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*煌人*3
しおりを挟むそして翌朝――
「いってきまーす」
「よ、凛」
「……ただいまー」
「待てまてまて!家に入ろうとすんな!」
凛がいつ家を出るか教えてくれなかったおかげで……。
かなり早い時間から、凛の家の前でスタンバイしていた俺。
するとスタンバイから二時間後。
朝の8時に、凜は姿を見せた。
「なんか煌人、汗かいてない?走ったの?」
「走ってねぇけど、太陽の光で干物になるところだった」
「ふ……意味がわかんない」
ふふと笑みを浮かべる凛。
どうやら待ち伏せしていた事は流してくれるみたいだ。
ふぅと安堵の息をついた後、気になった事を質問する。
「真さん、遅い出社なんだな」
「え?もうとっくに家を出てるよ?」
「は?」
え、なんでだ?
だって、俺が凜の家に来たの……朝の6時だぞ?
その間、家から誰も出てこなかったぞ?
「真さんの会社って、遠いの?」
「ううん。車で十分だって」
「(十分!それなのに、どうして早い時間に家を出てんだよ!)」
ますます真さんが怪しい。
怪し過ぎる……。
「……」
「煌人?どうしたの?」
「ん、いや……。何でもないよ」
ストーカーの被害に遭っている事は、凛自身も気づいている。その犯人が、本当は俺じゃない事くらい、凜も分かってるはずだ。
だとすると――今、凜は相当な不安を抱えているはず。
これ以上、俺が追い打ちをかけるわけにはいかない。
そう考えていると……
「そう言えば、私の家と煌人の家。車で十分の距離だったね。この前、執事さんに送ってもらって初めて知ったよ」
「ちょうど校区の境目だったな」
「意外に近いんだなって思って、嫌な気持ちになった」
「(なんで嫌な気持ち!?)」
明らかにショックな顔をして見せると、凛は「冗談だよ」とベッと舌を見せる。
可愛いかよ……!!と、目がハートになった俺。
その視界の隅に、
ガサッ
奴が、いた。
「! 凛!隠れろ!」
「え、なに?」
「いーから!家の中に入ってろ!!」
「ちょ、あき、」
バタン
ギャーギャー騒ぐ凛を無理やり引っ張り、家の中に戻す。
外から「鍵かけて大人しく待たねーと後でキスする」と言うと、途端に静かになった。
それはそれで腹立つな!
じゃなくて――
「さぁて、犯人のツラを拝みに行きますか」
握りこぶしで、手のひらをパンと叩く。
気合い充分、よし。
「こっちがお前の存在に気づいてるって、分かってないのか……。随分と能天気な事で」
住宅街に沿って街路樹が植えられている。
そのうちの一本に、とある影が潜んでいる。
「……いくぞ」
俺は後ろ足に力を込めて、思い切り蹴り出した。
そして、その影に向かって全力を出そうとした――
その時だった。
「はい、ストーカー確保~」
「……は?」
空振った俺の足はなすすべなく落下し、地面にドスッと尻もちをつく。地味に痛い。
が、今はそれどころじゃない。
だって、俺の目の前には、
「お前か。俺の可愛い娘を突け狙ってたストーカーは」
と恐ろしい形相で睨む真さんと、
「す、すみませんでした……もうしません……!」
気弱で軟弱そうな、メガネ男子が揃っていたからだ。
「えっと……」
どういう事?と頭を悩ます俺。
そんな俺を見て、真さんはニコリと笑った。
「三者面談の時に、先生からストーカーの事を聞いたけど、その時は既に犯人の目星をつけていてね。だけど確実な証拠が欲しくて、今日みたいに捕まえられる日を待ってたんだ」
「ま、真さんがストーカーじゃねぇの……?」
「へ、俺?」
素っ頓狂な声を出して、首を傾げた真さん。
次には大きな声で「あっはっは!」と腹を抱えて笑った。
「俺が凛のストーカーだって?勘違いも甚だしいね!」
「で、でも昨日、帰る凜を見てただろ!」
「そうだけどね」
言いながら、真さんはどこから出したか分からないロープで犯人を縛っていた。
犯人を縛って、そして蹴り転がした真さん。
その後――俺と向かい合い、今まで見た事ない真剣な表情になる。
「俺がストーキングしていたのは、君だよ。鳳条煌人くん」
「……は?俺?」
「そう。君だ」
訳が分からなくて、ポカンと口を開ける俺。
そんな俺を見て「鳳条の跡取り息子が、こんなに勘が冴えなくて大丈夫なのかな」と真さんが言いながら、見下した目で俺を見る。
「どういうことか説明しろ……」
「煌人くんの”自分で考えても無駄と悟り、自ら折れてすぐに情報を貰おうとする”、その姿勢は悪くない。でも、それじゃあゼロ点だね」
「ゼロ点……?」
「俺はね、君のご両親から言いつかった命で動いているんだ。
俺は――鳳条社長と副社長の秘書の一人だよ」
「!」
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