大嫌いなキミに愛をささやく日

またり鈴春

文字の大きさ
上 下
11 / 40

ハートに赤色を注ぐ

しおりを挟む
「ね~凛。あんたの守護神が、最近は破壊神になってきてるよ?どうする?」
「泡音ちゃん……言っておくけど、煌人は元から破壊神だよ」

「そう言わずに。残念な鳳条くんが皆に知られてしまう前に、何か手を打っておいたら?」
「……」


 少し考えた後、ブンブンと首を振る。


「そこまでする義理はないもん」
「あらまあ……」


 煌人とケンカして、数日が経った。
「釣り合わない」の意味をはき違えた煌人とは、まだ仲直りできていない。
 一方的に勘違いして勝手に失恋した煌人と、誤解を解こうと思っても上手くいかない私。そんな二人が話をする機会は、あの日を境に一気に減った。というか、ほぼ口をきいていない。


「だいたい、ケンカの内容も凛たちらしいっちゃ、らしいけど……」
「煌人と一緒にしないで。私、煌人から何回も”バカ”って言われたんだよ?」
「(そんな小さな事を、いつまでも根に持つ凛も、充分鳳条くんと同じ土俵に立てるけどね)」


 泡音ちゃんが心の中でそう思っているとは全く知らない私は、離れた席で給食を食べる煌人を見る。
 すると泡音ちゃんが「そもそも」と疑問を口にした。


「凛は鳳条くんに、いつ告白の返事をするの?そして、何て返事するの?」
「……実は、ついこの前まで、煌人に告白をされていた事を忘れていて」

「罪な女! そして可哀想な鳳条くん……!」
「うっ……」


 それは確かに、悪いとは思ってるけど……。


「煌人があまりにいつも通りだから、煌人が私を好きって事を、つい忘れちゃうの」
「……それはさ」


 お皿の上に乗ったじゃがいもに箸を突きさす泡音ちゃん。お行儀悪い、と言えないまま、私は泡音ちゃんの言葉を待った。


「凛が変に気を遣わないように、わざと鳳条くんがいつも通り接してくれてるんじゃないの?」
「……え?」

「だって、あの紳士な鳳条くんだよ?女子に気を遣わせるなんて、絶対にしないでしょ。それが好きな人へなら、なおさら」
「そう、なのかな……」


 チラリと、もう一度だけ煌人を見る。私の目に、煌人はいつも通りに見える……のだけど。どうやら、それは張りぼてらしい。


「あ、鳳条くん! それ、私のお皿だよ?」
「うそ、ごめん!あー、やちゃった……」


 隣の人のお皿を奪う失敗を犯した煌人。ため息をついて、申し訳なさそうに女子を見た。


「ごめんね、すぐ取り替えてくるよ。お皿、余ってたかな?」
「い、いいよ!むしろこのまま、」
「ん?」

「(いや、このままでいいわけないでしょ……。しっかりして、女子!)」


 煌人には聞こえなかった女子の声が、ガッツリ聞こえた私。
 これ以上ふぬけた煌人を見てられなくて、ガタリと席を立つ。そして教卓に並べてある余ったお皿におかずをついで、煌人たちの席に急いだ。


