大嫌いなキミに愛をささやく日

またり鈴春

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「ね~凛。あんたの守護神が、最近は破壊神になってきてるよ?どうする?」
「泡音ちゃん……言っておくけど、煌人は元から破壊神だよ」

「そう言わずに。残念な鳳条くんが皆に知られてしまう前に、何か手を打っておいたら?」
「……」


 少し考えた後、ブンブンと首を振る。


「そこまでする義理はないもん」
「あらまあ……」


 煌人とケンカして、数日が経った。
「釣り合わない」の意味をはき違えた煌人とは、まだ仲直りできていない。
 一方的に勘違いして勝手に失恋した煌人と、誤解を解こうと思っても上手くいかない私。そんな二人が話をする機会は、あの日を境に一気に減った。というか、ほぼ口をきいていない。


「だいたい、ケンカの内容も凛たちらしいっちゃ、らしいけど……」
「煌人と一緒にしないで。私、煌人から何回も”バカ”って言われたんだよ?」
「(そんな小さな事を、いつまでも根に持つ凛も、充分鳳条くんと同じ土俵に立てるけどね)」


 泡音ちゃんが心の中でそう思っているとは全く知らない私は、離れた席で給食を食べる煌人を見る。
 すると泡音ちゃんが「そもそも」と疑問を口にした。


「凛は鳳条くんに、いつ告白の返事をするの?そして、何て返事するの?」
「……実は、ついこの前まで、煌人に告白をされていた事を忘れていて」

「罪な女! そして可哀想な鳳条くん……!」
「うっ……」


 それは確かに、悪いとは思ってるけど……。


「煌人があまりにいつも通りだから、煌人が私を好きって事を、つい忘れちゃうの」
「……それはさ」


 お皿の上に乗ったじゃがいもに箸を突きさす泡音ちゃん。お行儀悪い、と言えないまま、私は泡音ちゃんの言葉を待った。


「凛が変に気を遣わないように、わざと鳳条くんがいつも通り接してくれてるんじゃないの?」
「……え?」

「だって、あの紳士な鳳条くんだよ?女子に気を遣わせるなんて、絶対にしないでしょ。それが好きな人へなら、なおさら」
「そう、なのかな……」


 チラリと、もう一度だけ煌人を見る。私の目に、煌人はいつも通りに見える……のだけど。どうやら、それは張りぼてらしい。


「あ、鳳条くん! それ、私のお皿だよ?」
「うそ、ごめん!あー、やちゃった……」


 隣の人のお皿を奪う失敗を犯した煌人。ため息をついて、申し訳なさそうに女子を見た。


「ごめんね、すぐ取り替えてくるよ。お皿、余ってたかな?」
「い、いいよ!むしろこのまま、」
「ん?」

「(いや、このままでいいわけないでしょ……。しっかりして、女子!)」


 煌人には聞こえなかった女子の声が、ガッツリ聞こえた私。
 これ以上ふぬけた煌人を見てられなくて、ガタリと席を立つ。そして教卓に並べてある余ったお皿におかずをついで、煌人たちの席に急いだ。


「煌人、これ」
「凛。お前、俺のために……?」
「(あ、しまった)」


 ここで煌人を喜ばせると、後々面倒なことになりそう。なので、早めに先手を打っておく。


「女の子に、煌人が摘まんだお皿を渡すわけにはいかないでしょ」
「あ、そうだよな。女の子のためだよな……」


 語尾に「どうせ俺のことなんて」と聞こえたけど、スルーしよう。これ以上関わると厄介そうだし、早めに退散するに限る。


「じゃあ。次は気を付けてよね」


 私の言葉が全く耳に入っていなかった煌人をチラリと見ると、隣にいた女子と目が合った。
 そして――


「……」
「っ!」


 冷たい視線と、目が合った。
 それは一切の遠慮なく、真っすぐ私に向かっていて……。私はあの女子から嫌われていると、簡単に分かってしまった。


「(煌人の事なんて、やっぱり放っておけば良かった……)」


 ガタッ


「お疲れ様~どうだった?守護神は」
「……」

「凛?」
「(あの子の顔が、頭から離れない)」


 余計な事をしないで――という私への批判。
……やっちゃった。お節介が過ぎたんだ。小学生の頃、みんなから頼られていたから、名残で体が動いちゃった。


「(次からは気を付けよう……)」


「ふぅ」とため息をつく。すると泡音ちゃんが「大丈夫?」と私を覗き込んだ。


「ありがとう。大丈夫」
「そう? ならいいんだけど……あ、そう言えば。今日もナル先輩と一緒に帰るの?」


 給食の続きを食べながら「うん」と返事をする。すると泡音ちゃんの顔が、ぐにゃりと歪んだ。気に食わない、と言わんばかりの表情だ。


「たぶん鳳条くんが破壊神になってるのってさ、ナル先輩も原因の一つだよね」
「え、なんでナル先輩?」


 実はナル先輩とは、あれからも、ずっと一緒に帰っている。「一緒に帰るのは今日まで」とナル先輩が言わないし、私から言うのは悪いかなって思って……。


「一緒に帰る期間、決めた方がいい?」
「むしろ、今日限りにした方がいい。鳳条くんのためにも」
「え、今日?」


 それは急すぎるし、何だかナル先輩に申し訳ない。ナル先輩が、私と帰るのが楽しいと思っているかは、分からないけれど。


「ナル先輩も”ここまで”って期間を言いにくいのかもしれないし。凛から提案してみたら?」
「うん、そうしてみる」

「それに、付き合ってもない男女が二人きりでずっと一緒に帰るのも、変な話だしね」
「(男女二人きり……)」


 煌人に告白された日の事を思い出す。傘をわざと忘れたと、そう言った煌人。
 結局。
 私の傘を煌人が持って、煌人の隣に私が並んだ。狭い傘の下、二人の肩が何度もぶつかったのを覚えている。靴から跳ねる泥水も、なぜか気にならなかったっけ。
 あれも、男女二人きり。ていうことは「変な話」なのかな?


「あの日……私は特別、イヤとは思わなかったな」
「どした?いきなり」
「……ううん。何でもない」


 向こうの方で、今度は煌人が牛乳を零している。


「わー!ごめん!零した!」
「(何やってんだか……)」


 見たくなくても見えちゃう光景って、すごく面倒だ。来年こそは違うクラスになりますようにと、まだ六月の今日、新年度への思いを早々にはせる。


「あ、鳳条くん。ここ濡れてるよ?」
「ほんとだ。平気だよ、すぐ乾く」
「ダメ。牛乳は放っておくと臭くなるから」


 そう言って女子は煌人のシャツを、自分のハンカチで拭く。煌人は「ごめんね」と言いながら、申し訳なさそうに女子を見ていた。対して女子は……嬉しそうに頬を赤く染め、煌人を見ている。

 モヤッ


「なんか、見てられない」


 私がポツリと呟いたのを聞いて、なぜか泡音ちゃんは笑みを浮かべる。


「ねぇ凛、それはどういう意味で“見てられない”の?」
「どういうって、何が?」


 私の言葉を聞いて、泡音ちゃんが「まだ自覚ナシか」と呟く。その間も煌人たちを見ないように意識してるのに、彼らは視界の端にバッチリ写ってくる。


「ほら、もう臭くないよ!」
「本当だ、ありがとうね」
「どういたしましてっ」

「……」


 無言のまま、私はスッと視線を逸らした。教室の騒々しい声だけを聞きたくて、一度だけ深呼吸をする。


「はぁ~……本当、」


 早くクラス替えしたい、なんて。
 私にしてはしつこいくらい、何度も何度も同じことを思った。
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