大嫌いなキミに愛をささやく日

またり鈴春

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過保護なライバル2

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 ガラッ


「おはよー。さぁ皆、宿題はやって来たかー?」
「(あ)」


 教室に入って来た先生の顔を見て、手元にあるプリントを見る。そして全身から汗が出た。
 だって、私の宿題プリントは真っ白。
 勉強に命を注いでいる私が、まさかの――
 宿題に何も手をつけていなかった。


「じゃあ三田。最初の問題の答えを言ってくれー」
「(よりにもよって、当てられた!)」


 しかも算数。文章問題。
 文章を読む時間も、式を思いつく時間も。
 ましてや計算して正しい回答を出す冷静さも。
 今の私には、何一つない。


「わ、わかりません……」
「三田が分からない?そんなに難しい問題だったか?」
「いえ、そうじゃなくて……」


 私がやってこなかったのがいけなかったんです――
 それだけの事を、どうしてか言えなかった。


「(先生が困った顔をしてるし、皆も私を見ている。どうしよう。何て言おう、いや、何か言わなきゃ…!)」


 緊張で手が震えて、顔が自然と下がっていく。
 先生も「三田?」と心配そうな顔つきになってきた。


「(何か言わないと、何か、何か……!)」


 完全に頭が真っ白になった、その時だった。

 ガタッ


「先生ー、三田さん調子が悪いので、保健室に連れていきます」
「(え……?)」


 小さく震える私を隠すように、煌人がガタリを席を立った。
 そしてじんわりと汗の出た私の背中をポンと叩いて、教室のドアまで歩くよう促す。


「え、でも、」
「いいから」


 私の耳元で、煌人が小声で喋る。
 かと思いきや、力強い手に引っ張られてしまい、移動せざるを得なくなった。


「三田、大丈夫か?あまり無理するなよ?じゃあ鳳条、頼んだからな」
「はい、もちろん」


 ニコッと笑った煌人に、女子の黄色い声が湧く。
 だけど私は……


「凛、行くよ」
「……っ」


 その黄色い歓声は、一切聞こえなくて……。
 目の前に移る煌人の広い背中を、ただ苦い顔で見つめていた。





「まさか誰もいないなんてなー」
「”すぐ戻ってきます”ってメモ書きあるよ」
「マジだ」


 保健室に到着した私たちは、先生不在の状況に少し困っていた。
 半ば勢いで教室を出ただけあって、私たちだけで保健室にいてもやることがないからだ。


「あ、あ~えっと……」


 ゴホン、と。
 煌人がわざとらしく咳きこむ。


「とりあえず凛、ベッドに横になったら?顔色悪いし」
「いい。いま横になったら何か出てきそうだし」

「何かってなんだよ」
「私にとって嫌なモノ……」


 私の言葉に、煌人は笑った。
 そして「出せばいんじゃね?」と言いながら、近くにあったパイプ椅子に座る。


「俺の予想だけど、俺が告白しちゃったせーで混乱してんだろ」
「私は……正常だと思うんだけど、」
「正常なヤツは、床に体育座りなんかしねぇよ」


 あ、本当だ。
 いつの間にか保健室の隅で、体育座りしてた。
 立ち上がって、パンパンとスカートを叩く。よかった、綺麗に埃が取れた。


「ねぇ煌人。さっき私に引いたよね?」
「は? 俺が? 凜に?」
「うん。さっきの授業で……」


 私が宿題のプリントをやっていなくて、問題に答えられなかった時。
 先生に「宿題をするのを忘れました」って事実を言わずに「分かりません」で誤魔化した事。


「宿題をやってないから答えが分からないって……素直に言えなかったの。あれは、良くなかったな」
「凛……」


 はぁ、と。ため息が出る。
 そして立ったまま、変わらず保健室の隅で小さくなった。


「変にプライド高い私が、たまにイヤになる」


 小さな小さな声で、ポツリと漏らした声。
 その声は本当に小さくて聞こえなかったはずなのに、煌人は「ふぅん」と返事をした。


「俺からしてみればさ。今、俺の前で素直に話す凜の事を、俺はすげーと思うけど?」
「……どういう?」


 首を傾げる私に、いつの間にか私に近づいていた煌人。
 そして、ポケットから一枚の紙を出した。
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