大嫌いなキミに愛をささやく日

またり鈴春

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すれ違う溺愛2

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私がお父さんに悩み相談した、翌日。

下校中の煌人の前に、なぜかお父さんが立ちふさがった。


「やぁ鳳条くん。お久しぶり」
「……どうも」


スッと目を逸らした煌人を見て、お父さんは鼻から少しずつ息を吐いた。

スーッと。
まるで自分を落ち着かせるように。


だけど、そう思う裏腹に、言葉を聞く限りは、確実に落ち着いていなくて。

しかし、そうなったお父さんを誰も止める人がいない今――

この場は、煌人とお父さんのバトル会場になってしまう。


「ちょっといい?」
「話す事は何も、」
「凜のことで――と言っても?」
「……」


すると煌人は、そう言われるのを分かっていたように。

罰の悪そうな顔で「なんですか」と小さく呟いた。


「最近あの子が塞ぎこんでいてね。どうやら原因は君にあるらしい」
「俺?」
「思い当たる行動があるんじゃないの?」
「……」


黙りこくった煌人を見て、お父さんはため息をつく。

そして空いていた距離を、少しずつ詰めた。


「凜に、何かよからぬ感情を抱いているね?」
「よからぬって……言い方を変えてくださいよ」


だけどお父さんは「いいや」と首を振る。


「言い方は一つ。よからぬ事――それだけだよ」
「……」
「今、君の中にある気持ちは何かな?」
「……」


再び黙った煌人に、お父さんは「ヤレヤレ」とメモ帳を出し、何やら書いている。


「何ですか?それ……」
「これ?煌人くん観察用メモだよ。ご両親に提出するようになってるんだ」
「!!」


お父さんの言葉を聞いて、煌人は瞳をカッと開いた。

そして、お父さんの持っていたメモを、バシッと叩き落す。


「だから……そういうのがイヤなんだって!

俺の両親は、俺を間違った方向で溺愛する。片や、凛のご両親は他界していて、溺愛してもらいたくても二度としてもらえない……。

それを考えると、クソっ腹がたつんですよ……
俺のふがいなさと、凛への申し訳なさで!!」


はぁはぁ、と肩で息をする煌人。
そして、そんな煌人を見るお父さん。

お父さんは優しいけど、こういう場で「そうか君も辛かったんだね」と言う人ではない。

むしろ――


「つまり君は、凛を哀れんでいるという事かな?」
「!!」


容赦なく、相手を責めたてる人だ。


「違います。俺は、」
「今、煌人くんが言っているのは――そういう事だよ」
「っ!」


眉を顰めた煌人を、お父さんは無表情で見つめた。

その瞳の奥には……少しの怒りが混じっている。


「”凛のご両親は他界していて溺愛してもらいたくても二度としてもらえない”……それは全く持ってその通りだよ。だけどね、その愛を必死で埋めようとしている俺の事を、何も知らない煌人くんに悪く言われる筋合いはない」
「わ、悪くなんて、」
「違わない。君はついさっき、俺をバカにしたんだ。そして、ずっと凜を哀れみ続けている。そんな事を、凜が望むと思う?
あの日、俺は君に言ったはずだよ」


――凜を守ろうとしてくれて、本当にありがとう。凜は不安とか相談を誰にも言わない癖があるから……父親である俺にもね。だから、煌人くんが色々勘付いて先読みしてくれると、あの子も助かると思うんだ


「それなのに、君が凜を不安にしてどうするの?」
「……っ」


煌人はギリリと奥歯を噛み締めた。

そんな煌人にさえも、お父さんは容赦がない。


「君は、誰が一番不幸なのか競争でもしてるのかな?」
「……な、なわけないでしょ。でも、」


でも――と言った煌人の頬を。
お父さんはパンッと、両手で力強く挟んだ。


「な!なにす、」
「行き場のない怒りを凛に向けるな。それは、ご両親に向けるものだろ?

凛に甘えるな。

言いたいことがあるなら、ご両親に直接言えよ。この若造が」

「!」


ガラッと変わった雰囲気に、圧倒される煌人。

お父さんは、自分に少し恐れをなした煌人を察したのか。

不敵な笑みで、まるで挑発するようにニヤリと笑った。


「こんな腑抜けたヤツに、ウチの大事な愛娘をやすやすと差し出すわけにはいかないな」
「~っ!」


煌人が顔を赤くして、恥ずかしさから逃げ出したい衝動にかられた、

その時だった。

プルルル――煌人のスマホが、電話の着信を告げる。

相手は、なんと泡音ちゃん。


「えと、」
「出ていいよ」
「……すいません」


煌人はお父さんに背を向けて、通話ボタンをタップする。そして「煌人だけど」と、沈んだ声で電話に出た。

すると、静かな声の煌人とは正反対の――珍しく焦っている泡音ちゃんの声が聞こえた。


『鳳条くん!?そっちに凛はいる!?』
「凛?いや、いないけど……何かあったの?」
『いなくなったの!筆箱もカバンもそのままで、帰ってくるのかと思えば帰ってこないし、学校中探してもいないし……。もしかしたら煌人くんの所に行ってるんじゃないかって思ったけど、』
「凜が……いなくなった……?」

「!」


するとお父さんが目にもとまらぬ速さで、煌人からスマホを奪う。

そして「もしもし凜がいつもお世話になってます。凜の父親です」と挨拶した。

電話の向こうで、驚いた泡音ちゃんの声が、スマホから漏れる。


「凛の行きそうな場所なら検討つくから心配しないでね。鳳条くんもいるし。あとはこっちに任せて、君は家に帰った方が良いよ。

心配してくれてありがとう。凛と合流したら、鳳条くんから君にメールを入れてもらうから。それまで待っててね」


そうして、ピッと電話を切るお父さん。

隣では、煌人が「凜の行きそうな場所って」と頭をひねっていた。


「鳳条くん、俺が今から地図を送るから、アドレス教えて。俺はここに残る」
「……俺が一人で行って、いいんですか?」


さっき真さんにヒドイ事を言いました――

と正直に反省する煌人を見て、お父さんはまだ小さな煌人の肩に、手を置いた。


「正直……こんな小童(こわっぱ)に愛娘を頼みたくないよ。だけど、同じ年齢だからこそ、分かり合えるものがあるだろう?」


それは、大人である俺が立ち入れない領域だったりするし――とお父さん。


「凜はとても素直で良い子だけど……俺に全てを預けてるわけじゃないしね」
「どういう……」
「完璧にご両親の代わりになるのは難しいって、そういう事だよ」
「!」


いつも自信満々な顔をしているお父さんの、少し気弱そうな笑顔。

それは、どこか少し悲しそうにも見えた。


「だからね、癪(しゃく)だけど……君一人でいきなさい。そして凛に会って、しかるべき事をするんだよ」
「しかるべき事……」
「なぜ凛がいなくなったのか、なぜ凛はその目的地を目指したのか――
その目で耳で、凛の全てを救っておいで」
「……」


救う――


それは、大げさな言葉に思えたし。
自分ひとりには、重すぎる言葉にも思えた。

だけど煌人は一切の迷いなく、力強く頷いてみせる。

そして――


「俺が必ず連れて帰ります」


ためらいなく言い切った煌人の顔を見て、お父さんも頷いた。

そして煌人の連絡先に、とある地図を送るのだった。
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