大嫌いなキミに愛をささやく日

またり鈴春

文字の大きさ
上 下
6 / 40

ライバルの嫉妬*煌人*2

しおりを挟む
――現在――


「なぁ凛、今日一緒に帰らねぇ?」
「ごめん、嫌」


 こんな塩対応。


「おい”嫌”はねーだろ。もっとなんか言い方が、」
「じゃあ無理」
「……」


 好きな女に「嫌」とか「無理」を連呼される俺って、どうなんだ。
 しかも凛はお構いなしに、俺から離れて教室を出て行くし。


「はぁ……」


 ひょっとしたら、俺の魅力は皆無なのか?
 今まで俺と仲良くしてくれた人たちも、単に俺が「鳳条」だったから?


「……なんか、どんどんマイナス思考になってる気がする」


 最近はネガティブになっている。
 そう、全ては凜の容赦ない発言のせいで。
 俺のメンタルは、現在進行形でだんだんと削れている。


「はぁ……」
「二回目のため息だけど大丈夫~?」
「え、」


 見ると、教室から出て行った凛にかわり「泡音ちゃん」という凜の友達が、その席に座っていた。


「泡音ちゃん、じゃん」
「すごい慣れ慣れしいね。さすが女子キラー」
「なんだよ女子キラーって」


 泡音ちゃんと話すのは、何気に初めてかもしれない。
 きっと凛は、泡音ちゃんに色々相談してるんだろうな。
 ん? 相談?
 凛って、俺の事をどんな風に相談してんだ?


「ねぇ泡音ちゃん、最近の凛の調子はどう?」
「見ての通り絶好調よ」
「違う、そうじゃなくて」


 凛が俺の事でワタワタしたり、悩んだりしてないかって事だよ――と聞くと、泡音ちゃんは「ん~」と目を瞑って記憶を思い出していた。
 そして「あ」と言って、わざとらしく手を叩く。


「最初の頃は悩んでたよ」
「え、どんな風に?」

「”今までライバル視してたから好意どころか敵意しかない”って」
「(まさかの敵意のみ!?)」


 何かにつけ、常に勝負をけしかけた俺も悪いけどさ……もっとこう、あるだろ。
 すると、泡音ちゃんが続ける。


「あとは”存在を抹殺しようと企んでた相手にまさか好かれてるなんて思わなかった”とも言ってたよ」
「アイツ俺を抹殺しようとしてたのかよ!」


 なんだよそれ、怖すぎ。
 ってか、アイツ本当に、俺を恋の対象として見てねーじゃん。
 全く心を揺さぶられてねーじゃん。


「(むしろ俺の方が揺さぶられてる……)」


 心のブランコが、風をきって、すごい角度でビュンビュンと揺れている。
 乗ってる俺を、落とさんとする勢いだ。


「はぁ……」
「あ~……えっと、」


 俺の落ち込み具合を見た泡音ちゃんが、手をヒラヒラさせて顔を覗き込む。


「ごめん、つい本当の事を話したけど、メンタル大丈夫?」
「何とかしがみついてる……」
「え、何に」


「はぁ」と四度目のため息をついた時。
 ふと、ある事に気づく。


「凛、遅くね? トイレだろ?」
「女子のトイレを勘付くもんじゃないよ鳳条くん。凛なら、さっき教室を出ていったじゃん」
「うん」


 それは見た。
 見た、けど……


「だから、もう帰ったって事」
「はあ!?」


 ガタンと椅子をひっくり返して立ち上がる俺に、泡音ちゃんは「ほら、あそこ」と窓の外を指さす。
 見ると、本当に凛が下校している真っ最中だった。
 しかも……


「校門にいた男に手を上げて、しかも一緒に帰ってるぞ?」
「うん。今日は先輩と一緒に帰るって言ってたからね」

「――先輩? 誰それ??」
「ちょ、マジな目をしないで鳳条くん」


 さっき決まったことらしくて、私も詳しくは知らないんだよ――と呑気に泡音ちゃんが喋る中。
 俺は自分の鞄に手をかけて、急いで教室を後にした。


「泡音ちゃん、ありがとね」


 その言葉を残して。
 ビュンと疾風のごとくいなくなった俺を見て、泡音ちゃんが一言だけ呟く。


「最後の一言で、多少残念な鳳条くんが全て消し飛ぶからズルいよねぇ。やっぱ女子キラーだわ」


 そんな褒め言葉のようなものを、泡音ちゃんが呟いていたとは知らない俺。
 下駄箱で靴に履き替え、かかとが中に納まりきらないまま、凛の後ろ姿を追いかけた。
 そして、そのこげ茶の長い髪にたどり着く。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

