大嫌いなキミに愛をささやく日

またり鈴春

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すれ違う溺愛

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「煌人、どうしたの?」

「……んー何でも」

「(また上の空だ)」



この前、私をつけていたストーカーが捕まった。

それを教えてくれたのは煌人。



『もう心配すんな。ストーカーは捕まったから』

『え、なんで知って、』

『お前の事なら何でもわかる……はずだったけどな。真さんが捕まえたよ』

『お父さんが!?』

『そーだよ。カッコよかったぞ、お前のお父さん』



と、弱々しく笑う煌人。

変なの、と思って家でその話をすると、お父さんは「自分の功績にしなかったのか。俺に借りを作りたくないのかな?」と含み笑いで答えた。

訳が分からないなーと思っていたけど……

それ以上に、最近の煌人は、訳が分からない。



「ねぇ泡音ちゃん。最近の煌人って変だよね?」
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「変って言うか、もぬけの殻だよね?」

「もぬけの殻……確かに」



煌人は、あの日以来どこかおかしくて。

前は散々に私の後をついてきたり、ちょっかいを出したりしていたのに、今では全然。

まるでケンカしていた時みたいに、私に寄りつかない。



「私なんかしたかなぁ……」

「凛の事を避けてるよね?」

「やっぱり?」

「うん。しかも、すごく気まずそうに避けてる」

「う~ん……」



全然、心当たりがない。

私に非はないと分かっているんだけど、家で煌人から貰ったクッキーを食べる時に、必ず煌人の事を思い出しちゃって……。

ずっとモヤモヤしてる。



――そのクッキーを食べてる間は俺のこと思い出して



「煌人があんなことを言うから……」
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私は毎晩毎晩。

クッキーを食べている時、煌人の事を思い出してしまう。

だけど肝心の煌人と言えば、どこか上の空。

しかも、私を見れば避けるような素振りを見せる。

これには……怒ろうと思っても怒れない。



「何か理由がありそうで……怒れないんだよね」

「鳳条くんが更にポンコツになった理由?」

「……」



まぁ、そうだけど。

という言葉を飲み込んで、教室にいる煌人を見る。



「(あ、目が合っ、)」

「! ……っ」

「(逸らされた)」



一瞬だけ目が合ったけど、すぐに逸らされてしまった。



「(もう、どうしろっていうの……)」



煌人の事が分からなくて、頭を抱える日々。



晴れない私の顔は――



家で晩御飯を食べている時に、お父さんに指摘された。



「最近ため息が多いようだけど、どうしたの?凛」
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「!ため息、多い?」

「うん。お父さんは、凜の変化には鋭いからね」

「……そうなの?」

「その顔は疑ってるね?」



へへ、と愛想笑いを返してしまった。

だけど、お父さんは聞く気満々らしくて。

私はおずおずと、煌人の事を話題にする。



「お父さん……この前さ、学校で煌人と会ったでしょ?」

「うん。その鳳条くんが何か?」

「最近、避けられてるの。全然話してくれないし」

「……」



私の話に、お父さんは、ただ黙って頷いた。

「目も合わさないし一緒に帰ろうとも言わないし何考えているか分からないし」と息継ぎナシで喋る私の背中を、優しくポンポンと叩く。



「そうか、凛は鳳条くんの事が気になるんだね?」

「え……まぁ確かに。あんなにあからさまに避けられたんじゃ、気になるよ」

「(そういう意味の”気になる”じゃないんだけどなぁ)」



お父さんが「ふふ」と笑ったのを見て、私は頭に疑問符を浮かべた。

「何がおかしいの?」と聞く。

すると「ゴメン」のジェスチャーが返って来た。



「悩む凜が可愛いと思っただけだよ。ごめんね、親ばかで」
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「……それを親バカって言うの?」

「世間一般的にはね」

「ふ、ふーん」



照れくさくて、そっぽを向きながら返事をする。

だけどお父さんは、私の事は見て居なくて……



「鳳条くんも、そういう反応をしてくれたらいいんだけどね」



とポツリと言った。

所々しか聞こえなくて「なんて言った?」とお父さんに聞き返す。

確か「鳳条くん」って言ってたような……。



だけどお父さんは、優しい顔で笑うだけ。



「鳳条くんの事だけどね」

「うん」

「そっとしといてあげたら?」

「つまり、このままでいいって事?」

「そう」



鳳条くんが、今なにか考えている大事な時かもしれないしね――とお父さん。



「鳳条くんが答えを出すその日まで、凛は見守ってあげたらいいんだよ」
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「ほ、本当?」

「本当ほんと」

「(でもなぁ……)」

「ん?」

「……ううん。何でもない」



せっかくアドバイスしてくれたんだし……。

お父さんの言う通りにしてみようかな。



「(って、思うのになぁ……)」



だけど、私の顔は晴れない。

むしろ、ずっと曇ったまま。



「(お父さんに相談して、ちゃんと答えは出たはずなのに……。どうして胸の中が、モヤモヤするんだろう)」

「……」



自分の思っている事すべてを口には出来ない私。

そんな私を、お父さんがご飯を口に運びながら、静かに見ていたのだった。







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