「煌人、これ」
「凛。お前、俺のために……?」
「(あ、しまった)」


 ここで煌人を喜ばせると、後々面倒なことになりそう。なので、早めに先手を打っておく。


「女の子に、煌人が摘まんだお皿を渡すわけにはいかないでしょ」
「あ、そうだよな。女の子のためだよな……」


 語尾に「どうせ俺のことなんて」と聞こえたけど、スルーしよう。これ以上関わると厄介そうだし、早めに退散するに限る。


「じゃあ。次は気を付けてよね」


 私の言葉が全く耳に入っていなかった煌人をチラリと見ると、隣にいた女子と目が合った。
 そして――


「……」
「っ!」


 冷たい視線と、目が合った。
 それは一切の遠慮なく、真っすぐ私に向かっていて……。私はあの女子から嫌われていると、簡単に分かってしまった。


「(煌人の事なんて、やっぱり放っておけば良かった……)」


 ガタッ


「お疲れ様~どうだった?守護神は」
「……」

「凛?」
「(あの子の顔が、頭から離れない)」


 余計な事をしないで――という私への批判。
……やっちゃった。お節介が過ぎたんだ。小学生の頃、みんなから頼られていたから、名残で体が動いちゃった。


「(次からは気を付けよう……)」


「ふぅ」とため息をつく。すると泡音ちゃんが「大丈夫?」と私を覗き込んだ。


「ありがとう。大丈夫」
「そう? ならいいんだけど……あ、そう言えば。今日もナル先輩と一緒に帰るの?」


 給食の続きを食べながら「うん」と返事をする。すると泡音ちゃんの顔が、ぐにゃりと歪んだ。気に食わない、と言わんばかりの表情だ。


「たぶん鳳条くんが破壊神になってるのってさ、ナル先輩も原因の一つだよね」
「え、なんでナル先輩?」


 実はナル先輩とは、あれからも、ずっと一緒に帰っている。「一緒に帰るのは今日まで」とナル先輩が言わないし、私から言うのは悪いかなって思って……。


「一緒に帰る期間、決めた方がいい?」
「むしろ、今日限りにした方がいい。鳳条くんのためにも」
「え、今日?」


 それは急すぎるし、何だかナル先輩に申し訳ない。ナル先輩が、私と帰るのが楽しいと思っているかは、分からないけれど。


「ナル先輩も”ここまで”って期間を言いにくいのかもしれないし。凛から提案してみたら?」
「うん、そうしてみる」

「それに、付き合ってもない男女が二人きりでずっと一緒に帰るのも、変な話だしね」
「(男女二人きり……)」


 煌人に告白された日の事を思い出す。傘をわざと忘れたと、そう言った煌人。
 結局。
 私の傘を煌人が持って、煌人の隣に私が並んだ。狭い傘の下、二人の肩が何度もぶつかったのを覚えている。靴から跳ねる泥水も、なぜか気にならなかったっけ。
 あれも、男女二人きり。ていうことは「変な話」なのかな?


「あの日……私は特別、イヤとは思わなかったな」
「どした?いきなり」
「……ううん。何でもない」


 向こうの方で、今度は煌人が牛乳を零している。


「わー!ごめん!零した!」
「(何やってんだか……)」


 見たくなくても見えちゃう光景って、すごく面倒だ。来年こそは違うクラスになりますようにと、まだ六月の今日、新年度への思いを早々にはせる。


「あ、鳳条くん。ここ濡れてるよ?」
「ほんとだ。平気だよ、すぐ乾く」
「ダメ。牛乳は放っておくと臭くなるから」


 そう言って女子は煌人のシャツを、自分のハンカチで拭く。煌人は「ごめんね」と言いながら、申し訳なさそうに女子を見ていた。対して女子は……嬉しそうに頬を赤く染め、煌人を見ている。

 モヤッ


「なんか、見てられない」


 私がポツリと呟いたのを聞いて、なぜか泡音ちゃんは笑みを浮かべる。


「ねぇ凛、それはどういう意味で“見てられない”の?」
「どういうって、何が?」


 私の言葉を聞いて、泡音ちゃんが「まだ自覚ナシか」と呟く。その間も煌人たちを見ないように意識してるのに、彼らは視界の端にバッチリ写ってくる。


「ほら、もう臭くないよ!」
「本当だ、ありがとうね」
「どういたしましてっ」

「……」


 無言のまま、私はスッと視線を逸らした。教室の騒々しい声だけを聞きたくて、一度だけ深呼吸をする。


「はぁ~……本当、」


 早くクラス替えしたい、なんて。
 私にしてはしつこいくらい、何度も何度も同じことを思った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

王女様は美しくわらいました

トネリコ
児童書・童話
   無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。  それはそれは美しい笑みでした。  「お前程の悪女はおるまいよ」  王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。  きたいの悪女は処刑されました 解説版

