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ライバルの嫉妬*煌人*
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思えば俺は、かなり恵まれて生まれた。
顔も頭もスポーツも、やる事すべて人より上をいき、常に目立っていた。
そんな俺を、皆は色眼鏡で見たもんだ。
『君が鳳条グループのご子息か』
『優秀な生徒を持って先生嬉しいわ』
『鳳条~お前の家でゲームさせろよー』
人に頼られるのは嫌いじゃない。
嫌いじゃない。が、少し息苦しい。
皆は俺を見ているようで、しかし、その目に写っているのは「鳳条」の看板だ。
仮面のように皆は同じ笑みを浮かべ、俺に近づいて利用する。そんな現実を、俺は小さい頃から何度も目の当たりにしてきた。
「鳳条」という名を持っているせいで、良くも悪くも――俺の人生、振り子のように絶え間なく揺れている。
そのスピードについていくのがしんどくて、俺は早々に「穏やかな人生」を諦めた。皆が俺に興味を持つのは仕方ないことだ、社長の息子なんだから――と。
自分の人生を「鳳条」へ捧げると同時に、俺は「鳳条」を少しずつ嫌っていった。
あまり大きな声では言えないけど、反抗期みたいなもん。
けど、まぁ。
反抗期とは言うけど、別に誰が悪いというわけじゃない。
言うなれば、俺が完璧に開き直れないのが悪いんだ。
きっとそうだ…………って。
アイツに出会うまで、俺はそんな事を思いながら生きていた。
――中学の入学式から一週間後――
『この前の小テスト返すわよー。鳳条くんが最高得点でした。皆も頑張ってね~』
『ありがとうございます(ニコッ)』
別に対して嬉しくもない先生の言葉。
それを聞き流す俺……のはずが、
『……チッ』
『(ん?)』
俺の後ろの席の奴が、すごい顔で舌打ちをした。
俺を見ながら。
『(今の……俺への舌打ちだよな?
え、なに?なんで?)』
何か悪い事した?と焦る俺の手には、百点満点のテスト用紙。
後ろの席の「三田」という女子は、穴が開くほどこの用紙を見ていた。
『み、三田さんは、テストどうだった?』
『さぁ』
『(さぁっ?)』
渾身の勇気を振り絞って話し掛けたのに、それだけかよ!
しかも、お前の手にテスト用紙あんじゃねーか。点数を教えろよな……。
『三田さん、あのさ、』
『ごめん、近寄らないで。ちょっと無理』
『(近寄るな!?無理!?)』
ポーカーフェイスが代名詞の俺も、ここでついに動揺し始める。
だって、おかしいだろ。
俺を見れば皆がニコニコ仮面をつけて寄ってくるのに、コイツときたら、俺を全力で拒否するんだぞ?
そんな特殊なヤツ、この世の中にいたのかよ。
『……』
(宇宙人を見たような驚き)
『なに?見られるの不快だから止めてくれない?』
『(ふ、不快!?)』
『あと、前が見えないから早く座って』
『(遠回しに邪魔って言いやがった!)』
何だコイツ。俺に一切の容赦がねぇ。
全力で「俺」にぶつかってくんじゃん。
『な、なぁ、』
まさか、コイツ……。
『三田さんって俺の事を嫌いだよな?』
『!!』
『(今、)』
「なぜそれを!?」って思ったな。
三田の顔に「図星」って書いてある。
『……ぷっ、』
なんだコイツ、面白すぎるだろ。
『あっはは!なんだお前、おもしれー』
『……褒め言葉じゃないなら侮辱罪で訴えるからね』
『褒めてる褒めてる』
『言い方からして信用できない』
本心だよ。褒めてるよ。
だって俺、こんな面白い奴に、今まで会った事ねーもん。
『なぁ。次のテストで俺の方が点数が良かったら、俺の事を名前で呼んで』
『え、なんで?』
『そんで、俺もお前の事を名前で呼ぶから』
『なんで!?』
その時に初めて、三田の驚いた顔を見る。
さっきまでは怒った顔。
今はめんどくさそうな顔。
クルクル変わる三田の表情、見ていて全く飽きない。
『(ふ、変な奴)』
初めこそ、飼育員のような目で、三田を観察していた俺。
だけど……その後のテストで俺が賭けに勝ち、お互いを名前で呼ぶようになった時。
あの時から、俺の「凛を見る目」は変わった。
『俺の方がテストの点数良かったな。じゃあ、約束通り。俺のこと名前で呼んで』
『~っ』
『ほら、早く』
『あ、あ、き……』
三田には荷が重かったか?と余裕をぶっこいて高みの見物をしていた俺。
だけど、その一秒後に。
俺の世界はひっくり返る。
『あ、煌人……っ』
『(あ、やべ)』(単純)
照れて顔が真っ赤になって、震えながら俺の名前を呼んでくれた凛に心惹かれてしまって。
その後は、ご推察どおり。
気づけば、俺はいつも、目で凜を追っていた。
『なぁ凛、ここ教えて』
『自分で分かるくせに。そういうのスゴイ腹立つ、陰湿』
『すご。1を言うと10の罵声が返ってくるじゃん』
罵声のみなら、スラスラ喋ってくれる凛。
じゃあ、これならどうなんだよ。
『俺がお前を好きって言ったら、どうする?』
『…………へ?』
いつも怒った顔しか見せない凜の、最上級に照れた顔。
困った顔、動揺する顔。
『……っ、』
ヤバい、どうしよう。
全部ぜんぶ「やみつき」だ。
『鳳条くん、好きです……っ!』
『ごめんね、だけどありがとう』
告白を断る時に思っていたのは、
「凛に言ってもらいたいなぁ」って事。
『鳳条くん、下の名前で呼んでもいい?』
『ごめんね、今まで通りがいいかな』
どれほど可愛い女子に言い寄られようと、俺が思うのは「名前で呼んでほしいのは凛だけ」とか。
『どれだけ凜の事が好きなんだよ、俺……!』
自分のチョロさに落ち込むこともあった。というか、落ち込まない理由がない。
どんどん凜にはまっていく俺とは反対に、凛は全く変わらず俺を敵視してるんだから。
だけど――
たくさんの女の子を悲しませても尚、俺は凜から目が離せなくって。
どうしても、その口から罵声じゃない甘い言葉が聞きたくって。
凜はいつ俺の方を向いてくれるのかって、気づけばそんな事ばかり考えている。
それなのに、当の本人ときたら……。
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