推しにおされて、すすむ恋

またり鈴春
児童書・童話
有名な動画配信グループ ≪Neo‐Flash≫ そのメンバーの一人が、私の姉 なんだけど… 「少しの間、私と入れ替わって!」 急きょ、姉の代わりを務めることに!? ≪Neo‐Flash≫メンバー ┈┈┈┈┈┈✦ ①ノア(綾瀬 玲) 「君、ステラじゃないよね?」 ②ヤタカ(森 武流) 「お泊り合宿の動画を撮るぞー」 ③リムチー(乙瀬 莉斗) 「楽しみだね、ステラ!」 ④ステラ(表&姉➤小鈴つむぎ、裏&妹➤ゆの) 「(ひぇええ……!)」 ✦┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ でも姉の代わりを頑張ろうとした矢先 なぜかノアにバレちゃった…! 「俺以外の奴らに、その顔は禁止」 「ゆのを知るのは、俺だけってことで」 密かに推していたノアの 裏の顔や私生活が見られるだけじゃなく お泊まりなんて… もう、キャパオーバーですっ!

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

【完結】月夜のお茶会

佐倉穂波
児童書・童話
 数年に一度開催される「太陽と月の式典」。太陽の国のお姫様ルルは、招待状をもらい月の国で開かれる式典に赴きました。 第2回きずな児童書大賞にエントリーしました。宜しくお願いします。

氷鬼司のあやかし退治

桜桃-サクランボ-
児童書・童話
 日々、あやかしに追いかけられてしまう女子中学生、神崎詩織(かんざきしおり)。  氷鬼家の跡取りであり、天才と周りが認めているほどの実力がある男子中学生の氷鬼司(ひょうきつかさ)は、まだ、詩織が小さかった頃、あやかしに追いかけられていた時、顔に狐の面をつけ助けた。  これからは僕が君を守るよと、その時に約束する。  二人は一年くらいで別れることになってしまったが、二人が中学生になり再開。だが、詩織は自身を助けてくれた男の子が司とは知らない。  それでも、司はあやかしに追いかけられ続けている詩織を守る。  そんな時、カラス天狗が現れ、二人は命の危険にさらされてしまった。  狐面を付けた司を見た詩織は、過去の男の子の面影と重なる。  過去の約束は、二人をつなぎ止める素敵な約束。この約束が果たされた時、二人の想いはきっとつながる。  一人ぼっちだった詩織と、他人に興味なく冷たいと言われている司が繰り広げる、和風現代ファンタジーここに開幕!!

王女様は美しくわらいました

トネリコ
児童書・童話
   無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。  それはそれは美しい笑みでした。  「お前程の悪女はおるまいよ」  王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。  きたいの悪女は処刑されました 解説版

瑠璃の姫君と鉄黒の騎士

石河 翠
児童書・童話
可愛いフェリシアはひとりぼっち。部屋の中に閉じ込められ、放置されています。彼女の楽しみは、窓の隙間から空を眺めながら歌うことだけ。 そんなある日フェリシアは、貧しい身なりの男の子にさらわれてしまいました。彼は本来自分が受け取るべきだった幸せを、フェリシアが台無しにしたのだと責め立てます。 突然のことに困惑しつつも、男の子のためにできることはないかと悩んだあげく、彼女は一本の羽を渡すことに決めました。 大好きな友達に似た男の子に笑ってほしい、ただその一心で。けれどそれは、彼女の命を削る行為で……。 記憶を失くしたヒロインと、幸せになりたいヒーローの物語。ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:249286)をお借りしています。

マサオの三輪車

よん
児童書・童話
Angel meets Boy. ゾゾとマサオと……もう一人の物語。

処理中です...