【完結】月夜のお茶会

佐倉穂波
児童書・童話
 数年に一度開催される「太陽と月の式典」。太陽の国のお姫様ルルは、招待状をもらい月の国で開かれる式典に赴きました。 第2回きずな児童書大賞にエントリーしました。宜しくお願いします。

【完結】アシュリンと魔法の絵本

秋月一花
児童書・童話
 田舎でくらしていたアシュリンは、家の掃除の手伝いをしている最中、なにかに呼ばれた気がして、使い魔の黒猫ノワールと一緒に地下へ向かう。  地下にはいろいろなものが置いてあり、アシュリンのもとにビュンっとなにかが飛んできた。  ぶつかることはなく、おそるおそる目を開けるとそこには本がぷかぷかと浮いていた。 「ほ、本がかってにうごいてるー!」 『ああ、やっと私のご主人さまにあえた! さぁあぁ、私とともに旅立とうではありませんか!』  と、アシュリンを旅に誘う。  どういうこと? とノワールに聞くと「説明するから、家族のもとにいこうか」と彼女をリビングにつれていった。  魔法の絵本を手に入れたアシュリンは、フォーサイス家の掟で旅立つことに。  アシュリンの夢と希望の冒険が、いま始まる! ※ほのぼの~ほんわかしたファンタジーです。 ※この小説は7万字完結予定の中編です。 ※表紙はあさぎ かな先生にいただいたファンアートです。

推しにおされて、すすむ恋

またり鈴春
児童書・童話
有名な動画配信グループ ≪Neo‐Flash≫ そのメンバーの一人が、私の姉 なんだけど… 「少しの間、私と入れ替わって!」 急きょ、姉の代わりを務めることに!? ≪Neo‐Flash≫メンバー ┈┈┈┈┈┈✦ ①ノア(綾瀬 玲) 「君、ステラじゃないよね?」 ②ヤタカ(森 武流) 「お泊り合宿の動画を撮るぞー」 ③リムチー(乙瀬 莉斗) 「楽しみだね、ステラ!」 ④ステラ(表&姉➤小鈴つむぎ、裏&妹➤ゆの) 「(ひぇええ……!)」 ✦┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ でも姉の代わりを頑張ろうとした矢先 なぜかノアにバレちゃった…! 「俺以外の奴らに、その顔は禁止」 「ゆのを知るのは、俺だけってことで」 密かに推していたノアの 裏の顔や私生活が見られるだけじゃなく お泊まりなんて… もう、キャパオーバーですっ!

かつて聖女は悪女と呼ばれていた

楪巴 (ゆずりは)
児童書・童話
「別に計算していたわけではないのよ」 この聖女、悪女よりもタチが悪い!? 悪魔の力で聖女に成り代わった悪女は、思い知ることになる。聖女がいかに優秀であったのかを――!! 聖女が華麗にざまぁします♪ ※ エブリスタさんの妄コン『変身』にて、大賞をいただきました……!!✨ ※ 悪女視点と聖女視点があります。 ※ 表紙絵は親友の朝美智晴さまに描いていただきました♪

氷鬼司のあやかし退治

桜桃-サクランボ-
児童書・童話
 日々、あやかしに追いかけられてしまう女子中学生、神崎詩織(かんざきしおり)。  氷鬼家の跡取りであり、天才と周りが認めているほどの実力がある男子中学生の氷鬼司(ひょうきつかさ)は、まだ、詩織が小さかった頃、あやかしに追いかけられていた時、顔に狐の面をつけ助けた。  これからは僕が君を守るよと、その時に約束する。  二人は一年くらいで別れることになってしまったが、二人が中学生になり再開。だが、詩織は自身を助けてくれた男の子が司とは知らない。  それでも、司はあやかしに追いかけられ続けている詩織を守る。  そんな時、カラス天狗が現れ、二人は命の危険にさらされてしまった。  狐面を付けた司を見た詩織は、過去の男の子の面影と重なる。  過去の約束は、二人をつなぎ止める素敵な約束。この約束が果たされた時、二人の想いはきっとつながる。  一人ぼっちだった詩織と、他人に興味なく冷たいと言われている司が繰り広げる、和風現代ファンタジーここに開幕!!

処理中です...