をもらい月の国で開かれる式典に赴きました。 第2回きずな児童書大賞にエントリーしました。宜しくお願いします。

【完結】アシュリンと魔法の絵本

秋月一花
児童書・童話
 田舎でくらしていたアシュリンは、家の掃除の手伝いをしている最中、なにかに呼ばれた気がして、使い魔の黒猫ノワールと一緒に地下へ向かう。  地下にはいろいろなものが置いてあり、アシュリンのもとにビュンっとなにかが飛んできた。  ぶつかることはなく、おそるおそる目を開けるとそこには本がぷかぷかと浮いていた。 「ほ、本がかってにうごいてるー!」 『ああ、やっと私のご主人さまにあえた! さぁあぁ、私とともに旅立とうではありませんか!』  と、アシュリンを旅に誘う。  どういうこと? とノワールに聞くと「説明するから、家族のもとにいこうか」と彼女をリビングにつれていった。  魔法の絵本を手に入れたアシュリンは、フォーサイス家の掟で旅立つことに。  アシュリンの夢と希望の冒険が、いま始まる! ※ほのぼの~ほんわかしたファンタジーです。 ※この小説は7万字完結予定の中編です。 ※表紙はあさぎ かな先生にいただいたファンアートです。

推しにおされて、すすむ恋

またり鈴春
児童書・童話
有名な動画配信グループ ≪Neo‐Flash≫ そのメンバーの一人が、私の姉 なんだけど… 「少しの間、私と入れ替わって!」 急きょ、姉の代わりを務めることに!? ≪Neo‐Flash≫メンバー ┈┈┈┈┈┈✦ ①ノア(綾瀬 玲) 「君、ステラじゃないよね?」 ②ヤタカ(森 武流) 「お泊り合宿の動画を撮るぞー」 ③リムチー(乙瀬 莉斗) 「楽しみだね、ステラ!」 ④ステラ(表&姉➤小鈴つむぎ、裏&妹➤ゆの) 「(ひぇええ……!)」 ✦┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ でも姉の代わりを頑張ろうとした矢先 なぜかノアにバレちゃった…! 「俺以外の奴らに、その顔は禁止」 「ゆのを知るのは、俺だけってことで」 密かに推していたノアの 裏の顔や私生活が見られるだけじゃなく お泊まりなんて… もう、キャパオーバーですっ!

かつて聖女は悪女と呼ばれていた

楪巴 (ゆずりは)
児童書・童話
「別に計算していたわけではないのよ」 この聖女、悪女よりもタチが悪い!? 悪魔の力で聖女に成り代わった悪女は、思い知ることになる。聖女がいかに優秀であったのかを――!! 聖女が華麗にざまぁします♪ ※ エブリスタさんの妄コン『変身』にて、大賞をいただきました……!!✨ ※ 悪女視点と聖女視点があります。 ※ 表紙絵は親友の朝美智晴さまに描いていただきました♪

氷鬼司のあやかし退治

桜桃-サクランボ-
児童書・童話
 日々、あやかしに追いかけられてしまう女子中学生、神崎詩織(かんざきしおり)。  氷鬼家の跡取りであり、天才と周りが認めているほどの実力がある男子中学生の氷鬼司(ひょうきつかさ)は、まだ、詩織が小さかった頃、あやかしに追いかけられていた時、顔に狐の面をつけ助けた。  これからは僕が君を守るよと、その時に約束する。  二人は一年くらいで別れることになってしまったが、二人が中学生になり再開。だが、詩織は自身を助けてくれた男の子が司とは知らない。  それでも、司はあやかしに追いかけられ続けている詩織を守る。  そんな時、カラス天狗が現れ、二人は命の危険にさらされてしまった。  狐面を付けた司を見た詩織は、過去の男の子の面影と重なる。  過去の約束は、二人をつなぎ止める素敵な約束。この約束が果たされた時、二人の想いはきっとつながる。  一人ぼっちだった詩織と、他人に興味なく冷たいと言われている司が繰り広げる、和風現代ファンタジーここに開幕!!

処理中です...